33歳、地方の坊っちゃま

文字数 1,211文字

2021年8月。彼女が出張先で見つけた「坊っちゃま」は身長はそこまで高くないが、顔が小さく全身のバランスが良く、スラッとしている。スーツの趣味も悪くない。既成服ではなく、少なくともオーダーメイドであることが見て分かったそう。そして何より、甘やかされて育った空気が彼から溢れんばかりに出ていた。彼女の好みである。

彼女曰く、こういう男性は、"普通"を嫌い、"普通"を好む。
既存社会のルールを必要以上に重んじ、相手に要求し、自分の基準にあってないと除外する。
彼は典型的な後継思考であり、彼にもその自覚があった。

そして、彼女はそんな彼が自分の手元に欲しくて堪らなかったのだ。

1度目の出張期間は1週間。どうにか食事に誘ってもらいたかったが、見向きもされなかったと彼女は言う。しかし、最終日に空港まで送ってくれた時点で「ああ、彼はもう少しすれば私を見てくれる」と確信したんだとか。

彼女は出張から帰ると、例の上司にお願いし、なんと、3ヶ月間の出張を可能にした。
その時点で、彼に無邪気に接触し、第一印象を植え付ける作業は完了していたのだろう。

彼女の思い通り長期出張が始まり、彼の横の席で仕事を始めた。
意識していたことは2つ。香りと、姿勢だけ。とにかく、自分が普通であることを自覚している彼女はこの2つがどれだけ周りに印象を植え付けるのか、高校生の時から私に説いていた。

そして彼はまんまと彼女の誘惑に惑わされた。
一方で婚約者がいる彼からすると、この時点では"結婚前に遊ぶ女性ができた"と、短期出張でいなくなる前提を思えばもってこいの展開である。

彼女も3ヶ月間でどうこうなろうとは思っていない。
ただ、彼女のゴールは「旅行」に誘わせること。そして、このゴールも見事に達成させた。

彼女が東京へ帰ると、思惑通り彼からは電話がくるようになり、写真もくるようになり、彼はすっかり、婚約者を置いて、彼女のことを好きになりかけていた。

次に彼女は上司に、半年間以上の長期出張を依頼し、またしても可能にした。
そう、彼女の驚くべき点は、今まで願望が届かなかったことがないのだ。
それっぽく、情熱を交え、まるので誰かのために彼女がそういった行動をしているのだ、と思わせるのも彼女の特技なのだろう。そしてこの時点では彼女も本気で心の底からそう"思っている"のだ。

だが、そこで彼の会社と仕事上のトラブルが発生し、お互いの素性がバレた。
彼は33歳と彼女より5歳離れてるが、どうにも思考が子供なので、どちらも冷静に話すことができず、遠距離で喧嘩してしまったのだ。

通常ならここで終わりである。

だが、彼女が壊れていくのはここからで、諦めきれず、逆効果と分かっているのに彼に好かれようと努力する。この時点で半年間の初頭効果は切れているのに。

そしていつも通り彼からの印象は180度変わり、嫌われるのだ。

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