第3話

文字数 693文字

夢の中のボクは、まだそれを知らない。
これから苦しんでもがいて、絶望を味わうだろう。

もしも今のボクが歩いているボクに未来を伝えることができたとしても、その絶望に向かって行くだろう。

知らないままではいられないから。
そして、そうしないと変われないから。

もがいて苦しんで、考える。
そして行動をする。

そうしないと、わからないこともある。
二度とやりたくないけれど、必要だったのだろう。

夢の中のボクは、誰もいない道を、ずっと歩いている。
まだまだ歩かなければならなくて、この調子だと、家に着くのは夜になる。

いつの間にか、白い建物のあった道は抜けていた。
ずっと歩いていて、もう疲れていて、でも、歩くのをやめない。

待っている人が居るから。

歩いて歩いて、黙々と歩いて。
辺りが少しずつ暗くなってくる。

ボクはそこで足を止める。

道の先に、街らしき建物が見えた。
遺跡のようにも見えるけれど、遺跡と呼ばれる前の、人々が暮らしていた建物。

もう行くことが叶わない場所。でも夢の中のボクはそこにいる。
行きたいと、どんなに願っても、もう行けない。

夕闇の前のオレンジ色の光が辺りを照らす。
ボクはその景色を観ているのが嫌いではなかった。

皆が(いや)だと言っていても
ボクは(きら)いではなかった。

その先の消えそうな、誰かが灯した光の中に
大切な人がいることを知っていたから。

宝物のような人たちがそこに居る。
いい所も悪い所も、全てが愛おしい。

ボクは歩いているボクの後ろ姿を見ていた。
もう身体は宙に浮いている。

この広い世界で、ボクはとてもちっぽけだった。
小さな小さなボクが、道の向こうへと消えて行った。

さようなら
前世(むかし)のボク。

そして
ボクは夢から覚める。


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