第1話

文字数 742文字

小さい頃に何度も見た夢だ。

日本ではなくて外国っぽい感じ。
レンガとか石とか土の印象がある場所。

自分の周り以外は、何もないような砂漠に思えた。
世界の果て(おわり)にいるかのような荒れ地。

誰もいない
荒れ地だった。

日差しが強くて、雨のイメージがあまりない。
皮のサンダル。足元の乾いた赤い土。

風に吹かれて、砂が舞う。
それを避けるためなのか、フードをかぶって赤い道を歩いている。

しばらく行くと、道の両側に白い建物が現れる。
建物の中には誰も居ない。

誰も居ない荒地の町。
そこをひとりで、黙々と歩いていた。

どこに行くのかボクは知らない。
でも、歩いているボクは、どこかに行こうとしていた。

夢を見ているボクは「どこに行こうとしているんだ?」と聞きたいけれど、歩いているボクはそれがわからない。話しかけても通り過ぎる感じではなくて、いる次元が違っていた。

見えている景色は夢の中のボクが見ている景色。
今、ここにいるボクが、夢の中にいるボクの中に入っている。

だから会話はできないし
夢の中にいるボクの顔はわからない。

ボクはそのボクを操ることはできない。
勝手に進んでいる。

下を向いて、歩いている道を見ている。
ずっと歩いていて、疲れているのがわかった。

どこに行こうとしているのか、歩いているボクは知っている。
でも、夢を見ているボクにはわからない。

もう、知る必要がないからかもしれない。
あまりに昔すぎて、今のボクにはわからない。

でも、そこがもう存在しない景色だということはわかる。
夢を見ているボクは、そこがもう二度と行けない場所だということを知っていた。

どこだかわからないのに、そのことだけはわかった。
懐かしい場所だった。

良いも悪いもある、ボクが長いこと居た場所。
ボクにとって、とても懐かしい場所。

そこは、何もない荒れた地だった。









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