共感

文字数 7,761文字

ところで、この物語の主人公でぼくの恩師でもある中村先生は、すでにこの世にはおられない。その先生とぼくが知り合ったのは、今から十五年前のことである。ぼくは今、先生の妹の葉子さんと、先生が長年続けてこられた研究の保全と管理に取組んでいる。もともと、ぼくは自然科学専門雑誌の編集員であったが、ひょんなきっかけで、先生の住居と研究室を兼ねたこの家に、アシスタントとして住み込むようになった。実家も都心のベッドタウンにあり、田舎暮らしとは無縁のぼくを、先生も葉子さんも辛抱強く、温かく見守ってくれた。なんせそれまでは、一度も鍬を握ったこともないような初心者だったのだ。いまでは、自他共に認めるナチュラリストである。
話に戻ると、そんな敬愛する先生が、存命中に一度だけ、泥酔して帰られたことがあった。それは三十年ぶりに中学の同窓会に出席された時のこと。いつも、九時に就寝される先生が、家に戻ってこられたのは十時半を回っていた。家の前にタクシーが止まり、呼び鈴がなった。ぼくはちょうど床に入り、うとうとしていた。『こんな時間に誰だろう』と飛び起きて、急いで階段を降りると、葉子さんもカーディガンをはおり「誰なの、こんな遅くに」と眠い目をこすりながら、続いてでてきた。玄関を開けると、スーツ姿の男性が先生を肩に担ぎ、立っていた。そして「夜遅くにすまないね。驚かせちゃって。葉子ちゃん、ぼくのこと覚えてる」と白髪交じりの大柄な男性が、担いだ状態のままで軽く会釈した。彼女は泥酔している兄を見て、状況を察知し「どうもすみません。ご親切にわざわざ家まで送ってくださって。取りあえず、家にお上がりください」とお辞儀をした。そして彼女が、先生を肩に担ごうとその手を伸ばした瞬間、その男性はその手を払いのけ、ぼくに向かって手を伸ばし「そこの君、ボーっと見てないで」「女性に力仕事させちゃだめだろう」と腕を引っ張られた。少し寝ぼけていたぼくは、目を覚まされて「はい、すみません」と慌てて先生の背後に回り、その左肩を担いだ。先生は意識がもうろうとするなか、何度も何度も「富田すまんな。すまんな。」と呟いていた。その男性と力を合わせ、先生の自室のベッドに寝かせた。その男性は、先生の寝息を聞きながら「変わってないなぁ。コップ2杯のビールで酔っ払うなんて、安上がりな奴だ」と男性は肩を震わせて、声を立てずに笑った。そしてまるで部下に対するように、ご苦労さんとぼくの肩を軽く叩かれた。ふたりは一緒に部屋を出た。富田さんという男性は、先生の同級生で関西在住の方だった。そこで、すでにタクシーも帰したため、帰る手段がつかなくなり、その夜は泊まっていくこととなった。翌朝、先生が書斎にはいると、そこで寝ている富田さんを発見し、大層驚いた。そこで改めて、自分の失態に気づかれた。ゴールデンウィーク中ということもあり、彼が起きてくるまでは、誰も書斎に立ち入らなかった。八時をまわった頃、彼が起きてきた。先生は悪びれもせず「おい、寝ぼすけ」とからかった。すると間髪をいれずに「なんだ、この下戸」と突っ込まれ、ふたりは大爆笑した。ふたりは遅めの朝食をとると、居間で一服した。居間からは、庭が一望できた。そして庭の花を見ながら、世間話をしていた。庭にはチューリップの花がみごとに咲いている。「そうか、今はチューリップの時期なんだなぁ」と彼がぼそっとつぶやくと「そうだなぁ、何かあるのか」と先生が応えた。
「あぁ、実家の庭にもチューリップがあって、絵梨も熱心に世話してたよ」
「絵梨さんらしいな」
「あれから、何年になる」
「そうだなぁ、高一の年だからもう三十年になるか」
「でも彼女は、永遠に15歳のままだな」
ふたりの会話に、ぼくの好奇心がくすぐられ「誰の話しをされてるんですか」と話に割り込んで尋ねると、先生が「あぁ、富田の妹の話だよ。ぼくの初恋の相手でね」と隠さずに教えて下さった。富田さんは、ただ黙って聞いていた。先生は、当時のことを回想しながら「そうだ、以前コスモス畑での思い出話をしたことがあったろう」とぼくに問いかけられた。ぼくは記憶を辿りながら、「はい」と頷いた。
「その続きがあるんだが、どこまで話したっけ」と先生が考え込んだので「たしか、『少女が帰っていった時の夕日がとてもきれいだった』という事までは伺いました」と応えると「そうか…」と大きく頷かれた。そして「次の日、富田がぼくのクラスに来たんだ」と先生が話し出すと「あぁ、中村がB組で俺がD組だよな」と富田さんも記憶を辿った。
物語の続きは、ここから始まる。初恋の少女と出会った翌日、一時限目が終わるとD組の富田少年が、B組の中村少年のところにやってきた。「このクラスに、中村っているか」と廊下側の窓から、教室にいる生徒に声をかけた。
「ぼくだけど」と中村少年が応じると、富田少年が教室に入ってきて「お前、昨日帰りにコスモス畑とかに寄り道したか」と少し威圧的な態度で尋ねた。
中村少年は『なぜ、そのことを知っているんだろう。誰もいなかったはずなのに…』と状況を察知しようと昨日の記憶を辿った。そして、彼の制服の腕をギュッと掴み教室の外へ連れ出すと、小声で「あぁ、寄り道したけど。どうしてそれを…」と不信感をあらわにした。
「そうか、やっぱりな」「実は、昨日コスモス畑にいたのは、俺の妹なんだ」と動じることなく応えた。中村少年は驚きを隠せず、鳩が豆鉄砲でも食らったように口を開けたまま、言葉を失った。
「これ、妹から預かってきたんだ」と、彼は手に持っていた絵を差し出した。
「妹がきのう家に戻って、この絵をすごく褒められたって、滅茶苦茶喜んでたんだ。あいつのあんな嬉しそうな顔、見たことなかった。ありがとう」と頭を下げた。
中村少年は絵を受け取ると「いや、こっちこそ。でも、こんな大事なものもらっていいのか」と躊躇した。
「いいんだよ。昨日お母さんの誕生日だったんだろう。妹が『こんな物で良かったら、お花の代わりに』って言われてるんだ」とにっこり笑った。ちょうどその時、始業のチャイムがなり、彼は教室に戻っていった。帰り道、中村少年は絵のお礼を言うためにコスモス畑を訪れた。しかし、そこに少女の姿はなかった。あくる日もその次の日も少女を見つけることはできなかった。少女への思いは日に日に募っていった。十日が過ぎた頃、ふらりとコスモス畑を訪れると、花びらの散ったコスモスが、無言で木枯らしに堪えながら揺れていた。その畑の真ん中で、ひとり取り残されたように中村少年がたたずんでいた。少女は、コスモス畑で出会った翌日、回復に向かっていた病が急変し、入院生活を余儀なくされたのだった。
心にぽっかり穴が開いたまま、悶々とした日々を送っていた中村少年は、期末テストに備え自習室に向かった。ドアを開けると、ノートを清書したり、単語カードを作ったりと一心不乱にテスト勉強をする生徒に隠れ、机の上で突っ伏してぐっすり寝ている生徒がいた。あいにく、左隅奥の寝ている生徒の隣にしか空席がなかったため、その席に座りノートを出すと、隣の生徒がおもむろに身体を起こし、大きく背伸びをした。その少年の顔を見て、「あっ」という口のまま、右人差し指を相手に向けた。それは図らずしも、少女の兄の冨田少年だった。相手も少し驚いた様子で、目を丸くした。そして、「おうっ」と低く小声で会釈した。その瞬間、中村少年は良い所で出会ったと思った。『そうだ。仲良くなれば、少女に会えるかも』という下心が沸いてきた。思わず、ニコッと愛想笑いを浮かべ「さっきは熟睡してたみたいだけど、どうしたの」と彼に声をかけた。
すると彼はざっくばらんに、歴史が苦手で気づいたら寝ていたことを打ち明けた。すると、中村少年は絶好のチャンスが訪れたと内心小躍りした。歴史が得意だったからである。年号の覚え方とかも解説したりして、とびっきり丁寧にテスト勉強の手助けをした。それで、ふたりはすっかり打ち解けて、友達になった。一緒に下校する途中「あれっ、今日はお母さん遅いなぁ。おやつ買って帰ろうかな」と彼がつぶやいた。
「何かあるの」と中村少年が尋ねると、「いや、妹が入院してるから、今日は病院に行ってるからさ」としんみりと語った。
「えっ、妹さん入院してるの。どこが悪いの」と中村少年は思わず、矢継ぎ早に言葉を繰り出した。「うわっ、ごめん。妹から口止めされてるんだ。今はこれ以上言えない」と取り乱した様子で急に走り出し、慌てて帰っていった。彼が立ち去った後、中村少年の胸中はざわめいた。少女の安否を知ったことに安堵する思いと、病を心配する思いとが交錯していた。
翌日の昼休み、中村少年はD組の教室の前で富田少年が出てくるのを待った。彼が廊下に出てくると「ごめん。絵梨さんのことで、もう少し聞きたいことがあるんだ」と真剣な表情で迫った。その目に圧倒された彼は「なんだよ」と驚きの表情を隠さなかった。
中村少年は、昨日妹さんが入院したことを聞いて、気になってまともに眠ることができなかったことなどを打ち明けた。
「心配してくれるのはありがたいけど、お前のせいじゃないぞ」と彼は慰めた。
「中村に会う前から、花を描くのに夢中になって、無理が祟ってたんだ」
「そうか…。よかった」と中村少年は、少し落ち着きを取り戻した。
「でも…」と言ってから、少し考え込んで
「どうしても、彼女に会って直接絵のお礼が言いたいんだ」と彼に懇願した。兄貴分肌で、面倒見の良い彼は「わかったよ」と快諾してくれた。「そうまで言うんなら、今日でテストも終わりだし、一緒に病院に行くか」と中村少年の肩をポンと軽く叩いた。そして、ふたりは学校帰りに妹さんのお見舞いに行った。
病室は個室で、ネームプレートには富田絵梨と記されていた。『絵梨さんっていうんだ』と中村少年は彼女の名前にときめいた。病室に入ると、絵梨さんはベッドで眠っていた。その顔は血色が悪く、青白かった。一ヶ月前にコスモス畑で出会った時より、明らかに生気がなくなっていた。中村少年は、自責の念に駆られていた。『もう少し、気を配って上げられたら…』と悲しい気持ちになった。富田少年は、眠っている妹さんを起こさないように、小声で「俺、水変えてくるわ」と花瓶を持って病室を出て行った。
ベッド脇のテーブルに、描きかけの状態でスケッチブックが無造作に置かれていた。中村少年は、スケッチブックを手にとると、1ページづつゆっくり捲っていった。どのページも、花のスケッチがランダムに、ところ狭しと描かれている。そのひとつひとつに、花への愛情が溢れている優しい絵で埋め尽くされていた。
すると、気配を感じた彼女が目を覚ました。中村少年が視界に入ると、驚きを隠せないという表情で、
「な、なんで」と口を開いた。
「ごめん……ぼくのせい」と少年は、悔恨の情をもって彼女を見た。
「うーん、気にしなくていいのよ。でもどうしてここに」と困惑した表情だった。
「それは…」と返答に困り、そのまま黙り込んでしまった。するとジャストタイミングで、兄が戻ってきた。
「おっ、眠り姫のお目覚めですか」と気まずい雰囲気を払拭するように、飄々と割り込んできた。
「兄さん、これってどうゆう事」と彼女が強い口調で尋ねると「お前、合いたかったんじゃないのか。気を利かせてやったんだぜ」と上手にはぐらかした。彼女は「兄さん!」と叫び、恥らって寝返りをうち掛け蒲団で顔を隠した。
「ほーら、図星だ」と兄はおどけてみせると、おおらかに笑った。
彼女の横顔は、みるみる赤らんでいった。その恥らう仕草が中村少年には、いじらしくて仕方がなかった。
絵梨さんが取り持つ縁で、富田少年と中村少年は無二の親友となった。昼休みにはグランドのふちのあおぎりの木陰で、よく談笑していた。富田少年は野球部のピッチャー、体育会系で人気者だった。中村少年は、どちらかというと内向的で優等生タイプ。お互い性格も気質も対照的なふたりだったが、その異なる部分が良い意味で刺激になっていたようだ。
絵梨さんと富田少年は年子の兄妹だった。彼女の病は先天性の疾患で、幼い頃から入退院を繰り返していた。そのため、実年齢よりかなり幼く見えた。年が明けて、新学期を向かえ桜が散り始めた頃から、彼女の病状も回復へと大きく前進した。桜がちらほら散り始める頃には、病室を出て、院内を歩き周ることが増え、遊歩時間も日増しに長くなっていた。
さらに中村少年が見舞いに来た日は、病院の敷地内をゆっくりと散歩した。そして、目に触れる草花や花壇に咲く花を愛で、草花の成長の様子などを観察するふたりの話は、途切れることがなかった。
4月下旬山々は新緑の季節を迎え、春爛漫のある日、病院の階段の踊り場で、若いカップルが口論になっている光景に遭遇した中村少年は、思わず立ち止まった。
「いいか、前から言おうと思ってたけど、お前のやっている事は度を越してる」
「どうして!どうして、良いことをしたのに注意されなきゃいけないの」
「確かに、お前のしていることは悪くない。いや、むしろ花には良いことをしてあげたんだと思う」
「でしょう!だったら叱る必要ないじゃない」
「そうじゃなくって!俺が言いたいのは、お前の細やかな気配りが時には行き過ぎてしまっていることなんだ」
「それってどういう意味!兄さんの言ってること、わたしには全然わからないわ」
「ちょっと待て、最後まで人の話しを聞けよ」と階段を駆け上がってきたのは富田兄妹だった。絵梨さんは中村少年と目を合わすと、驚いた様子でその場に立ちすくんだ。兄の富田少年は、少しばつが悪そうだった。
「どうしたの、何かあったの」と恐る恐る中村少年は声をかけた。彼女は兄の方を向いて、人差し指を口に当てしゃべらないように求めた。兄は頷いた。彼女はいつものあどけない少女の表情に戻っていた。そして「優くん、昨日シャガの花がたくさん咲いてるところを見つけたの」「そうか、ここに来る途中でも沿道にいっぱい咲いてたよ」と応えると「えぇ、そうなの。一緒に見に行きたいなぁ」と彼女は甘えてきた。中村少年は快諾し、ふたりは病院の庭を散策するのだった。
翌日中村少年が、兄弟喧嘩の理由を富田少年に尋ねると「昨日?喧嘩なんてしたっけなぁ」ととぼけた。「いやいや、その手には乗らないよ。富田くん」と中村少年が問い詰めると
「わかったよ。言うよ」としぶしぶ応じた。
「昨日、俺が病院に行くと婦長さんに呼び止められて『妹さんに注意しといて』って言わてさ」
「えっ!婦長さんが…絵梨さん、何かしたの」
「犬の小便が花にかかったのを見た絵梨が、バケツを持っていってその花を一所懸命洗っていたらしいんだ」
「えっ、でもそれって花を枯らさないようにと気を配ったんでしょ。それがなんで注意されるわけ」
「そうだよな、俺も絵梨の気持ちはわかるんだけど。大人からすれば行き過ぎなんだってさ。『それは飼い主の躾が悪いからであって、絵梨さんがそこまですることじゃないって』怖い婦長さんが言ってたよ」
「ふーん、そうなんだ。それで、絵梨さんは納得したの」
「いや、納得してないだろうなぁ。お前が帰ってからまたその話が出たんだよ。俺は、『小便がかかった花はその時が寿命だったんだ』って説得しようとしたんだけど…」と彼は煮え切らないといった表情を見せ「絵梨のやつ『あの場所に咲いてた花が運が悪いってこと。花は動けないのにそんなの可哀想じゃない』ってむくれてさ」とふてくされた。
富田少年の思いとは裏腹に、絵梨さんの草花に対する真摯な態度とひたむきな愛情に、中村少年の心は波動した。そして彼女の想いと自らの想いを重ね合わせ、改めてその結びつきを強く感じるのだった。
病院内には、絵梨さんのように身体虚弱で長期にわたる入院を余儀なくされた子供のために院内学級が併設されている。彼女はその中でも、常に優秀な成績を収めていた。そして、少しでも勉強の遅れを取り戻そうと時間の許す限り、勉強に勤しんだ。院内学級の先生も、そんな彼女の姿に感心していた。特に、彼女の大好きな草花に関しては先生も一目置くほどだった。そんな彼女のことを、一緒に勉強する下級生たちは『絵梨先生』と呼んで慕っていた。
ある日病室に、小さな女の子が入ってきて「見て!絵梨先生」と包装紙の裏にお花の絵を描いたものを持ってきた。
彼女はその絵を見て「たんぽぽね。上手に描けてるよ」と女の子の頭を優しく撫でた。すると、女の子ははにかんでうつむいた。そして急に、その絵を持って走り出そうとしたので、彼女は慌てて「舞ちゃん!」と強めの声で呼び止めた。「走ったら、大先生に叱られるよ」とたしなめると、へへへと照れ笑いを浮かべて、そろりそろりと病室を出て行った。その様子がおちゃめでとても愛らしかったので、ふたりは顔を見合わせて失笑した。
「今の子は?」とぼくが尋ねると「下級生の子よ、可愛いでしょ」「そうだね」と言うと、彼女は満足そうに微笑んだ。彼女を慕う下級生は多かった。それはどんな相手にでも態度が変わらず、媚びることもつんけんすることもなかったからだった。彼女は誰よりもポジティブで、自然に対しても人に対しても誠実に向き合おうとしていた。
その姿勢が顕著に現れていたのは、彼女のスケッチブックだった。どこに行くときもはだ見放さず持ち歩いた。その理由を尋ねると、観察すればするほど新たな発見があって一層その花が好きになること。もう一つは悲しいことだが、以前あとから見に行った時に、心無い人によって無惨な姿になっていたからだと言う。
そして、彼女のスケッチブックには年齢にふさわしい特徴があった。それは、当時人気の少女マンガのキャラクターを、特に気に入った花に命名していたことだった。そのネーミングが独特で、いかにも少女らしかったので、思わず噴出してしまうこともあった。一度、そのスケッチブックに中村少年がネーミングをつけて書き込むと、それが気に入ったらしく、それからはふたりでネーミングを考えるようになり、時にはどちらのネーミングにするかでスケッチブックを取り合いになることもあった。そうした光景は、兄から見るとじゃれ合っているようにしか映らず、
「よくもまぁ、花の話でそこまで盛り上がるよな」
「お前たち変人カップルだろ」と冷やかすこともしばしばだった。しかしふたりは、全く意に介すこともなく視線を合わせ、くすくすと笑うだけだった。楽しそうに笑う妹を見て、兄は病が再発しないことだけを願っていた。そこには、親友を悲しませたくないという気遣いもあった。そんな兄の心配をよそに、中村少年と絵梨さんの間には、強い信頼関係と深い愛情が芽生えていた。先生の話はそこで終わった。そして、最後に「もし彼女に出会っていなかったら、違う道を進んでいたかもなぁ。こんなに研究に打ち込むようになったのは、彼女との約束も大きいからね」と結んだ。
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