第1話

文字数 1,086文字

パタン。
私は読んでいた本を閉じて、机の上に置いた。
(香里おっそいな~。早く帰りたいんだけどな)
私は一緒に帰る約束をしていた香里の、委員会活動が終わるのを待っていた。
図書委員の香里は『今日は、4時には終わるから』と言っていたのに、教室の時計はもう4時半を過ぎている。
(なにかあったのかな?…ちょっと図書室まで行ってみようかな?)
私はカバンを教室に置いたまま、教室を出て図書室にむかった。
 
3階まで階段を上り、図書室へ向かう廊下の角を曲がったところで、向こうから来る香里の姿が目に入った。
香里も私に気づいて、手を振りながら小走りにかけよってきて、開口一番『ごめん、待った?』と言った。
「なんかPCがトラブってさ。ずっと貸出も返却も、できなかったのよ」
「そうなんだ。トラブルは解決したんだよね?じゃ、帰ろ」
 
教室に戻ると一人の男子が、私の机の横に立っていた。
さっき私が机の上に置いた本を、手に取って見ている。
「あれ~?横山くんじゃない。部活終わったの?」
香里が声をかけた。
「おう。さっき終って、忘れもん取りに来たとこ。ところでこの本、高見の?」
私のほうを向いて聞いた。
「うん。香里の委員会が終わるの待ってる時に、読んでたの」
「へえ。高見ってこういうの読むんだな。俺も、結構こういう系好き」
(ドキッ)一瞬鼓動が高まる。
「え~?横山くん小説とか読むの?」
隣で香里が言う。
「横山くんが読むのって、ゲーム雑誌かグラビア写真集だけかと思ってたよ」
「るせ…まあ否定はしないが、文字だけの本も読んでるっつの」
「へえ~意外」
(いいな…私も香里みたいにおしゃべりしたい)
「結衣も、そう思うでしょ」
「え?あ、うん」
急に香里に話をふられて、私はとっさに肯定してしまった。
(あ!やば!うんって、横山くんが本読まないって思ってるように取られちゃう)
あわてて発言を否定しようとしたけど、横山くんは笑いながら本を机の上に戻した。
「じゃな。また明日」
そういって教室を出ていった。
 
「結衣ってさ、横山君のこと好きなの?」
帰りながら香里が聞いてきた。
「え?えっと…」(なんで?なんでわかったの?)
「やっぱり、バレバレ。横山くんは気づいてないかもだけど」
「そなの?!」
「はい確定~」
香里が笑いながら言った。
「う…お願い!みんなには内緒にしててっ」
私は顔の前で両手をあわせて、香里を拝むポーズをとった。
「いや、内緒にしとくけど。どうして横山くんなの?」
「…四月に課外活動に行ったでしょ?」
「あの遠足まがいのやつ?」
「その時に同じ班だったんだけど、山道下りるとき滑らないようにって手を貸してくれて。優しい人だなって」

 


 
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