第1話
文字数 793文字
松平隆二(まつだ、りゅうじ)。彼は極道に生きる男である。
ある日の夜。
松平は行きつけのバーで女(スケ)とブランデーを酌み交わしながら、くだをまいていた。
「クソッ! なんでこんな目に合わなくちゃいけねんだ。俺を誰だと思っていやがる。これでも裏の世界では『八王子の軍鶏』と呼ばれてんだぞ! それなのに……クソッ!」
この日は珍しく出来上がっていて、執拗に愚痴をこぼす。
「隆ちゃん、ちょっと飲み過ぎよ。珍しいわね。あなたがこんなに酔いつぶれるなんて」
「うるせえバーロー! お前に俺の気持ちなんざ判る訳ねえんだ!」
松平はブランデーを飲み干すと、この日九回目のお代わりをマスターに注文する。
「彼女さんの言う通り、今夜は飲み過ぎですよ。この辺でお止めになってはいかがですか」
マスターの気配りなど聞く耳を持たない。
それどころか怒りに任せてグラスを床に叩きつけた。ガラスの破片が一気に飛び散り、客の注目が集まる。
「隆ちゃん、お店に迷惑よ。もう帰りましょう。……今夜はウチに泊まるんでしょう?」
「いや、今日はやめとく。そんな気分じゃねえ」
バーを出ると女を振り切り、松平はふらつく足でタクシー乗り場に向かった……。
彼は東京都八王子市にある暴力団事務所『比世故(ひよこ)組』の若頭補佐で、二十人いる組員のナンバースリーだ。
中学高校と喧嘩に明け暮れ、卒業してからもまともな職に就かず、風来坊な毎日を送っていた。窃盗や空き巣などのケチな犯罪で日銭を稼ぎ、刑務所を何度も出入りしていた。
ある日、松平はふとしたきっかけで比世故(ひよこ)組の組長に拾われていた。
盃を交わして早五年、持ち前の根性と漢気でその名を轟かし、三十手前にして異例ともいえる出世を果たしたのである。
子分には慕われ、組長はもちろんのこと、兄貴の若頭からは一目を置かれ、いつしか松平は『八王子の軍鶏』と呼ばれるようになっていた。
ある日の夜。
松平は行きつけのバーで女(スケ)とブランデーを酌み交わしながら、くだをまいていた。
「クソッ! なんでこんな目に合わなくちゃいけねんだ。俺を誰だと思っていやがる。これでも裏の世界では『八王子の軍鶏』と呼ばれてんだぞ! それなのに……クソッ!」
この日は珍しく出来上がっていて、執拗に愚痴をこぼす。
「隆ちゃん、ちょっと飲み過ぎよ。珍しいわね。あなたがこんなに酔いつぶれるなんて」
「うるせえバーロー! お前に俺の気持ちなんざ判る訳ねえんだ!」
松平はブランデーを飲み干すと、この日九回目のお代わりをマスターに注文する。
「彼女さんの言う通り、今夜は飲み過ぎですよ。この辺でお止めになってはいかがですか」
マスターの気配りなど聞く耳を持たない。
それどころか怒りに任せてグラスを床に叩きつけた。ガラスの破片が一気に飛び散り、客の注目が集まる。
「隆ちゃん、お店に迷惑よ。もう帰りましょう。……今夜はウチに泊まるんでしょう?」
「いや、今日はやめとく。そんな気分じゃねえ」
バーを出ると女を振り切り、松平はふらつく足でタクシー乗り場に向かった……。
彼は東京都八王子市にある暴力団事務所『比世故(ひよこ)組』の若頭補佐で、二十人いる組員のナンバースリーだ。
中学高校と喧嘩に明け暮れ、卒業してからもまともな職に就かず、風来坊な毎日を送っていた。窃盗や空き巣などのケチな犯罪で日銭を稼ぎ、刑務所を何度も出入りしていた。
ある日、松平はふとしたきっかけで比世故(ひよこ)組の組長に拾われていた。
盃を交わして早五年、持ち前の根性と漢気でその名を轟かし、三十手前にして異例ともいえる出世を果たしたのである。
子分には慕われ、組長はもちろんのこと、兄貴の若頭からは一目を置かれ、いつしか松平は『八王子の軍鶏』と呼ばれるようになっていた。