第8話

文字数 788文字

 どうにかやり過ごした松平は、帰宅の途に就こうと門をくぐる。
 だが、家の前に昼間の丸いサングラスの男が、電柱の明かりの下に半身でいるのを視界の隅に捉えた。松平の視線を察知したのか、男はバイクにまたがり、走り去っていった。
 
 まさか美登利賀芽(みどりがめ)組のスパイなのか? だとするとヤツこそが対戦相手のジェームス小林なのかもしれない。組同士の抗争なので、充分覚悟はしていたが、それでも克彦の身を危険に晒さないように、改めて気を引き締めた。

 次の日。おもちゃ屋にてプレイドライブ3を二台購入した松平は、組事務所と自宅アパートにそれぞれ設置した。
 暇さえあればゲームに明け暮れる毎日。傍からすればただのオタクにしか見えないだろうだろう。気のせいか、事情を知っているはずの弟分たちから、時折、冷たい目線を感じるようになった。
 山村家通いも続いていた。出来るだけ父親のいない時間帯を狙ったが、それでもたまに鉢合わせし、辟易しながらやり過ごす。松平は父親に不審がられないように髪型を五分刈りにして、時には割烹着姿で出入りしたりもした。

 しかし、気になるのはサングラスの男。彼は本当にジェームス小林なのだろうか?

 その後も山村家や組事務所周辺でたびたび見かけることがあった。捕まえて問いただそうにも、すぐに逃げ去ってしまい、らちが明かなかった。

 まあいい。奴のことは放っておくか。それよりゲームを極めるのが先決だ。奴がジェームスであろうがなかろうが、要は勝ちゃいいだけの話なのだ。
 つまらないことは気にしないようにして、ゲームに没頭する松平。すると持ち前の根性と集中力でメキメキと腕を上げた松平。三週間が経つ頃には、マックスであるレベル10でも敵なしとなった。
 しかし、克彦相手には未だに一勝も出来ないでいる。残りあと一週間。何としても負けるわけにはいかないと、奮闘の日々が続いた……。
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