その8

文字数 800文字

「昨日はゴメンナサイ、ワタシどうかしてたわね。あのねー、言い訳じみて聞こえるかもしれないけれど、街から少し遠くへ行くと、精神的に不安定になるの、すぐにお家に帰りたくなるの、だから、昨日も機嫌が悪くなって本当にゴメンネ」
「いえいえ、どうせ僕みたいな庶民には君のようなお嬢様と付き合う資格なんてないかもね」
「本当にゴメンナサイ、ワタシも昨日は自分でなんて嫌なことを言ってるんだと、分かってたのだけど、どうすることも出来なくて」
「いいよ、いいよ、どうせ醜い中年を相手にしてくれてるんだから、それくらいのことはがまんしないとね。しかし、会うたびに一万は簡便してくれないかな」
「ダメよ、それはそれ」
「僕は、君が思ってるほど高給取じゃないんだよ」
 ノブナカは、皮肉たっぷりに嫌味を言った後で、愛玩口調になる。
「だめなものはだめよ。でねー、昨日のお詫びと言っちゃーなんだけど、次はオノミチに行ってみたいなーと思って」
「オノミチって、中国地方の尾道のこと」
「そうよ、今治から瀬戸大橋渡って行けばすぐでしょう、キミと尾道行くのってステキじゃない、ウフ・フフ」
 レモンが、いつものハイテンションな感じで言う。
「いいけど。じゃあ、再来週の土日の一泊二日でどうかね?」
 ノブナカも、下心丸出しで言う。セックス抜きでも十分満足するはずが、前回の一万渡すという条件に、少し中年特有のいやらしい欲が顔を出した。
「泊まりはダメヨ。十分に日帰りできるから、土曜日に行って帰ってくればいいジャン」
 レモンは、お金の代償はキミに会うことで十分なはずと言いたげである。
「それじゃ、再来週の土曜日に待ってるね、ウフフ、なんか楽しみよね、じゃあね―」
 と電話を切った。
 ノブナカは、翌日早速尾道の観光マップを買い、下調べに余念がない。
「それにしても、こんな夢みたいなことが続いていいのかな」
 ノブナカは、ふっと自分の頬を摘んでみることがあった。
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