その2

文字数 1,330文字

 ある晩、忘年会の席上、同僚達が何やら風俗の話しに盛り上がっている。当然のごとく、その会話に加われないノブナカは、同僚達の話しに聞き入っていた。
「オレ、この前、ツーショットで知り合った娘と待ち合わせして、会ったら、その娘、まだ高校生やって、びっくりしたよ」
「オマエ、それ犯罪やぞ。で、その娘とやったんか?」
「バカいえ、そんなんで警察に知れたら、懲戒免職やろ、やるわけないじゃんか」
「うそつけ、本当はやったんやろ?」
「やらん、やらん、そんな怖いぜよ、いまどきの娘は」
 こんな会話を聞きながら、ツーショットダイヤルというものがこの世に存在することを始めて知ったのである。そしてその会話の中から、ツーショットダイヤルが、週刊誌の中に掲載されている電話番号にかけたら、相手と通じるらしいということも知った。
 その晩タクシーで帰りながら、ノブナカは、妻と子達が妻の実家に帰っていることを思いだし、コンビニで週刊誌を買って、電話をしてみようと思った。
 何故、そんなことを、実行してみようと思ったのかは、本人にも理由がわからない。多分、酔いと、明日から年末の休暇に入ることと、家族がいないことの開放感から、そうさせたのかもしれない。
 部屋に入って、さっそくその手のページを探し電話をしてみた。
 しかし、手続きに難航した。コンピューターの女性の指示どおりにやっていくが、酔っていることもあり途中で何度もしくじり、始めからやり直さなければいけない。
 小一時間くらい格闘したあげく、やっとそのシステムの登録が完了し、相手が電話に出るのを待つ体勢になった。
 さっきまで、酔っ払っていたはずのノブナカは、ドキドキしだした。十分ほどして、コンピューターの女性の声が「相手と繋がりました」と伝えた。
「はじめまして」
「……」
「はじめまして、ワタシ、ケイコといいます」
 ノブナカは震える声で、「はじめまして」と言ったが、次の言葉が出ない。
「どうしたンですか、気分でも悪いの?」
「いえ、こういった電話はじめてするもので、緊張してるんです」
「エー、そうナンですか。ワタシもはじめてよー」
「君は、いくつナンですか?」
「エー、ワタシー、十九になったばかりー」
 十九と聞いた途端にノブナカは反射的に電話を切っていた。未成年と関係を持ち、そのことが発覚し、懲戒免職になった公務員が昨今新聞紙上を賑わかせており、未成年と聞けば、条件反射的に、「やばい」と思うのである。
 次に出た娘はオナニー中であるとのことで、こちらが話しかけても話にならなかった。次に出たのは、旦那が出張中で暇だから電話しているという主婦で、とても感じのいい女性だったが、料金のことが気になり、三十分を経過した頃電話を切った。
 こうして、始めてのツーショットを体験したノブナカが、何故かこのツーショットにはまってしまった。
 妻や子が外出している数時間の間や、時には、深夜こっそり家を抜け出し、車の中でツーショット・ダイヤルをする。
 最初の頃は、興味本位にやっていたものが、段々と真剣に自分と付き合ってくれる女性を捜すようになった。まさに、ツーショットの中毒患者になりつつあった。
 妻が活動に忙しく夜家を空けることが多かったことが幸いした。
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