第1話 鳰が消えた!

文字数 611文字

 (あれ?)
 十二月一日、午前七時。
 目覚めた佐藤千冬がまず感じたのは、違和感だった。
 原因はすぐ明らかになる。
 鳰がいないのだ。

 二階の千冬の部屋からは、家の前の小さな池がよく見える。晴れた日は水面がきらきら日光を反射してまぶしい。毎朝黒と赤のいりまじった鳥たちが群れている。図鑑で調べてみたら(にお)という鳥らしい。カイツブリとも言う。
 ところが、その鳰たちの姿が、今朝は見えない。
 スノーはどうしたのかなあ。
 千冬はその一匹に「スノー」という名前をつけていた。鳰はくちばしの付け根から目の前方まで、黄白色の線が入っている。ところが一匹だけ、その部分が(スノー)のように白いのだ。
 誰かに話したいけど、今日は土曜日。中学校は休みだし、バスケ部の練習もない。昨日偶然(故意だという声が一部より上がっているが)教科書を学校に

しまったので勉強もできない。このままじゃこの謎ばかりが気になっちゃう!
 両親を起こしても「暖かいところへ海を渡ったんでしょう」と言われるはず。でも去年、千冬が中学校に入学したばかりの時、鳥たちは池を離れなかった。鳰は渡り鳥じゃないのだ。
 どうしよう。
 千冬の頭にその時、ひとりの顔が浮かんだ。
 頬がじんわり熱くなる。
 でもまぁいいよね、これは一大事なんだし……。
 千冬は誰に向かってか言い訳すると、携帯電話のボタンを押し始めた。


 (続)
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