第3話 アマミノクロウサギとの出会い

文字数 8,459文字

1.アマミノクロウサギとの出会い
大阪生れの都会っ子、小学4年生の那美(なみ)は、夏休みには母親の故郷、奄美大島で過ごすのが、常となっていました。来年からは中学入試のための勉強が本格化するので今年が、小学校最後の奄美の夏になる予定です
奄美大島は鹿児島から南に約380㌔離れた亜熱帯の島。島の海岸部に少しある平地には都会のようにビルが林立していますが、一歩、中に入ると森があり豊かな自然が残されています。また、ノロ(奄美の神様)信仰の名残でパワースポットも多くあり島民の心を豊かにしています。
奄美大島には訪れた人の心をいやす、大きな青い空と碧(あお)い海と蒼(あお)い大地があります。

 那美が、奄美の森に向かう坂道を、大粒の汗を流しながら登って行くと、優しそうな叔父さんが山から降りてきて「顔にお腹が空いています、と書いてあるからこれでも食べて」と言って島バナナをくれました。父親によく似た叔父さんで、作業服には大島建設と書かれ、背中にアマミノクロウサギの絵が描かれていました。

那美は自分の心を読まれたのが恥ずかしくて無言で受け取ったのです。
「山には気をつけて行くんだよ。特にハブにはネ。水場は危険だからネ」
那美は『優しい叔父さんだと思いましたが、お礼を言うのを忘れたと少し後悔(こうかい:行ったことで、後から悔やむこと)していました』。実はあわてて家を出たので、お腹がペコペコでした。それをあの叔父さんに知られたと思うと恥ずかしくなり言葉が出ませんでした。
外国産のバナナより小振りですが、甘さが濃縮された島バナナを食べながら山を登ると「ニャー、ニヤーオン、ニヤ……」とネコの鳴き声が聞こえてきます。

那美は周りを探しました。泣き声は聞こえてきますが姿が見えません。道の脇にある世界自然遺産登録に備え環境整備のために設置されたゴミ箱がつぶれていました。車が当たったみたいでした。
「ネコさん、どこですか。どこにいますか。もう一度だけ鳴いて下さい」
「ニヤーン、ニヤン、ニヤオン」
すると鳴き声が聞こえ、これを頼りに必死に探すと道路脇の茂みに、茶色のネコいや体の汚れからノネコ(野生化した野良ネコ)と思われるが横たわっていました。
「可愛そうに。ノネコさん、車にはねられてここに逃げ込んだんですね。本当に可愛そうに。痛くないですか」
ノネコは、お腹から血を流してぐったりしていました。那美はノネコを抱き上げて自宅に向かいます。
 この様子を森の奥から“小さな猿?さん”が見ていました。この猿は『あの子はいつも山で見かける子供だ。気持ちが優しく森が好きな子供だな。私達の仲間になって、森を守ってくれる人になってくれるかもしれない』と思いました。
さて那美は、自宅に帰り母親と相談して、ノネコを獣医さんの所に連れて行き入院させることに。帰宅してからも、このノネコのことが心配で眠りが浅くなったのか、不思議な夢を見たのです。そして朝起きると枕元になぜか笛が置いてありました。

翌日、獣医さんのところに行って、「ノネコさん元気ですか」と優しく声をかけると「ニヤオ、ニヤ~オ、ニヤ~オ」と元気そうな声を出し、那美には『ありがとうございます』と言っているように思えました。
「ノネコさん元気になってよかったね。ゆっくり休んで下さい。退院したら森で一緒に遊びましょうネ」
 この言葉を聞いてノネコの目は、嬉しいのかトローンとなり甘えるような仕草になったのです。
「那美さん。ありがとうございます。元気になったら一緒に遊ぼうね。約束だよ、私の名前はマリーンって言います」
那美にはそのように聞こえました。ノネコが人間の言葉をしゃべり驚きました。最初は自分の聞き間違いと思いましたが、ノネコが更に話しかけます。
「この前は、助けて下さってありがとうございます。マングースに追われて必死に逃げて、道路に出た時に車が来て接触したんです。運転手さんも驚いたみたいでゴミ箱をこすって行きました」
「そうですか。マングースに追われて。でもよかったマリーンさんの傷が浅くて。本当によかったです」
 ここで那美はノネコと話していることに気が付きました。
そこで「マリーンさん、何で私と話しが出来るの」と聞くと「あなたの首にかかっている笛を持っている人とは話が出来ます。森の管理人のケンムンさんが認めた人です」と答えました。
ここで那美は『夢の中で見た猿のような人がケンムンさんか』と……。
そしてマリーンが、「ケガが軽かったのは、私を避けてくれた運転手さんのおかげです。でも車大丈夫かな」と言ったのです。マリーンは自分のことより運転手さんと車のことを心配しました。

その時、小さな子供が近くに寄って来たので、おどかすといけないと思って話すのを止めました。しばらく一緒にいて那美はオバァの家に帰ることに。
ノネコに「マリーンさん。遅くなると家でお母さんとオバァが心配するので帰ります。今日は色々話が出来て嬉しかったです」と挨拶すると「那美さん。私も話が出来て嬉しかったです。私は最初、飼いネコだったんですが、ノネコになって初めて人間と話しをしました」となつかしそうに言いました。
ノネコのそばを離れると、さっきマリーンと話したことが、夢の世界の出来事の様に思え自分でも信じられない気持ちに。でもこれは事実でした。
ここは南の楽園、パワースポット一杯の奄美大島だと思うとなぜか心が落ち着きます。それでも今日、ノネコと話したことは、他の人には話してはいけないことと自分に言い聞かせました。那美の心の中では『マリーンさんが、なんでノネコになったのかな』と疑問が湧き上がっていました。

マリーンと話した数日後、「那美、何をしてるチー(島口:奄美の方言で、のですか。という意味)」と自宅で浮き浮きしながら絵日記を書いている那美にオバァが聞きます。
「ちょっと前に夢で見た妖怪みたいなもんを書いてる」
「ハゲー(島口:驚いた。という意味)その絵、大島の“ケンムン”に似ているチバー(島口:と思う。なあ、明美」
祖母が母の明美にも同意を求めます。
「ほんとうだね。ケンムンそっくりだね。那美、お前どこでケンムンを見たんだい」
 母が聞くので答えた方がいいと思いましたが、信じないと思い話すことが出来ません。それでも母は、「那美、何を聞いても驚かないから話しておくれ」と言い続けてオバァも、「那美、ワン(島口:私)も聞きたいから話してくれチバ―」と重ねて聞いたのです。
 那美は以前から二人には隠しごとはしたくなくて、聞いて欲しいと思っていたので、話す決心をしました。最近、ノネコと話しが出来たり不思議なことが起るので、話したいと思っていたのでいい機会でした。

その話は、ノネコを助けた日の夜、那美の夢の中に“猿さん”が現れて【仲間を助けてくれてありがとう。あなたは私達の仲間です。そのしるしにこの笛を置いていきます】と言って夢から消えて、朝起きると枕元にこの笛が置いてあった。という内容でした。
「と言うことは、首にかかっているその笛をケンムンがお前にくれたんかい」
「そう、これをくれた」
それは、竹で出来た笛のようですが、指笛が上手なオバァが思い切り吹いても音は出ません。
「おかしなことがあるもんだね」
「ハゲーさすがに奄美だ。ここはパワースポットか」
「そうかパワースポットかそれで納得」
母とオバァが不思議そうな顔でそれぞれ言って、笑って台所に行き料理を始めました。今日は奄美名物の“鶏飯(けいはん:汁掛けご飯)”でした。

鶏飯は奄美のみならず鹿児島県の人気料理で学校給食に出されることもあります。
「オバァ、鶏飯はニワトリの肉を細かくさいたものをご飯の上に乗せて、更に金糸卵(きんしたまご:細く割いた卵)やしいたけをのせて、このニワトリの出汁を掛けるんだよね」
「そうチバー。それに出汁の量を変えれば味が違うからためしてみるチバー」
「この薬味を少し入れてごらん。一味変わるよ。これでまた食べることが出来るから不思議だね」
那美が試しました。
「本当だ。オバァの言う通りにしたらまた食べられた」
「そうだろう。これも奄美の不思議だ」
女三人の会話が弾みます。

 夏の一ヶ月間、父親を大阪に残して母親と那美はここで羽を伸ばして、英気を養うのが定例行事になっていました。隣の家からは、ハブ(毒ヘビ)の皮を貼った三線(サンシン:三味線)を弾きながら叔父さんのシマ唄(奄美群島で唄われる集落の民謡)が聞こえてきました。なお、奄美では集落のことをシマと言います。シマにはアイランド(島)とともに地域との意味があります。これについては昔、陸路での集落間の交通が難しく船での交通が中心で、あたかも他の島へ行く様だったからとの説もあります。
夕方、隣から聞こえるシマ唄を聞いた那美が言いました。
「叔父さん、今日はちょっと声が枯れてるみたいだね。風邪でも引いたかな」
「明日、様子見て調子悪そうだったら、カリン酒とタンカン(奄美のみかん)でも持って行くか」
「そうだね。それがいいね」
女三人の意見がまとまりました。奄美大島では、今でも地域のつながりが強く、助け合いの絆が残っています。また那美は朝、地域の有線放送で起こされます。
「今日、13時から奄美小学校で食事会がありますから、老人会の人は参加をお願い致します。泉了見さん92歳が昨日、亡くなられました。ご冥福(めいふく)をお祈りいたします。昨日、住用峠(とうげ:小さないただき)でハブが捕獲されました。注意願います。これで朝の放送を終わります」
この地域では、こまごまとした連絡が有線放送で知らされます。
「オバァ、これ面白いね。聞いているだけで地域のことがよく分かる。こんなのが大阪でもあればいいと思うけど」
那美が食パンを食べながら言うと、オバァがうなずきました。オバァの顔を見て、天井に目を移すと大きなヤモリが三匹いましたが、それが自然で周りと調和していて驚きません。鳥やチョウ、トンボなどが家に飛び込むこともあります。

那美は、珊瑚(さんご)があり色鮮やかな熱帯魚が泳ぐ碧(あお)い海で遊ぶのも好きですが、森の散策が一番好きでした。おお昔から茂るヒカゲゴケなどのシダ類を観察するのも、チョウを見るのも好きです。今年は、チョウなかでもアカボシマダラの生態(せいたい:生物が生活しているありさま)を観察したいと思っていたのです。
道路を歩いていてぐうぜん見つけた目的のチョウを追って、森に入りました。アカボシマダラが羽にある黒いはん点を上下にゆらし、森の中を優雅(ゆうが:やさしくて、ゆったりすること)に飛んでいました。それは風に舞う新聞紙の様に見え、そのフォームの美しさに見とれてしまい、後ろをゆっくりと追います。チョウはシダやコケに止まりながら段々と森の奥に入って行きます。

那美はチョウに夢中になり道に迷い、運悪く激しい雨、たぶんスコール(南国の一時的に強く降る雨)におそわれ回りがうすぐらくなって来て、仕方なく雨をさけるために木の下にある茂みの中に逃げ込みました。
更に周りが薄暗くなって来て、雷も光り不安になります。
「娘さんそこはハブが出て危険ですよ。私に付いて来てください」
那美は周りを見渡しましたが誰もいません。
「ここですよ。ここです」
声のする方を見ると耳の小さい黒いウサギがいました。

しかし那美は最初、何が起ったか分かりませんでしたが、ウサギの動きに合わせて右に出た時に、ヤブの中から何か棒が弓なりに飛んだのです。那美は頭の形と模様(もよう)からすぐに毒ヘビのハブと思いました。オバァの話や有線放送では聞いていましたが、実物を初めて見ました。  
那美は、段々と恐怖心がおそって来て動けません。
「心配しなくて大丈夫ですから。ここに来て下さい」
黒いウサギは、驚いて声も出せない那美を雨が防げる小さな洞穴(どうくつ:ほらあな)に誘いました。洞穴に着いて雨を避けることが出来ると、那美の気持ちが落ち着きました。
「アリガッサマ リヨウタ(島口で、ありがとうございます)。助かりました。私は那美といいます。宜しくお願いします」
気持ちに余裕が出来た那美が、黒いウサギにお礼を言いました。それに合わせてウサギがピョンとはねます。

前にノネコのマリーンと話したことで、この黒いウサギと話すことに違和感はありません。そして話が始まり、この黒いウサギは“アマミノクロウサギ”という奄美固有の貴重な動物で名前を“加那”と言うことを知りました。
「森を愛する心の優しい人と森の住人は話が出来るんです。那美さんは、私達の仲間を助けてくれたんですよね」
「ああノネコのマリーンさんのことですか。元気になってよかったです」
「ありがとうございます。私は、追いかけられたことがありノネコは恐くてちょっと苦手ですが、森で生活するには切磋琢磨(せっさたくま)。そう仲間同士、互いに励まし競い合って向上することが必要で、その意味では森の仲間です」
加那は話しながらちょっと表情が曇りました。那美は何か事情があると思い、この話にはそれ以上触れないことに。

少し時間を取ってから加那は、奄美の森は管理人の“ケンムン”、番人の“やちゃ坊”、また今日は那美をおそいましたが、むやみに森に人間が入って自然を破壊するのを防ぐハブ、乾燥から豊かな森を守るシダ類などによって守られていることを語りました。
那美は、加那の話しから多くの森の住民によって、奄美の豊かな森が守られていることを知ったのです。
 ここで加那が、那美の首に架かっているものを指で示して聞きました。
「首に掛かっている、それどうしました」
「これはこの前、お猿さんに夢の中でもらいました」
「そうですか。ケンムンさんがあなたを友達と思ったんですね」
「どういう意味ですか」
「説明する前に那美さん、ちょっとそれを吹いてください。それで答えが出ますから」
加那が言いました。那美は深呼吸して思い切り笛を吹きましたが、やっぱり音は出ず、加那の言った意味が分かりません。

 しかし不思議なことに、しばらくすると那美が夢の中で見た“猿さん”と“上半身裸の野生的な男”が現れました。驚く那美の肩に加那が飛び乗り安心させて、“ケンムン”と“やちゃ坊”を紹介しました。猿さんがケンムンで野生的な男がやちゃ坊でした。那美はこれが、『オバァが言っていた噂のケンムンとやちゃ坊か』と思ったのです。
「那美、あなたが吹いた笛でこの二人がやって来たの。その笛はこの森で私達を呼ぶものなのです。人間には聞こえませんが、私達にはよく聞こえますから森に来た時は吹いてください」
「そうですか。ありがとうございます。よくわかりました」
那美がケンムンにお礼を言って、頭をピョコンと下げました。

 奄美には、“ケンムン”と呼ばれる妖精(ようせい:神様の使い)がいて、ガジュマルの木にすみ、ガジュマルの木を切り倒すと、ケンムンのたたりにあうと恐れられています。
ケンムンは純粋な心を持つ子供には見えますが、心が汚れた大人には見えないという説も……。子供たちの遊び相手や道に迷った子供を危険から救ったという話も伝わっています。ケンムンについては、ガリガリにやせているのに相撲が好き……手や足が伸び、頭に皿があるなどの情報もあります。本土で言う“カッパ”の話と通じるものが。
また以前、大相撲で活躍した里山関はケンムンの生まれ変わりではないかと地元では言われています。

 また奄美では “やちゃ坊”も有名です。やちゃ坊は弱い者には優しい愛される無法者です。型破りな人物で、金持から金品を盗んで貧乏人に分け与える義賊(ぎぞく:人気者)的な性格を持っています。沖縄から来た金鉱堀の指導だった父親を事故、ノロ神様の母親を病気で相次いで亡くしました。そして親戚(しんせき)の家での堅苦しい生活を嫌い、10歳を過ぎたころ家を飛び出し、山にこもって生活を始めたのです。昼間は森の中に隠れ、夜になると役人や金持ちの家を荒らし回り、島人から親しみを込めて“坊(子供)”と呼ばれていました。
ところで、やちゃ坊という名前には次のような逸話(いつわ:言い伝え)があります。ある時、漁から帰った漁師が舟を浜にあげるのに困っていると、子供が手伝ってくれました。舟を無事引き揚げて捕って来た魚を見ると、一番大きく高く売れるヤチャ(本土で言うカワハギ)が見当りません。坊が舟をあげるのを手伝っている時に、ヤチャを隠して盗み持ち去ったのでした。それからというもの、この坊は「やちゃ坊」と呼ばれるように。 また、大人になっても野性的な姿や子供の様なやんちゃな行動から、「坊」の字が取れずに親しみを込めて「やちゃ坊」とよばれることに。

この様に無法者とされるやちゃ坊ですが、金持ちの家から食べ物を盗み、貧乏な人の家に放り込んだり、空腹のために道で泣いている子どもに、大きな握り飯を与えたりもします。盗みはしても、人を傷つけることはしません。
 奄美では元気のある若者のことを“やんちゃ坊”と言って持ち上げます。このことからも“やちゃ坊”が奄美の人々に親しみを持たれ愛されていることが分かります。

 また奄美の森にはアマミノクロウサギはじめケナガネズミ、毒ヘビのハブ、小さな猛獣(もうじゅう)マングース、ノネコなどが住んでいて、空にはルリカケスなどの鳥類が舞い、おお古から続くシダ類が森の環境を調整し、生存を掛けて互いに闘い切磋琢磨しながら森を構成しています。
また、畑には、タンカン、サトウキビなどが栽培され、海ではクロマグロ、モズクなどが養殖され、サトウキビを原料に奄美でしか作ることが許されない黒糖焼酎(こくとうしょうちゅう)が生産され島人の生活を豊かにしています。
ところで奄美で黒糖焼酎を飲むときは、最初に「天に太陽、地にはサトウキビ、そして人には黒糖焼酎で乾杯」と言われます。

 ここでケンムンが洞穴に隠してあった三線を取り出して、みんなでシマ唄 “行きゅんにゃ加那節”を唄うことに。
「行きゅんにゃ加那(愛しいきれいな娘さん) 吾(わ:私)きゃ事忘れて 行きゅんにゃ加那 打っ発ちゃ打っ発ちゃが 行き苦しや ソラ行き苦しや(ソラ行き苦しや)」
【意味は“行ってしまうのですか、愛しい人。私のことを忘れて行ってしまうのですか。いや発とう発とうとするのですが、あなたのことを思うと行きがたいのです”とのことです】
 唄っていると段々と気持ちが一つになっていきます。那美は幼いながら心の底から、『もう私は奄美の森のことを忘れることは出来ない』、こんな思いが湧き上がって来るのが実感出来ました。

決意を固めると、気持ちが軽くなり話に積極的に加わります。森の話をしていると、雨も止んだのでアマミノクロウサギいや“加那”の案内で街に戻ることに。
「加那さん。私はあなたの住むこの森を守りますから」
「ありがとうございます。私たちも頑張ります。あなたも豊かな森を守って下さい。お願いします。森は私たちだけでは守れませんから。あなたの協力が必要です」
「那美、この森を守らないと島、日本いや世界の損失になるから。次の世代につなげる責任がある」
「そうだ俺たちの時代で、この自然を終わらせたくない」
ケンムンとやちゃ坊も思いを語ります。

最後に那美が改めて次の様に決意を語りました。
「ええ、私の人生で一番感動した今日の日に、森を守ることを約束します」
このように四人は奄美の森を守ることをちかいました。次に那美、やちゃ坊、ケンムンが手をつなぎ、全員の手の上に加那が乗って、「これにて一件落着。お手を拝借」と笑顔で言ったので全員が笑って拍手。それを見て、加那が手の上で後ろ向きに大きく一回転。
ここで那美は加那を手で抱き上げ、「私は必ず帰って来るから。それまで待っていて下さい」とつぶらな赤い目を見て優しく言います。また、少し雨が降ってきました。「さあ早く帰って下さい」。那美は加那のこの言葉を背に受けて、心に幸せを一杯詰め込み、道を下って街に帰って行ったのです。

那美にとって長い、長い一日が終りました。
自宅に帰ると母親から、「どこに行っていたのそんなにぬれて。心配するだろう。早く風呂に入って」と強い言葉で言われました。最近は、母の言葉に反発することも多いのですが、今日は心配してくれる気持ちを嬉しく思いました。
「お母さん、私、森を守る人になることに決めたから」
「どうしたの急に。何があったの」
あっけに取られる母の言葉を背に風呂に向います。冷えた体に心地良いお湯でした。森の住人達にもよい環境を提供したいと思ったのです。

この時、2007年の奄美大島では、世界自然遺産の登録活動が細々と行われていましたが、那美はしっかり勉強して世界自然遺産に登録されると思われる概ね、10年後に奄美の森に入って音の出ない“笛”を吹いて、森の仲間を集めて、森の状態を聞いてみたいと……。
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登場人物紹介

登場人物



  那美:大阪生れの都会っ子、小学校4年生。母親の故郷で夏休みを過ごすのが常。



  母親:那美の母。



  加那:奄美の森に住むアマミノクロウサギの名前。那美をハブから救う。



やちゃ坊:奄美の森の番人、自由を好む義賊的な変わり者。



ケンムン:奄美の森の住人、ガジュマルの木に住み無闇に木を切る人に罰を与える。



マングース:毒蛇のハブ退治にため奄美の森に放されたが、アマミノクロウサギの天敵と成る。



社長:奄美の森を愛する建設会社の社長

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