第2話 エンチャントエクスプローラー

文字数 15,166文字

「ホタル先輩、この前の事件、見ましたよー! あんな事件を解決するなんて、凄すぎますー!」
 太陽がさんさんと降り注ぐ喫茶店のテラス席で、大学の後輩、リシン・フィニルが大げさな身振り手振りで、オレを褒め散らかしていた。
「そのイケメンぶりにさぞかしモテモテじゃないんですかー?」
 オレはこいつの下品さが嫌いだ。
 このリシンという男は、オーダーメイドのスーツやハイブランドの腕時計を身につけ、金と酒で女性をはべらせているが、実際の中身はまったくない。
 エチケットで香水をつけている。しかし、その匂いも、まあ……。一言で言えば、センスがない。
 臭いのなんのその。
 ワックスの匂いも相まって、気分が悪くなる。あまり近寄りたくない。
「つーか、俺より一つしか学年が違わないのに、オトギリ伯爵として、この領地を治めるなんて、先輩ったら、すごすぎですよ!」
 心に思っていないことをツラツラと良く言えるんだよな、こいつ。
 オレを褒めているものの、この男は一番偉いのは自分と思っている存在だ。正直、話を聞くに値しない人間である。ただ隣でしゃべっているので、無表情で流すしかない。
「すごい人が先輩にいると、こっちも自慢したくなりますよ!」
 うっ。吐き気がしてきた。香水のせいか? お冷やで、気持ち悪さを胃の中に戻す。
 どうしてこいつの誘いにのったのか。先週のオレを恨む。
「ねえ、領主さま。友だちは選ばないと、あとで後悔するのは、自分よ?」
 硬くキレイな声が聞こえてきた。まるでダイアモンドの輝きのよう。
 振り向くと、黒いマントを着たブラック・メイデンがアイスティーをすすっていた。今日は少しマントが清潔だ。あれから洗ったのだろうか。それともスペア? それはともかく、あのキレイな顔はフードで見えない。暑くはないのだろうか。
「ここのお茶はフレーバーティは水出しだから、おいしいんだよね」
「はあ……」
 オレはびっくりを通り越して、何も反応ができなくなってしまっている。
 もちろん、彼女が元気そうなのはうれしいのだけど、こんな状況で会うなんて、なんと運が悪い。
「な! ここに売人がいるなんて、なんて治安が悪いカフェなんだ! ホタル先輩! さっさと会計を済ませましょう!」
 リシンは震える手でオレのベストを引っ張る。
「ホタル・ジェットの服はハイブランドではあるものの、レディメイド。服にはそんなに興味がないようね。んで、そっちの彼の服はフルオーダー。見た目にすごくこだわる性格と見たわ。領主さま? ねえ、釣り合わないんじゃないの?」
 ブラック・メイデンは春風のような勢いある毒を吐く。
「一体、どういう意味?」
 バカにされているのか? ちょっと不満げにオレは聞く。
「身の丈を知っている人間とそうでない人間って、大きな差があるって話。だから、言っているの。友だちは選びなよ? って」
 ブラック・メイデンは勢いよくアイスティーを飲み干すと、手を振り、伝票を持って、奥の店へ消えていった。
「な……何しに来たんだ、あいつ?」
 つぶやくオレに、
「な……なんで、先輩は売人が怖くないんですか」
 リシンは犬のように震えている。
「売人なんて存在はいないほうが良いに決まっているんです。あんな下等な存在、どうして警察は捕まえないんでしょうかね!」
 下等な存在か。
 店からブラック・メイデンが出て行ったのを見たリシンは、堂々とした演説のように話し始めた。
「そもそも、売人が存在することそのものがおかしいんですよ。そしてゾーニングされているのならまだ分かりますが、街の方にまで出てくるなんて、おかしすぎます。先輩、どうにか取り締まれないんですか?」
 リシンのオーバーリアクションに、イライラしながらも、
「犯罪をしていない限り、取り締まるなんて、人道に反するよ」
 オレはオレンジジュースをストローで飲み干した。あまりに、イライラしていたので、ズズズ……と音をわざとに鳴らす。
「オレが先輩の立場なら、売人共は全員刑務所にぶち込むんですが」
 リシンはオーバーに小指を立てながら、コーヒーカップを持つ。
「売人はいてはいけない存在なんです。ネズミが病気を蔓延させるように、売人はモラルハザードを起こす。さっさと駆除してくださいよ」
 この言葉に思わずため息をつく。
「駆除、ねえ」
 オレは一ヶ月前のあの彼女の言葉を思い出していた。
 世界には表の人間と裏の人間がいる。裏の人間でも、暗渠のように社会から必要とされている。
 そういえば、大学時代に聞いた話で、実験用のネズミには二種類いて、光が平気なネズミと光を嫌がるネズミがいるという。その差で実験を重ねている研究者がいるとかいないとか、そんな話だった。
 これは、あくまで実験だけど、「裏でしか生きられない人間」がいてもおかしくないよな、とチラリ考える。
「先輩? ですから、あんな下等な存在を……」
 リシンのあまりに無配慮な言動に、オレはイライラがもう収まりきらなくなって、
「帰る」
 伝票を持って、レジへと向かった。
「先輩!」
 止めるリシンを完全無視した。

「ご友人とは、楽しめた……様子ではないようですね」
 帰宅したオレの顔を見るなり、ヒジリの表情は引きつっていた。
「少しポーカーフェイスを学ばれたらどうでしょうか」
 ヒジリは咳払いを二度する。
「なあ、オレってそんなに顔に出やすいか?」
 年甲斐もなく、オレはヒジリに詰め寄った。
「ええ。そうですね。その分、行動力もおありですし」
 ヒジリのメガネが光ったような気がした。
「皮肉はやめてくれ」
 ヒジリから離れたオレは、涼しい風が来るエアコンの前に立つ。イヤな気分を吹っ飛ばしてくれる風だ。気持ちいい。大きく背伸びをする。
「皮肉じゃありません。実際、一ヶ月前の事件解決はお見事でした」
 また、これか。
「あれは、オレ一人じゃ何もできなかったんだ! 例の彼女がいたから、出来たんだ」
「そうですね」
「だから、オレ一人が目立つのはイヤなんだよ……」
 オレは頭をかきむしった。
「旦那さま! ご友人のリシン・フィニルさまがお越しです」
 メイドの一人がオレの前に焦った様子で、現れた。
 会いたくないんだがな。
 ただ、居留守を使うのもなんだし、とりあえず、また会うことにした。
「いやあ、先輩におごってもらうなんて、申し訳ない!」
 リシンを応接室に通した。ソファに座るリシンの顔を見て、こんなにうさんくさい笑顔って、本当にあるんだなと思った。気持ち悪い作り笑顔だ。オレを怒らせておいて、のこのこやってくるなんて、厚顔無恥の極み。見たくもない顔。
「実は本当の用件をお伝えするのを忘れていて。これ、見てください」
 リシンはビジネスバッグからマチ付きの大きな封筒を取り出した。
「恵まれない子どもへ愛の支援を」
 このような文句が書かれているパンフレットが封筒から出てきた。
 なんだ、コレ。
 めくりたくもない。
「寄付のお願いです。うんと南の貧しい国々では、まともに学校に通えない子どもたちがたくさんいるんです。ホタル先輩がオトギリ伯爵としてこの活動に参加していただければ、きっとこの領地内全体が寄付してくれるでしょう。どうです? やっていただけないですか?」
 オレは脳内で、「だったら、お前のその高級な時計を売ってから、こっちに来い」と叫んでいた。
 無茶苦茶、怒りが貯まっているのは理解出来ている。ただ、怒りは数秒で収まるという。なので、大きく深呼吸をしてから、
「考えておく。今日は帰ってくれ。こっちは疲れているんだ」
 ソファから立ち上がり、応接室を出た。

 自室に戻ったオレは、ベッドに身を投げた。
 確かに貧しい国への寄付は大事だが、まずは自分の領地内の政治が大事だ。この領地は豊かな土地ではない。
 ここ、オトギリ領は水は豊富だが、農業をするには気候が寒いため、工業が盛んな領地になった。どの企業も、需要がなければ、風で吹き飛ぶような危ない橋を渡っている。今のところは、重工業や自動車メーカー、半導体メーカー、システム開発系が頑張っているおかげで、領地としての領庫債はそんなにない。税金も領民からそれなりの不満はあるようだが、まあ、この時勢の中、上手くいっていると思う。
 しかし、公害問題が起きたら、一大事。もちろん、領民が苦しむし、補償金を出さなくてはいけない。裁判沙汰にもなる。
 実際、親父が領主のときは、公害問題を先延ばしした上で、無視し、その結果、裁判がいくつも起こされたっけ。もちろん負けたけど。
 この国の国王の政治に少し文句はあったりするが、それはただの個人的な信条の問題であって、上の方の行政や司法が腐ってないのは確かだ。この前のアベルシティのマインドコントロール事件の捜査ではっきり分かったが、警察も検察もきちんと仕事をしている。そのおかげで、オレは安心して領を治めている。 
 ああ、考え事が多すぎて、脳内がスパークしそうだ。少し頭を休めようと、大きく深呼吸して、目を閉じた。
 
「ねえ、いい加減に起きないと、夜、眠れないよ?」
 オレは水晶のようなキラキラした声に起こされた。
 時計を見ると、夕方。日はまだ落ちていない。夕餉には二時間ほど時間がある。
 深くフードをかぶった黒いマントのブラック・メイデンがオレの目と鼻の先で、微笑んでいた。
 ここまで顔が近いと、あの顔もマントの下から見える。
 なんだ。こんなおだやかな表情もできるんじゃないか。なぜだか、ホッとする。
 整った顔はなんともかわいい。思わず、オレの顔もゆるむ。
「何、笑っているのよ……」
 ブラック・メイデンはベッドから離れると、自身の頭を数回指で叩き、
「ねえ、もしかして、寄付金、支払ったりした?」
 と聞いてきた。
「いや。していないよ。アイツの話は半分にして聞いているんだ。っていうか、ブラック・メイデン、どこでその情報を知った?」
「ん……。あの男の調査依頼があっただけ。したら、キミがいたからね。この前の恩もあるし、確認しに来たの。あと、メイデンでいいわよ。長いでしょ」
 メイデンはキラキラと光る宝石のように笑う。
「ところで、オレがレディメイドの服を着て悪いのか?」
 ベッドから身を起こすオレに、
「全然悪くないわ。むしろ、センスが良い。カッコイイよ。あの男、オーダーメイド特有のセンスの悪さが際立っている。あれじゃ、友だちはいないわね。だから、領主さま。友だちを選ばないと、マジで後悔するのは自分だって言っているの。朱に交われば赤くなるっていうけど、あんなのと同じように見られるのは、イヤでしょ」
 メイデンから「カッコイイ」という言質をもらって、少しテンション上がる。
「ま、寄付していないなら、安心したわ。じゃあね」
 メイデンは窓を開け、身を乗り出した。
「ちょっと待て。どうしてそんな話をする? 理由を教えてくれ」
 立ち上がったオレはメイデンのマントを引っ張った。
 せっかくメイデンが会いにきてくれたのだ。色々、聞きたい。
「情報料を支払ってくれたら、話すけど?」
 まあ、そうか。さすが、商魂たくましい。ただ、彼女の情報は前のことから確かなのは明白なので、もちろん支払うことにした。
 お札を数えきったメイデンはポケットに入れると、
「あれ、詐欺よ」
 レモンのようにキリッとした声で言った。
「詐欺?」
 オレはびっくりしちゃって、ベッドに座り込む。
「そうそう。詐欺。金持ちに寄付を募って、でもそのお金はポッケナイナイするの。ハッキリ言い切るけど、あのリシンって男っては、あたしよりもお金に困っているはずなのよ。でも、あんなハイブランドなオーダーメイドのスーツを着ているって不審に思った取引先から、リシンの調査依頼が来たの。したら、あの男と領主さまがおしゃべりしているんだもん。不安になっちゃったってわけ」
 再び身を窓に乗り出すと、
「ま、ご友人を信用するか、あたしみたいないやしい売人を信用するかは、キミ次第よ。あたしは金の分だけ確かな情報を提供したわ。以上!」
 そう言って、飛び降りた。
 って、え、ここ、二階……。
 おそるおそる下を見ると、弾むように軽やかに歩くメイデンの姿が見えた。
 なんか人形みたいでかわいいな。あんなおもちゃ、あった気がする。
「なに、外を見て、顔を緩ませているんですか? 気色悪いですよ」
 真横にヒジリが文句ありげにこちらを見ていた。びっくりして、腰が抜け、尻餅をつく。
「また、彼女ですか? 来たら、夕餉ぐらい食べて帰ってもよかったのに……。色気より食い気でしょう、彼女」
「え、どうして、来たって分かった?」
 ヒジリはオレを思い切り指を指し、
「こっちは人並みに恋愛しているんです! そして、とても素晴らしい良い妻を持っているんです」
「はあ」
「顔を見れば、わかります。というか、旦那さま、もう少し感情を出さないようにしてくださいませんか? さっきだって、フォローするの、大変だったのですよ」
 オレはがばりと顔を上げ、呆れた様子のヒジリに、
「そんなに言われるほど顔に出る?」
 と聞いた。
「ええ、とっても!」
 ヒジリは満面の笑みで答えた。
「じゃあ、オレは彼女と会話するのは悪いことなのか?」
 オレは少しよろめきながら立ち上がる。
「さあね? 私に聞かれましても。それぐらいご自分でお考えになったらどうです? 領主なのですから。領主じゃなくても、大人でしょうに」
 ヒジリは妙にニヤニヤしていた。
 あの一ヶ月前の事件以来、ヒジリは非常に強くサポートしてくれるようになった。時々、どんくさいオレをからかってはくるのは、ちょっとイラつくが、前のように、腫れ物扱いよりはマシなので、
「からかうのは大概にしてくれ」
 と、適当にあしらう。
「ただ、真面目な話をいたしますと、どうでもいい高貴なバカを信用するか、大切ないやしい賢者を信用するかって話ですかね」
「それって、どういうことだ?」
「さあね? では、夕餉の時間になりましたら、またお呼びします」
 ヒジリは一礼すると、大きな音を立てて、扉を閉めた。
 なんだったんだ……。
 オレはベッドに身を投げると、メイデンが話した「詐欺」を思い出す。
 彼女は「寄付金を集めて、自分のモノにする詐欺」をリシンが行っていると言い切った。
 どちらにせよ、情報があまりに少なすぎる。一体どんな詐欺なのか?
「ちょっと調べてみるか……」
 オレはベッドから身体を起こすと、コンピュータの電源を入れた。
 検索エンジンで、リシンのいう団体名を入れる。画面には検索結果がつらつらと並ぶ。しかし、リシンの言う団体名はまったく見つからない。それどころか、公式サイトすらない。
 近頃、公式サイトの一つも作ってないなんて、彼女の言うとおり、不審すぎる。
 オレは頭をかきむしった。
 メイデンのことは年齢も生まれも、何もかも知らない。ただ一度一緒に事件を解決しただけの間柄だ。
 一方のリシンは大学時代からの知人だ。イヤな性格で、オレは死ぬほど嫌いな人間の類いだ。
 どちらを信用するか。
 もしかしたら、彼女がウソをついていて、寄付をしないオレの評判を貶めようとしている可能性もある。
 ただ……ただ。彼女の行動のみを考えてみると、わざわざ「自分の安心」のためだけに確認しに来る必要なんてないのだ。
 それに、世間体を気にしてリシンみたいな男を信用するより、評判が地に落ちても、彼女を信用した方が気分が楽だ。
 正直に自分の考えに信じる道に進もう。

 翌朝、朝餉の時間より早く起きて、リシンのパンフレットに書かれた住所へ向かった。
 場所は田舎も田舎。列車も通ってない場所だったので、車で向かう。
 カーナビが案内を終了しますと告げた場所は、非常に二階建てコンクリートのボロいアパートだった。周りは雑草だらけ。砂利でできた駐車場。壁にはツタが生えていて、ひび割れが酷い。申し訳なさそうにある金網は、サビで真っ赤だ。
 オレは車から降り、アパートのサビだらけで今にも崩れ落ちそうな階段に足をかけようとしたとき、
「ちょっと! キミがなんでいるの?」
 朝日に照らされた水晶のような声がした。
「昔の言葉で、飛んで火に入る夏の虫ってあるのよ。一人で来るなんて信じられないわ! もしかして、寄付しにきたの?」
 メイデンだ。なぜか彼女の声から怒りを感じる。
「いや、君の言うとおり、マジで詐欺っぽいから、事務所を当たってみようと……」
「え、本気で? また自分から動くの? やっぱ、キミ。行動力、すごいね」
 何故かメイデンから褒められた。なんか、ヒジリに褒められるより、うれしいのはなぜなのだろう。
「なに、ニヤついているのよ。気持ちが悪いわ」
「そうか?」
「そうよ」
 オレは彼女に下心がバレないように、
「まあ、そんなこと、今はどうでもいい。詐欺グループの様子を調べるのが先だ」
 階段を上り始めた。
「ねえ、そこ、誰もいないわよ。ペーパーカンパニーっていうのかな? 会社じゃないけど、ここは登記上の場所であって、誰もいないわ」
 メイデンの言葉にオレは振り返った。
「え、どういう……?」
「そのままの意味。アジトはココじゃないってこと。詐欺師たちはいないわ」
 階段から降り、メイデンの肩を掴み、
「どうして分かるんだ?」
 と尋ねた。
「だって、一週間見張っていたけど、だれも来ていないんだもん。健全な団体なら、誰かは出入りするはずでしょ。でも、誰も来ていない。一度もね。しかも、こんなボロアパートよ? 半分廃墟みたいな場所で寄付金集めなんて、普通はしないわ。危ないでしょ、色々と」
 なるほど。彼女の言葉はもっともだ。
「あ、あああああ……」
 メイデンはうなだれた。一体何が起きた?
「この情報、十分売れるものだったわよ! キミといると調子が狂っちゃう。何でも話したくなる衝動が起きちゃうわ。あたしに何か呪いでもかけている?」
 メイデンはオレの顔をマジマジと見上げた。空色の目がキラキラと光っている。
「だから、どうして、ニヤニヤするのよ……」
 メイデンは顔を横に振ると、ため息をついた。
「ため息は早死にするよ。ま、その情報分、好きなのおごるから。車に乗りなよ」
 オレは助手席を空けた。
「え、いいの?」
 メイデンの声はワントーン上がった。
「じゃあ、ラーンドーンのストロベリーパフェ! アイスとイチゴとジャムがたっぷりのっているの、あれが食べたい!」
 有名でお高いフルーツパーラーだな。懐は少々寂しくなるが、約束は守るべきだ。
 二言はオレの信条に反する。
 助手席に座り、シートベルトをしめたメイデンを確認すると、オレは運転席に乗り、エンジンをかけた。

 無事パフェを食べ、上機嫌のメイデンを乗せたオレは、彼女の情報である実際のアジトへ向かうことになった。
 フルーツパーラーでは、完全に彼女は浮いていた。一人じゃ入れないのよね、と自虐しながら、堂々と一番大きく高いパフェをを注文し、ペロリと平らげた。見ているだけで、胸焼けしそうなぐらい大きなパフェだった。
 その胸の苦しさは、マントの下から見える笑顔のメイデンと周りの客の対比の態度もあったのだろう。
 やはり、売人は影の存在なのか。
 思考がそれた。
 彼女がいう「その場所」とは領地内屈指の工業の街ゴモラシティだった。
「こんなところにアジトなんてあるのか?」
 小さな個人商店の工場が並ぶ狭い路地を二人で歩く。
 ガソリンの匂いがすごくキツくて、目の前がクラクラする。土埃が舞うので、くしゃみを何度もする。
「ええ。そうよ。ご覧の通り、人がたくさんいるでしょ。んで、ここってジャンクパーツを売り歩いている売人が多いの。で、売人も一般人もお互いを信用していないから、掛け取引をしない場合が多々あってね。キャッシュで買う人が大半なの。だから、どの工場にも現生がたくさんあるのよ」
「っても、現金が多くあるとはいえ、詐欺なんて警察は捕まえるんじゃないのか?」
 メイデンは首をひねって、話を続けた。
「ゴモラシティは売人が多く住んでいるから治安が少々悪いの。だから、もちろん警察が抜き打ちで捜査しに来るわ。ラリる薬を扱う売人を逮捕したりね。一方で、詐欺った大金が金庫にあっても、そんなに不審がられないのよ。ああ、ここも現金取引でやっているんだな、程度で抜き打ちが終わっちゃう。推定無罪だから、証拠がなければ捕まえられないってわけ。どれだけ印象が悪くてもね。つまりカムフラージュ、カムフラージュ」
「ふうん。カムフラージュ、ねえ」
 オレは頭をかく。
「でさ、こんなに雑踏としている中、どうやって詐欺グループを探すんだ? カムフラージュされているなら、オレたちも分からないんじゃないか?」
「そうね。それは正しい。だから、お金で解決するわ」
「お金?」
「ええ、あたし、売人ですから」
 メイデンはくすりと笑うと、ホースを巻いている少年に話しかけた。油まみれのつなぎをきた少年は、
「売人が話しかけてくるなよ」
 いぶかしげに、にらみつけている。メイデンは、
「まあ、まあ。そんなことは言わないでよ。ねえ、ここに不釣り合いな服装の人物を見なかったかしら? 例えば、スーツを着た男とか」
 少年の反応を無視し、尋ねる。
「そんなの知ったことじゃねえよ。売人ごときがつきまとうんじゃねえ」
 ホースを巻き終わった少年は、メイデンを思い切り睨む。
「この金額があれば、はじめてできた彼女にネックレスの一つも買ってあげれると思うけど?」
 メイデンはお札を数枚ひらひらさせる。少年は少し動揺を見せる。
「今度のデート、金欠だから、どうしようか悩んでいたんじゃないのかしら?」
 少年の売人たるメイデンへの対応が、お札を見せただけで、コロリ変化した。
「わ……分かったよ。二筋向こうのピンク色のビルに入っていくところを見たよ。そこのあんちゃんよりも派手で浮いていた。これでいいか?」
 少年がぶっきらぼうにそう言うと、メイデンは、
「ありがとう。十二分よ。彼女と楽しんできてね」
 と、お札を渡した。
 つなぎのポケットにお札を入れ、ほくほく顔になった少年を見送ると、
「さて。これで大体の居場所はわかったわね」
 メイデンは歩き出した。オレはマントをつかみ、
「今のはどういうことだ? どうしてあの男の子に彼女がいると分かったんだ? 調べたのか?」
 とメイデンに聞いた。
「知っているはずないでしょ。あんなガキ」
 メイデンは不機嫌そうに話す。
「なら、なぜわかったの?」
「指輪。工場で働く男性が指輪なんて、普通付けないわ。危ないからね。でも、彼は付けていた。初めての恋愛で浮かれているんでしょう。あとで、親方に怒られそうだけど。んで、あまりにチープな指輪だったから、結婚指輪ではないと思うの。年齢的にも若すぎると思うし。まあ、かまをかけたってヤツね」
 彼女の頭の回転には、舌を巻いた。
「さて、これで満足かしら? では、いきましょ」
 メイデンは歩き出した。
 
 あれから十分ほど歩くと、ピンクのビルが見えてきた。壁には大きなヒビ。全ての窓ガラスは砕け散っていた。どうすればこんな風になるんだろう。
「ちょっと、耳を澄ませて。何か、聞こえるわ」
「聞こえるって……ああ」
 ピンクのビルから、数人の男の品の悪い言葉が聞こえてきた。
「リシン、貴様、あの伯爵さまから、まだ金を集めていないのか?」
 え、リシン?
 二階の割れた窓ガラスの向こうで、リシンがうなだれているのが見えた。それだけでもびっくりなのに、顔には擦り傷がついて、血はダラダラと流れている。その様子をつぎはぎだらけの汚れたソファに座った大柄な男が見ていた。その男は偉そうな態度で、この手の人間はオレが嫌いなタイプの人間だ。殴りたくなる衝動に駆られる。どうすればこんなに太れるのかというレベルで、だるだるに太っており、とてもみにくい笑みをしていた。周りには数人の屈強な男がリシンを取り囲んでいる。
「本当のアジトはここだったようね。んじゃ、証拠を集めなきゃ」
 メイデンは名刺入れ型の金色のカメラで、その風景を撮ってく。
「ここから音声もとれるかな……」
 カメラをしまったメイデンは、マントの下から、ICレコーダーも取り出す。
 なんていうか、このマントは魔法のポケットか何かか?
「静かにしてね」
 ICレコーダーを持った腕を伸ばす小柄なメイデンの姿は、まるでパペットに見える。
「オレがとるよ」
 メイデンからICレコーダーをぶんどると、オレはビルの脇にあったガスボンベによじ登り、声がはっきりととれるように、かかげた。
「これでは、利子にもならないぞ。さっさと伯爵から協力してもらえ」
 思い切りリシンは頬をはたかれ、はじけ飛ばされる。
「は……はい」
 リシンは頬を触りながら、立ち上がる。
「キャッ」
 メイデンの声にオレは振り返ると、イカツイ男二人がオレたちにピストルを向け、睨んでいた。そのうちの一人はメイデンの腕も思い切り掴んでいる。
 ICレコーダーを乱暴に盗られ、踏まれてしまった。メモリーカードが二つに割れた。これじゃ、データは壊れただろう。
「こそこそかぎ回っているヤツがいると聞いていたが、まさか、ブラックの一味だったとは」
「しかも、ブラック・メイデンだぜ。この女に目を付けられると、やっかいなことになる。どうする? ここで殺しておくか?」
 オレは血の気が一気に引いた。落ち着くように、震えるくちびるを噛むと、覚悟を決め、
「殺すなら、オレを殺せ。オレが巻き込んだだけだ」
 メイデンを男から引き離すと、背中の方へ彼女をかばった。
「黒き情報屋の若頭、ブラック・メイデンに味方がいるとはな! おもしろくなってきたな! じゃあ、ご要望通り……」
「いや、待て。こいつ、領主じゃないか?」
 トリガーに指をかけた男に、もう一人の男は茶化すように、オレを指さす。
「まさか! まさかあ!」
 男二人は下品に笑う。
「リシンに聞いてみるか?」
「連れてくる」
 オレを「領主」と言った男がビルの階段を上がっていった。その足音は雑で下品だった。
「ホタル先輩、どうしてここに?」
 上の階から乱暴に連れてこられたリシンの顔は、真っ赤に腫れ上がっていた。血だらけだが、おそらく死ぬまでのケガではないだろう。
「オトギリ伯爵なのは、確かか?」
「ええ! そうです!」
「そうか、殺すのはおしいなあ。どうする?」
 そのまま二階に上げられたオレとメイデンは何も言わず、静かに立っていた。
 ボスとおぼしき、みにくく太った男がニヤニヤ笑っている。
「ただ、あのブラック・メイデンですぜ? こいつには何度イヤな目に遭ったか……」
「だったら、更生しなさいよ。あんたらがあくどい商売をしているせいで、こっちは商売あがったりなときが多いんだから」
「うるせぇ!」
 ボスは脂肪を揺らしながら、メイデンの額に拳銃を突きつける。
「んじゃ、ブラック・メイデンは好きにしろ。最後には、きちんと殺せ。領主はオレがどうにかする」
 屈強な男に首元を絞められたメイデンは、苦しそうな声を上げ、もがく。
 しかし、抵抗むなしく、小柄な彼女はそのまま部屋から連れ出されてしまった。
「ううん……。どうしようかね。領主さまがいなくなったら、おおごとになるし……」
「でも、見られた限りは……」
「ヤクでも打っておく?」
「レコーダーは壊したし、分量を間違えたヤクでも打っておけば、自然に死ぬ。ヤク中の領主さまってことで、ゴシップも待ったなしだ! ベストな方法だな!」
 なんかヤバい会話が聞こえてきた。
 どうしよう。どうしようか、グルグル頭を回転させる。
 逃げたくても、オレの後ろには拳銃を突きつけた男がいるのだ。逃げようにも逃げられない。
 でも、鉄砲で死ぬか、薬物で死ぬかの二択でしかない状態だ。まあ、オレのことよりも、メイデンは大変な目……死なれるのもイヤだが、女性としての尊厳が守られているかが不安だ。
 どうする? 一暴れするか。
 爆発音が聞こえた。同時に火薬の匂いがする。
「ほこりっぽいのが悪いのよ。爆竹がほこりに引火するなんて、どれだけ汚い部屋なのかしら。火傷はしなかったけど、おかげでマントが燃えちゃったじゃないの!」
 ブラック・メイデンが部屋に入ってきた。焦げたマントを脱ぎ捨てる。
 くしゃくしゃな黒髪に、この場に似合わぬ似合わぬ空色のアーモンドアイがキラリと光った。
 そのままの勢いで、レッグポーチから、棒手裏剣を取り出すと、オレを取り囲んでいる男たちに向かって連続して投げた。
 コントロールはバツグンで、服がビリビリに避ける程度で、血は一滴も流れていなかった。しかし、勢いのあったためか、全員ビビった様子で伏せる。
「ねえ、これが心臓に当たったら、どうするつもり?」
 メイデンはオレに銃を突きつけた男の後ろに立つ。
「ねえ、どうするの?」
 楽しげな声でメイデンは尋ねる。
「貴様!」
 拳銃を突きつけた男はオレを足で蹴り飛ばすと、メイデンに向かって、拳銃を向けた。
 しかし、発砲はしなかった。
「あんた、機転が利くのね」
 メイデンの棒手裏剣が拳銃の筒に刺さっていた。
 確かに、この状態で発砲は危険だ。暴発の危険がある。
 消防車とパトカーのサイレンが聞こえてきた。
 イカツイ男たちはドタバタと二階の窓から逃げようとして、おしくらまんじゅう状態になっている。なんだか面白い。
「俺が先だ!」
 ボスは叫ぶが、男たちは聞いちゃいない。窓際で大騒ぎしている。
「あらら、さっきの爆発で通報されたのかしら? まあ、ボヤ騒ぎにはなりそうね」
 ブラック・メイデンは、慣れた手つきで、カバンからいつもの黒いマントを取り出し、着た。
「スペアがあるのかよ」
「乙女のたしなみです」
「さいですか」
 オレたちは飛び込んできた警察にそのまま保護された。

「だーかーら! 私たちを頼れって、何度言えば分かるんですか!」
 一時間後、警察から解放されたオレたちは館でヒジリに無茶苦茶怒られていた。
「でも、詐欺の横行を暴いたのよ。ヒジリさん。そこまで責めなくてもいいんじゃないの?」
「まったく、あなたもあなただ! 旦那さまを巻き込む必要なんてなかったんですよ? どうして巻き込んだんですか?」
 ヒジリは湿った目でメイデンを見る。
「領主さまが情報が欲しいっていうから、情報先を案内しただけよ。こんな目に遭うんだったら、あたしも行かなかったわ!」
 メイデンも負けじと反論する。
「はあ……。まったく。若いっていいですね」
 ヒジリはあきれかえったのか、肩を落とした。
「とりあえず、二人とも湯浴みをしてきてください。火薬と油臭いですよ。それから、夕餉がありますから、ブラック・メイデンも一緒に」
「え、いいの?」
 メイデンの明るい声に、
「この家から、汚い姿で出て行ってほしくないだけです」
 ヒジリはピシャリと言った。

 あー。さっぱりした。
 お風呂って、どうしてこんなに気持ちいいのだろう。
 どうやら、メイデンはまだ湯浴みしているようだ。ついでに服やマントも洗われたようで、陰干しされているのを見た。
 洗濯していたメイド曰く、服は良くないが、マントだけはとても良い生地のようで、身の丈に合わないのでは? しかも三枚も! と首かしげていた。
 こんな上等なマントを複数枚持っているブラック・メイデンって一体何者なのだろうと不思議に思いながらも、まあ、彼女の過去に首を突っ込むのは野暮である。疑問は疑問のままでおいておこう。
 ダイニングで待っていると、メイデンが真っ白なワンピースで現れた。
 髪はつややかだ。化粧もされたらしく、さっきとは打って変わって、印象が大人だ。
 びっくりして、飲んでいたお茶を吹き出す。
「笑わなくていいでしょ! 気がつけば人形状態だったんだから!」
「人形状態……」
 メイデンは顔を真っ赤にさせ、
「そうそう。あたしは着せ替え人形じゃないっていうの! この服の方がとかこっちがいいかもとか、メイドさんたちがキラッキラした目であたしを見るの! 一体、何が楽しいのかしら。本当は誰にも顔を見られたくないのに」
「容姿が良いからだろ……。だから、顔を隠しているんじゃないのか? 変な目に遭わないために」
「え?」
 すっとぼけた空色の目でメイデンはオレを見る。
「違うわよ。ワケは言えないけど」
「ふうん」
 まあ、アンタッチャブルなんだろうな。聞かないでおく。
「んじゃ、席はオレの隣でいいか」
「うん」
 メイデンはぽんと可愛らしく、隣に座った。
 
 メイデンは小柄な容姿から想像できる三倍の量を食べた。
 間近で見るメイデンはとても可愛い。見てて、飽きない。
 顔を隠すようなマントなんて着ける必要あるのかな。
 ま、化粧のせいもあるかもしれないけど。
 夕餉の後、すぐに館を出るつもりだったらしいが、マントをスペアを含め全部洗われたため、メイデンは泊まることになった。
 明日、色々聞こう。聞かなきゃいけないことはかなり多いし。

 それで、翌朝のこと。ヒジリのひっくり返った声で目が覚めた。
 どうやら、ブラック・メイデンがいなくなったらしい。
 干されたマントも服もすべてなくなっていたようだ。
「朝餉ぐらい食べてけばよかったのに」
 ヒジリはため息をつく。
 オレも色々話したいことがあったのにな、と残念に思った。
 機会があれば、また会えるだろう……。なんか、前回と違って、妙な期待感があった。
 そして、その期待は当たった。
 昼前にブラック・メイデンが館に帰ってきたのだ。
 正攻法ではなく、オレの部屋の窓からなんだけど。
「警察署に行ってきて、証拠を預けてきたの」
 メイデンは部屋に入るなり、開口一番にこう言った。
「昨日、渡すの忘れてて。また忘れないうちにって、出かけたの」
「なあ、マイペースって言われないか?」
「キミこそ、言われるでしょ? ヒジリさんあたりにさ」
「うぅ……」
 反論はできない。
「あたしは七つ道具を持っているの。名刺入れ型カメラに万年筆型ライト、棒手裏剣とか、虫眼鏡とか。色々あるわ。これで情報を集めているの。黒き情報屋として、新鮮な情報をね」
 七つ道具とは。まるで探偵だ。
 って、ん?
「え、ICレコーダーは違うの?」
「うん。あれはオトリ。実際はこっちで撮っていたの。これで撮った動画を警察に預けてきた」
 ブラック・メイデンはマントの下から、ケーブルにつながれた黒い小型レンズを出した。
「コレをしばらくずっと耳元にかけてたの。別室に行ったとき、取れちゃったから、それ以後は撮れていないけど、それまでのデータはすべて無事残ってたわ。データのサルベージするのには苦労はしたけど、それぐらいの技術は持っているからね。ちゃんと映像が取り出せたわけよ。そしたら、この詐欺のトップの情報まではいっていたみたいでね! びっくりしたわ!」
「マジでか……。何がどうなるかわからないものだな」
 ブラック・メイデンは楽しげに笑う。
「ってことで、一週間もかからず、あのブッサイクなボスの上の上まで、芋づる式で捕まりそうね。リシンって男も、もちろん捕まるわ。ね、言ったでしょ。友だちは選びなって」
 オレは一拍黙った。それから、
「なあ、リシンはどうしてあんな寄付金詐欺に加担したんだ? 理由、知っている?」
 と質問してみた。ブラック・メイデンも一拍考えたあと、
「ううん……昼ご飯食べさせてくれるなら。昨日、湯浴みもさせてもらっちゃったし、夕飯も頂いちゃったし、服も洗ってもらったし、それでいいわよ」
「昼飯ぐらいでいいのかよ……。本当にそれだけでいいのか?」
 オレはため息をつく。
「ここのご飯、とても美味しいから。うふっ。ありがとう。じゃあ、話すわね」
 ブラック・メイデンはマントの下から、たおやかに笑うと、話を続けた。
「リシンはレバレッジをかけて……つまり、元本の数倍ものお金をかけて、投機……投資じゃないわ、投機をしていたの。で、失敗。投機はギャンブル性が高いからね。何度もやって、負けを取り戻そうとして、また失敗して……の繰り返し。結果、借金まみれになったわ。でも、あいつはとても見栄を張る男。とうとう、ヤミ金に手を染め、また投機した。で、大失敗。ヤミ金に返すお金すらなくなっちゃった。で、犯罪に加担させられたの。自業自得って言ったらそれまでかもしれないけれど、こいつもある意味被害者ったら、被害者なのよね。でも、法治国家だもん。犯罪は裁かれなきゃ」
 法治国家、か。
 確かに領地を治めているのはオレになるのだが、それは、法律に則っているだけで、別の国では、世襲ではなく、選挙という多数決で、首長を決めているらしい。つまり、領主や売人など、そんな階級なんてものがなく、国民みんな平等なのだそうだ。
 これはこれで問題点がいくつも……例えば、多数決とはいえ、選挙で選ばれる人が世襲になっていたり、そもそも選挙に参加する人が少なかったり。ただ、生まれだけで、生きる世界が違うのはこの国の問題だとは思う。そら、アベルシティに行って、子どもを学者や政治高官にさせたがるよな。結局はマインドコントロールに遭うんだけど。一長一短とはこのことかもしれない。
「ねえ、聞いてる?」
 ブラック・メイデンの言葉にオレは我に返った。
「考え込む癖があるのはいいけど、顔が怖くなるのは、ちょっとイヤだな」
「と、言われても。ま、感情をすぐに顔に出さないようにする努力はしてみる」
 オレの言葉が面白かったのか、ブラック・メイデンは楽しげに笑った。なんかオレもおかしくなってしまい、笑ってしまった。
 そして、昼餉の時間を伝えに来たヒジリに怒られた。
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