第1話

文字数 1,238文字

 いきなりで申し訳ないが、俺は天才である。
 世界中どこを探しても、俺を越える人間はいないと言っても過言ではない。
 その証拠に、計算に十時間以上かかるような、大学院レベルの高等数式だって、瞬時に計算できるほどの頭脳を有しているし、モーツァルトのようなオーケストラの楽譜も数分で書き上げる事ができる。イチローや大谷翔平並みの野球センスも持ち合わせているし、伊集院光のように雑学すら、誰にも引けを取らないと自負している。
 ダ・ヴィンチ以来の万能の天才とは、俺を置いて他に無い。
 文章では伝わらないだろうが、まぎれもない真実だ。
 一見、何の変哲もないホームレスのようなみすぼらしい格好をしているが、実際はその一歩手前であり、断じてホームレスではない。

 俺のどこが万能の天才なのかと疑問の声もあるだろう。ここではそんな一般庶民へ、その一部を紹介したいと思う。

 例えばあやとり。
 知らない人はいないと思うが一応説明すると、あやとりとは五十センチほどの一本の紐の両端を結び、輪っか状にしたものを、両手を使って様々な模様を作り上げる遊戯の一種である。「川」や「橋」などが有名で、子供の時に遊んだ経験がある人も少なくはないだろう。
 俺は、あやとりを使っておそらく誰も見たことのないような模様を作り出すことができる。
 それは天使だったり、コロッセオだったり、ナポレオンや坂本龍馬といった偉人の顔も出来ちゃったりする。
 文章では証明できないのが残念なところであるが。

 氷細工の才能だってある。
 結婚式などで飾られるような氷の白鳥や、ハートのオブジェは言うに及ばず、実際に遊べるけん玉や漕ぐことのできる自転車。
 蜘蛛の巣や針の動くゼンマイ時計すらも再現する事は可能。
 用意さえしてもらえれば、等身大の東京タワーだって作ることができる。もちろんエレベーターもちゃんと稼働し、展望台にだって登れちゃう。
 そんな真似ができるのはおそらく世界中で俺一人だろう。
 これも文章では証明できないが、信じてもらう他はない。

 俺の万能ぶりは留まる事を知らない。
 記憶力だって抜群だ。
 電話帳を一度めくれば、全ての名前と番号を完璧に記憶することだって出来てしまう。風景だって、一度目にすれば、写真のようにキャンバスに描くことだって朝飯前だ。それが仮に一年前だろうが十年前だろうが、俺に不可能は無い。
 文章で証明できないのが非常に悔しいところである。

 他にもある。
 誰しもがこんな経験はないだろうか? 
 好きな異性に想いを伝えたが、返事はノー。こんな恥をかくくらいなら、いっそ告白しなければよかったと自己嫌悪に陥ってしまう。
 俺ならこんなミスはしない。
 たとえ相手が大富豪の令嬢やトップアイドルなどの高嶺の花であろうが、自分から告ることなく、相手の方から言い寄らせることが可能だ。
 おかげで女に苦労したことは無い。いくつか具体的なエピソードを上げたいところだが、真偽のほどを文字では伝えられないだけに、残念でしょうがない。
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