5 メリーさんの羊

文字数 1,931文字

5 Mary Had a Little Lamb
 エジソンが生きていたら、意気揚揚とすべてのメディアを使い、私の発明によって、環境問題に対する解決法が確立されつつあると訴えることだろう。エジソンは、いつもの通り、陽気かつエネルギッシュな態度で、大好きな記者会見に臨む姿が目に浮かんでくる。そこでのエジソンの言葉は、「電気は決して怪物などではないし、わたしもフランケンシュタイン博士ではない」という信念をこめつつも、どこまでもいかがわしく、妙な希望にあふれているに違いない。けれども、それこそが20世紀だ。エジソンはあまりに20世紀を体現している。

 そういうエジソンをめぐって、寺山修司の『エジソン』によると、『戦艦ビナフォア』の次のような替え歌が吹きこまれている。

おれは電灯の魔法使い
それに頭もさえている

 エジソン自身が本当にそう思っていたかはわからない。ただ、30歳だった1877年、蓄音機に人類最初の音声を録音する際、ある童謡を選んでいる。その歌詞は19世紀初頭にサラ・ジョセファ・へイルが書いたものだ。当時、アメリカでは、女性が学校へ行く必要などないというのが通説である。しかし、サラはそれを打破するために、その歌詞を書いている。

 エジソンは、最後に大笑いしながら、その童謡を次のように歌う。

Hello. hello, hello.

Mary had a little lamb
Its fleece was white as snow
And everywhere that Mary went
That lamb was sure to go.

Ha, ha, ha, ha, ha.

 エジソンは生涯二度結婚している。最初の妻とは24歳の時に結婚し、3人の子供をもうけ、13年連れ添った後に死別する。彼女の名前はMaryという。
〈了〉
参照文献
ウォーク編、『電気のしくみ小事典』、講談社ブルーバックス、1993年
小関智弘、『ものづくりの時代』、日本放送出版協会、2001年
見城尚志、『図解・わかる電気と電子』、講談社ブルーバックス、1999年
後藤尚久、『図説・電流とはなにか』、講談社ブルーバックス、1989年
斉藤芳正、『はじめてのOR』、講談社ブルーバックス、2002年
坂本龍一=細川周平編、『未来派2009』、本本堂、1984年
竹内均、『物理学の歴史』、講談社学術文庫、1987年
堤井信力、『静電気のABC』、講談社ブルーバックス、講談社、1998年
寺山修司、『さかさま世界史怪物伝』、角川文庫、1974年
橋本尚、『電気に強くなる』、講談社ブルーバックス、1979年
橋本尚、『電気の手帖 電気がまから超LSIまで 改訂新版』、講談社ブルーバックス、1985年
村上陽一郎、『新しい科学史の見方』、日本放送出版教会、1997年
室岡義広、『電気とはなにか』、講談社ブルーバックス、1992年
森毅、『悩んでなんぼの青春よ』、筑摩書房、1990年
森毅、『異説数学者列伝』、ちくま学芸文庫、2001年

W・テレンス・ゴード、『マクルーハン』、宮澤 淳一訳、ちくま学芸文庫、2001年
メアリー・シェリー、『フランケンシュタイン』、山本政喜訳、角川文庫、1994年
マシュウ・ジョセフソン、『エジソンの生涯』、矢野徹他訳、新潮社、1974年
マーガレット・チェニー、『テスラ 発明王エジソンを超えた偉才』、鈴木豊雄訳、工作舎、1997年
スティーヴン・バン、『怪物の黙示録―『フランケンシュタイン』を読む』、遠藤徹訳、青弓社、1997年
P・K・ファイヤアーベント、『方法への挑戦』、村上陽一郎他訳、新曜社、1981年
P・K・ファイヤアーベント、『自由人のための知』、村上陽一郎他訳、新曜社、1982年
P・K・ファイヤアーベント、『理性よ、さらば』、植木哲也訳、法政大学出版局、1992年
P・K・ファイヤアーベント、『知とは何か 三つの対話』、村上陽一郎訳、新曜社、1993年
ゲルハルト・プラウゼ、『天才の通信簿』、丸山匠他訳、講談社文庫、1984年
ニール・ボールドウィン、『エジソン 20世紀を発明した男』、椿正晴訳、三田出版会、1997年
I・B・マッキントッシュ、『あなたの知らないビル・ゲイツ』、京兼玲子訳、文芸春秋、2000年
アンドレ・ミラード、『エジソン発明会社の没落』、橋本毅彦訳、朝日新聞社、1998年
ジャネット・ロウ、『ビル・ゲイツ立ち止まったらおしまいだ!』、 中川美和子訳、 ダイヤモンド社 、1999年

NHKテレビアンコール・3か月英会話、『平野次郎の英語の中の20世紀』、日本放送出版協会、1999年
小学館ウィークリーブック、『週刊美術館43』小学館、2000年
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