#04

文字数 1,414文字

 貯金がない。
同じ世代の平均賃金より少し高い会社に勤めているのに貯金が一切ない。基礎化粧品のランクも落ちた。年齢を重ねるごとに普通はランクを上げていかなくてはならないのに。服もバッグも靴も欲しい。

就職した時に借りたこのワンルームも2人じゃ手狭で、できることならもう少し広いところに引っ越したい。今の私には金銭的余裕がない。それも致し方ない。
1人養っているようなものだったから。


 なにかバイトしよう。
私はそう思って、パソコンで求人を調べ始めた。靖幸のように深夜のコンビニを考えたが、寝ずに仕事に行くのはやはり体力的にきついので、仕事の後短時間だけ働きたい。
ただダラダラとスクロールし求人を流していく。目ぼしいものは見つからずに次の似たようなサイトに移ってまたスクロールを繰り返す。

そのうちにただ眺めてるだけで意味をなしていない行動になったが、突然時給2500円の求人が目に飛び込んできた。“ナイトワーク”と記されていてキャバクラのことだとすぐに気づいた。1週間あたりの出勤日数も労働時間も自由で時給2500円、それは今の私にとってとても魅力的だった。大学生時代、仕送りだけでは苦しいという理由でキャバクラでバイトしている子が何人かいた。彼女たちにもできるのだから私にもできるかもしれないと、そのままの勢いで応募フォームに入力し送信を押した。

数時間後そのキャバクラから折り返しのメールが来て面接の日時が決まった。
同じころ帰ってきた靖幸にこの話をした。

「オレは別にいいけど、体だけは大切にしてな」

と、私のことを心配してくれていた。


 会社から数駅離れた繁華街にそのキャバクラはあった。面接の日を迎えた。
店長の伊藤(いとう)という男性が名刺を差し出し面接が始まった。水商売という未知の世界で不安げな私に対し、接客業だからか口調は柔らかく笑顔で丁寧に質問をしたりお店について詳しく説明してくれたが、やはり水商売というだけあって外見は靖幸とは違う艶っぽいスーツでアクセサリーを身に着けて髪は茶色かった。

水川(みずかわ)さんさえよければ、ぜひウチで働いてください」

と私のことを礼儀正しく苗字で呼び採用が決まった。

最終的に働くかどうか決めるにあたって体験入店という制度がある。お試しで1日仕事を体験できるのだ。まだ決め兼ねていた私はそのまま体験入店をすることにした。


<体験入店することにしたから帰り遅くなるね>
と、靖幸にメッセージを送った。

<がんばって!>

<お店での名前何にしよう>

<突然の大喜利やめろて>


結局お店で使う源氏名という偽名が思いつかずにいると伊藤が

「凜ちゃんてかわいい名前だから、そのままでもいいけど……。じゃ、リリーとかは?」

と、提案したので私はこの店ではリリーと名乗ることとなった。

 お店の派手なドレスを借りて、髪をボリュームのあるアップにまとめてもらい、きらびやかなホールに出た。キラキラと輝く女性たちの間をぬって、まだドレスに馴染めていない私は知らない人と次から次へと会話をした。

私は仕事を終える時間を迎えその日のお給料をもらって、後日連絡するということにしてその店を後にした。この短時間でこれだけになるのかと計算上わかってはいたが驚いた。
お酒を飲み、慣れないことをしたせいか疲れ果てて、髪型と服装がアンバランスなまま終電にゆられて家へ帰った。


家には靖幸がいて

「凜、めっちゃきれいやん」

と、いつもより派手な化粧と髪型のまま帰ってきた私を褒めた。
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