#05

文字数 1,307文字

 私はキャバクラで働き始めた。

週2回は終電に間に合うようにお店を上がり1時ごろに家に着く。金曜日はお店が混雑するので深夜2時まで働いて送迎車に送られて帰る。おかげで会社では居眠りしそうになったし、土日はぐったりでほとんど家で過ごした。

疲れてはいたが金銭的に少し余裕が出たのは確かで、美容院にも行けたし新しい服も買えた。
靖幸は気をきかせて平日の昼間に洗濯や掃除をして協力してくれていたので、彼の新しいスーツも買った。


 高級感のあるキャバクラだったから同年代の子が多くて気軽に話せるようになった子が何人かできた。
私はこの商売1つで生活してる子とは違って会社と掛け持ちだったので、“ヘルプ”という立場だった。お客さんが指名した女性の代わりをして場をつないだり、そういう人気者のサポートをする役割だ。

 しかし、私もいつの日からか指名がもらえるようになった。この指名の数が1か月ごとにカウントされて女性の成績となって給料に関係してくる。ヘルプの私は固定の時給しかもらえない契約だったので、1指名当たりいくらかのプラスアルファが付くくらいであまり関係なかった。

それを靖幸に話すと

「凜はかわいいし、人気でると思ってたよ。
しかも芸人といるせいで、話おもろい子になってるはずやし」

と言ったけど、自分ではそんな気はぜんぜんしなかった。


 そんな生活が3か月くらいたった頃、キャバクラの店長・太田が

「リリー、人気出てきたしヘルプじゃなかったらもっと稼げるのに」

と言う。
もっと稼げるのは魅力的だが、今以上に出勤してたら会社に行くのがつらくなってしまう。体力的に無理がある。

「彼氏のためにもコレ1本でやってみたら?」

太田には靖幸の件を話していたので、そう提案された。

でもやっぱり大学まで出してもらって、それなりの会社に入ったのに辞めるなんてできない。靖幸だって少しづつだが給料が増えている。もう少ししたらまた会社だけの生活にも戻れるかもしれない。

 家に帰って靖幸に話すとそれもいいかもしれないと言う。

「凜は学歴もいいし、いつでも昼間に戻れるやろ」

確かにそうかもしれない。私は学歴もいいし、資格もある程度もっている。30代になってから転職なんて今はめずらしくない。一生水商売で生計を立てていくほどの器量はないけど、20代の若いうちに、稼げるうちに稼ぐのはいい案かもしれない。

靖幸もがんばってるんだから、私もがんばらないと……。現実的に金銭的余裕があったほうがいいのは間違いない。


 ある晩、キャバクラの仕事とは別に会社帰りに太田とミーティングという名目の食事に行った。少しの間、キャバクラ1本でやってみようかと相談する為に。

キャバクラ近くの高級鉄板焼き屋だった。カウンターに並んで座った私達の目の前の大きな鉄板でシェフが野菜や肉を焼く。
それを見ながら太田は言った。

「リリーなら、ちょう稼げるよ。っていうか稼がせてあげるから。信じて」

音を立て徐々に焼けていく肉を見ながら私はその言葉を聞いて、決意を固めた。

「リリーみたいにかわいくて、彼氏思いのイイ子いないよな」

と、出来上がったばかりのステーキを頬張りながら太田が言った。

私は1か月後会社を辞めた。
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