文字数 408文字

 大災害から百年という重く長い月日で、すっかり太郎さんは精神的にも肉体的にも、ほとほと疲れ果て、じつに味気ない無為な日々をやむなく送り続け、みるみる年老いてしまった。
 黒く大きな穴が、ぽっかりと開いてしまった現在となっては、その大災害の生き残りである被害者の成れの果て。その心にできた後遺症でさえも、いまでは現実にあったことなのか?……年老いた私の陰鬱な気持ちからくる、ぼんやりとした頭のなかの零落した感覚ではないのか?……いまでは、はっきりとした確信がもてなくなってしまった。

 どんどんどんどん擦り減らして、なにもかも奪われて、空っぽにならないように気をつけてください。だれも、あなたたちを縛りつけて搾取して、なかのものを全部みんな吸いあげて、全部ぜんぶ空っぽにしている訳ではないのです。もともと、あなたたちは空虚なんですから、どんどん吸収していけばいいんです。これから、どんどん吸い込んでいけばいいんですよ……。



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