■第4話 姉ちゃん寝相悪すぎ! あ、抱きつかないでよ! ちょっと!

文字数 5,659文字

 ボクは違和感を感じて目が覚めた。
 体を包み込む柔らかい感触。
 横を見ると、ボクに抱きついて寝ている姉ちゃんがいた。
 ボクの体に姉ちゃんの右手と右足が乗っかっている。
 そして、ボクの顔のそばには、姉ちゃんの顔があった。
 姉ちゃんの吐息がボクの顔を撫でる。
 ボクの右腕には姉ちゃんの胸の感触。
 そして、ボクの足には姉ちゃんの柔らかい太ももの感触。
 
 ど、ど、ど、どうして姉ちゃんがいるの???????

 ボクは混乱しつつも、姉ちゃんに目を釘付けにされていた。

「ね、姉ちゃん……?」

 ボクは小声で姉ちゃんに声をかける。
 大きな声だと起きちゃうからだ。
 正直な所、まだ姉ちゃんには寝ていてほしかったなどという邪な感情が沸いてしまったからだ。

 このまま姉ちゃんに抱きつかれたままでいたい。
 今にでもこの抑えきれない状態から逃げ出したい。

 相反する二つの感情に悩まされ、一つの結論へと到達する。
 欲望を満たしながら、姉ちゃんを起こす、という結論だ。

 それはつまり……
 ボクの欲望を姉ちゃんにぶつけ、その過程で姉ちゃんを起こすということだ。

「姉ちゃんが悪いんだからね!」

 ボクは小声で呟きながら、ごくりと喉を鳴らす。

「さ、触っちゃうからね!」

 ボクは姉ちゃんへと手を伸ばす。

 ゆっくり、ゆっくり。
 姉ちゃんが起きないように、慎重に。

 ボクの指先1cm先には、あられもない姉ちゃんの素肌がそこにある。
 この指を少しだけ動かすだけで、もう戻れない境界を超えることになるのだ。

 いいのか?
 これ以上動かしたら、もうボクは姉ちゃんを姉として見れなくなるんじゃないのか?
 いや、起こさなければ大丈夫だ。
 いや、でも起こさなければ……

 ええい!!

 ボクは心の奥底にある欲望を全てこの指先に込めた。

 指先に広がる柔らかい感触。
 指を包み込むかのような柔らかさ。
 そして、指を押し戻す柔らかな弾力。
 みずみずしく、きめの細かい肌の感触。
 すべてがはじめての領域。

 ボクは……ついにやってしまった。

 禁断の領域へと、踏み出してしまったのだ!

 なんて……なんて柔らかいんだ……
 姉ちゃんの……これが姉ちゃんの……

 これが姉ちゃんのほっぺたの感触なんだ!!

 ボクは姉ちゃんのほっぺたをぷにぷにと突く。
 あーたまらない。姉ちゃんの柔らかほっぺ。
 こんなものを知ってしまったら、ボクはもう後戻りできないじゃないか。

「ん……」

 姉ちゃんの声が聞こえ、びっくりして指を引っ込めた。
 一瞬姉ちゃんの目があいていたような気がしていたが……
 気のせいだろう。今は完全に目を瞑っている。

「萌生……」

 姉ちゃんは寝言をいいながら、ボクの体に乗っかってきた。
 いったいどうやったらこうなるんだ!?
 仰向けに寝転ぶボクの上に、うつ伏せになって乗っかる姉。
 そして姉ちゃんの顔は、ボクの顔から肩にかけてもたれかかってくる。
 顔を少し動かすだけで、姉ちゃんの顔に触れてしまう。
 姉ちゃんの唇がすぐそばにある。
 少し動かすだけで、姉ちゃんとキスしてしまう、そんな距離だ。
 そしてボクの胸には、柔らかな温かい膨らみが押し付けられている。
 
 突然の状況に混乱するボク。
 当然、ボクの下半身は固くなってしまっている。
 姉ちゃんの太ももが、ボクの固くなったものに触れる。
 すると、姉ちゃんの太ももがぴくっと動いた。
 
「いいよ……」

 姉ちゃんの色っぽい寝言。
 何がだ?
 何がいいよなの!? 
 
「だぁあああああ!!!」

 ボクは姉ちゃんを振り落とし、ベッドから飛び出した。

「姉ちゃん!! 寝相悪すぎだよ!!」

 はあはあと息を切らすボク。
 ベッドに寝転がったまま、姉ちゃんはこっちを向いている。
 そんなボクを、姉ちゃんは見つめていた。
 
「なんで姉ちゃんがボクと一緒に寝てるの!? 勘弁してよ!!」

 顔を真っ赤にしてボクは叫ぶ。
 そんなボクを見て、姉ちゃんはいたずらっこのようににやける。

「だってここあたしの部屋だよ? あたしの部屋で寝てたのは萌生の方」
「姉ちゃんがボクの部屋で寝ちゃったからだろ!」

 ボクはすぐさま言い返すが、姉ちゃんのにやけ顔はそのままだ。

「寝ているあたしにいたずらしたり、あそこをおっきくしちゃってるのは萌生だよ」

 ボクは慌てて後ろを向く。

「と、とにかく! あれだよ……あれ! あ、そうだ。キャラ出来たから! 勇者の盾でたから!」

 ボクは慌てて姉ちゃんの部屋をでて、トイレへと向かった。



「もうこの体は無くなっちゃうんだから……最期くらい経験しとけばいいのに。……馬鹿な弟」

 ごろりと天井を見上げ、独り言をつぶやく。

「それとも……おかしいのはあたしなのかな」

 誰もいなくなった入口を見る。

「あたしって……ずるい女だ」



 15分位ベッドで横になっていると、萌生は息をきらせて部屋に駆け込んできた。

「ボク、女の子になるから!! 絶対女キャラ作るから!! 姉ちゃんの色仕掛けなんかに惑わされないから!」

 それだけ言うと、萌生は部屋を出て行った。

「顔真っ赤にして、イカ臭い匂いぷんぷんさせて……説得力まったくないんだから」



 ボクは自分のパソコンで自分自身のためのキャラクターを作っている。
 前回作ったデータは、姉ちゃんとそっくりになってしまい、しかも姉ちゃんが自分で使うと言い出してしまった。
 だから、ボクは姉ちゃんとは違う容姿を作ろうと必死になっている。
 しかし、何度やってもボクがいいと思う顔は姉ちゃんになってしまっていた。
 
「あーもう! 完全にボクって姉ちゃんに毒されてるよ……」

 気分転換と顔の参考にと、人気のアイドルグループのサイトを調べてみた。

「どんな子が人気なのかな……」

 開いたサイトには、TKB222というアイドルグループの名前があった。
 
「222人もいるのかよ。名前覚えきれないだろうが」

 カチカチと顔写真を眺めながら、次々とメンバーのプロフィール画像を見ていく。

「どの子も可愛いとは思うけど……姉ちゃんには及ばないんだよなぁ……」

 きゅんと来るものがない。
 ボクの心を揺さぶる何かが足りない。

 ふと、とあるメンバーの画面で指が止まる。

「この子……すごく可愛い!!」

 しかしよく見ると、髪型以外姉ちゃんにそっくりな事に気が付く。

「ちくしょー! それじゃだめなんだよ!」

 と、そこである事に気が付く。

「あ、そうか。髪型だけ変えてみるのも手だな」

 姉ちゃんの髪型は、いわゆるテールが短めのツーサイドアップという髪型だ。
 ボクは保存したデータを呼び出し、髪型を少しいじってみる。

「後ろ髪を短くしてみて……ピッグテイルもいいなぁ」

 テールを長くして、ツインテールにしてみる。

「お、幼さも維持できて可愛らしいな。これにしようかな」

 姉ちゃんの胸とは正反対に、胸を小さくしてみよう。
 こうしてボクのキャラクターができあがった。
 一言で言うなら、貧乳幼女だ。
 姉ちゃんの小さいころに似ている気がする。
 小さい頃の姉ちゃんにボクがなって、今の姉ちゃんはそのまま一緒にいてもらえる。

「これこそボクの望む姿なんじゃないか?」

 ボクはついに完成したその姿を眺めていると、後ろから声がした。

「萌生は貧乳幼女が好きっと」

 ボクは慌てて後ろを振り返ると、そこにはスカートをはいた姉ちゃんが立っていた。

「このキャラにするから! ボクはこの女の子になるから!」

 「どれどれ?」とキャラクターを眺める姉ちゃん。

「これさ……あたしの小さいころそっくりなんだけど?」

 ボクの顔を覗き込む姉ちゃん。
 しかし、もう開き直ってる。
 いいんだ。これで。

「いいんだよ! ボクは姉ちゃんとそっくりになるの!」

 目をぱちくりして姉ちゃんは押し黙る。
 ボクは本気の顔で、姉ちゃんを睨み付けた。

「姉好きをこじらせて、姉になりたい、かぁ……嬉しいけど複雑よね」

 ほっぺに人差し指をあてて考え込む姉ちゃん。
 そんな姉ちゃんに思いのたけをぶつける。

「悪いかよ! そうだよ、ボクは姉ちゃんが大好きだ! 愛してるんだ! だから……ボクは姉ちゃんになりたいんだ!」

 ボクは目に涙をためながら、真っ赤な顔で姉ちゃんに吠える。

「姉ちゃんが悪いんだからね! 何度も何度も何度も……ボクを誘惑するから! ボクもう自分が抑えきれないんだよ!
だから、女になってこんな欲情を消したいんだ!」
「でも、転生すれば姉弟じゃなくなるし、男のままならえっちなことだってできるかもしれないよ?」

 姉ちゃんは諭すようにボクに問いかける。

「それじゃだめなんだ! 姉ちゃんが幸せになってくれなきゃ!」

 姉ちゃんの目に涙が浮かび上がってきた。

「ばかな萌生……」

 姉ちゃんはそういうと、ボクを強く抱きしめ、唇を重ねてきた。

 ボクの初めてのキスだった。
 大好きな姉ちゃんとの最初で最後のキス。

 唇を離し、姉ちゃんはボクのおでことおでことくっつけて囁いた。

「せめて男の子最期の経験として、あたしのファーストキスをあげる」

 ボクは姉ちゃんの細い体に腕を回し、力いっぱい抱きしめた。

「ありがとう、姉ちゃん……ボク……これで悔いなんかないよ。これで人間を辞められるよ」



 二人はお互いのデータを交換し、各自データをアップロードした。

 ボクのキャラクターの職業は神官。『ヒール』のスキルを取るためだ。
 ステータスはこうだ。

 ステータス合計値 100
 体力 37
 攻撃力 1
 敏捷  1
 魔法 60
 器用  1

 また、姉ちゃんが発見した内容と、説明書きにある内容を簡単にまとめるとこうだ。

 全てのステータスに最低1は振らなければならない。
 初期段階で1つのステータスに触れる最高値は60まで。
 ステータスの数値により、隠し職業が表示される。
 レベルアップは、現時点のステータス値に応じて上昇する。
 転職は何度でも行える。
 前職で覚えたスキルは転職後も使用可能。
 適職ではない武器装備は、装備できるが能力値は増えない。しかし、特殊オプションは効果が発揮される。

 サイトに記述されている基本的な職業は、戦士、魔法使い、アーチャー、シーフ、神官、ノービスの6種類だ。
 職業を選ぶと、最低必要ステータスの30が自動的に割り振られる。
 生産スキルといったものもあるようで、それは戦闘スキルとは別で個別に習得できるらしい。

 ■初期職 (横のステータス名と数値は、必要ステータス名と必要ステータス値)
 戦士 攻撃力30
 魔法使い 魔法30
 アーチャー 器用30
 シーフ 機敏30
 神官 魔法30
 ノービス 体力10 攻撃10 敏捷10 魔法10 器用10

 姉ちゃんは、隠し職業をいくつか発見している。
 そのステータス値はこうだ。

 ■隠し職
 バーサーカー 攻撃80
 テイマー 体力10 器用10
 バード 器用50

 姉ちゃんが言うには、恐らく前職の一定経験がないとなれない上位職もあるかもしれないとのこと。
 ただのステータス値だけで表示される隠し職の数が少なすぎるからだとか。
 
 そして、姉ちゃんの職業は戦士。『挑発』のスキルを取るためだそうだ。

 ステータス合計値 100
 体力 60
 攻撃力 1
 敏捷 37
 魔法  1
 器用  1 

 完全に防御特化だ。
 回避もできるタンクだとか言っていた。
 「痛いの嫌だし」とも言っていた。
 なんでも姉ちゃんに言わせると、「こういうのは極振りしないと意味がない」とのことだ。
 中途半端に振っても、伸びが悪いそうだ。
 レベルアップが現ステータスに応じて増加量が決まる、という記述を姉ちゃんは見落とさなかったのも大きい。
 最初にメインの項目を最大値まで上げておかないと、あとから伸びにくくなるということまで洞察したのだ。
 さすがネトゲ廃人なだけはある。ボクにはさっぱりだ。

 そして、姉ちゃんの作戦は、ボクは最初に神官を選び、回復手段を得たら魔法使いに転職して、回復と攻撃をボクが担当するそうだ。
 対して姉ちゃんは、完全に防御特化にするらしい。『挑発』で敵のターゲットを自分に向かわせ、ボクにターゲットが向かないようにさせるとか言っていた。
 後の転職は、実際やってみないとわからないから、その後はまた姉ちゃんに決めてもらうことにする。

 姉ちゃんのおかげで最高の状態で転生できるんだ。
 さすがボクの姉ちゃんだ。

 ボクは全部の作業が終わり、一息つくことにした。
 机に置いてあるジュースを一口。

「ぷはぁ~」

 終わった後のいっぱいはおいしい。

「あたしにもちょーだい」

 椅子に座るボクの横から、声がかかる。
 姉ちゃんはボクの手からジュースを奪い、ごくりと飲み込む。

「姉ちゃん……それボクの飲みかけ……」

 ジュースを飲む姉ちゃんを見上げる。
 そんなボクをまたいじわるな目でみる姉ちゃん。

「本物のキスしたのに、今更関節キスで照れてるの? 萌生可愛い~」

 ボクは恥ずかしくなってそのまま俯いてしまった。
 そんなボクの肩に手をかけて、姉ちゃんは囁く。
 
「もう……明日だよ。やり残したことはもうない?」

 やり残したこと。
 最後にやってみたいこと。
 無いわけではない。

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登場人物紹介

宗乃 美乃梨 高校2年生。

可愛い弟を誘惑してちょっかいを出すのが大好き。

責任感が強く、弟を守るために人生をかけてもいいと本気で思っている。

廃オタ。

宗乃萌生 高校1年生

美乃梨の弟だったが、美乃梨のすごすぎる誘惑に耐えきれなくなって女の子に転生してしまった。

姉大好きっ子。

エレット

ツンデレ、おひとよし、お姫様の根源を持つNPC

大量の男達を付き従え、慕われている

リテア

ビーストテイマー

ペットはユニークモンスターでホワイトウルフのネオ

南とも

エルフ耳をした人間

ヒーラーだけど両手剣を持って戦いたがる変わった人

リオ

伝説の鍛冶職人を目指すNPC

大きなリュックがトレードマーク

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