第4話おまけ①「光はここにある」
文字数 4,239文字
dark gray blaze
おまけ①【光はここにある】
「鳳如、鳳如」
「なんだよ」
「鳳如、鳳如」
「だからなんだよ」
「鳳如、鳳如」
「うるっせぇな、なんだよ」
「鳳如って言いにくいよな」
「帝斗、お前さっきから俺の名前を無駄に呼んで何かと思えばそれか。今更それか。どこが言いにくいんだよ」
「全部だよ全部。如ってなに?如なんて名前に入ってる人、俺初めて会った」
「いるだろ如くらい。俺だって、お前みたいな礼儀知らずは初めて会ったわけでもないが、そうそう御目にかかかれねえよ」
「鳳如」
「だから何だよ」
「今のは俺じゃねえからな」
「俺だ」
「今度は煙桜か。お前もなんだ。お前等、俺の部屋を何だと思ってんだよ。ちょくちょく来るんじゃねえよ。何の為にお前等の塔を作ったと思ってんたよ」
「どこもかしこも、麗翔が禁煙にしちまって、ここでしか吸えねえんだよ」
「なんで煙桜の塔まで麗翔が仕切ってんだよ。お前の塔なんだから別に煙草吸って良いってことにすればいいだろ。それに俺の部屋は別に喫煙スペースじゃねえからな」
「麗翔の奴、俺んとこにも来たぞ」
「帝斗のとこにもか」
「ああ。ありゃ多分、料理を馬鹿にされたからその仕返しじゃねえかと思ってる。だから俺は自分の部屋には南京錠をつけたぜ!」
「その親指折ってやりてぇが、まあ我慢してやるよ。鍵つけたならお前は部屋に戻れ。俺のとこに一々来るな」
「おー、琉峯も来たか。どうしたんだ?」
「琉峯、お前はなんだ」
「掃除週間にしてまして、ここも綺麗にしようかと思って来ました」
「出たな。琉峯の自分週間が。まあいいや。掃除なら勝手にやってくれ。ついでにこいつらを連れ出してくれると助かる」
「それは出来かねます」
「なんで即答なんだよ」
「なんとなくです。俺は下っ端ですので、帝斗にも煙桜にも『邪魔だから出て行けよ、昼間から仕事もしないでうろちょろしてやがるクズが』なんて言えません」
「俺、そこまで言えなんて言ってない」
「酷い!琉峯、俺達のことをそんなふうに思ってたのか!?俺だって、好き好んでこんな部屋に来てるんじゃねえんだぞ!!」
「なら帰れ」
「俺がここにいるのはな、とっても重要な任務があるからなんだ」
「なんだ任務って。お前には何も頼んじゃいねぇぞ」
「どうせ猫探しだろ」
「なんでわかった煙桜!さては、お前俺の愛するアイラを隠したな!!」
「知らねえよ。お前の猫の名前がアイラなんて初めて知ったよ」
「くっそ!!あんだけ可愛いんだもんな!誘拐されても仕方ねぇとは思っていたが、実際に誘拐されるとこうも腸が煮えくりかえる想いになるんだな!!」
「怒りより心配じゃねえのか」
「猫なら、さっきどこかで見たような気が」
「本当か!!!どこだ琉峯!!!」
「いえ、どこだったかはちょっと」
「思い出せ!!!思い出すんだ!!さすればお前には最強の力が授けられるであろう!!」
「最強の力はいりませんけど、ええと、どこ・・・あ」
「どこだ!?」
「・・・・・・清蘭様のお部屋に」
「し、清蘭様の部屋ああ!?な、なんでだ!?なんでそんなところに!?」
「知りませんけど、確かその辺りにいたような気がします。俺は掃除をしますけど、良いですか?」
「ああ。帝斗のことは放っておいてやれ」
「煙草を吸うと、酒が飲みたくなるよな。鳳如、お前酒隠し持ってるとかねえか?」
「煙桜、煙草を減らすか酒を減らすかしねえと、お前本当に早死にするぞ」
「別に構いやしねぇよ。人生短かろうと長かろうと、俺は俺の好きなように、好きなことして生きて死んでいくだけよ」
「図太く生きそうだけどな」
「それより、帝斗が固まってっけど、どうすんだ?オブジェにでもするのか?」
「こんな生意気なオブジェあってたまるか。煙桜、このまま帝斗の部屋まで運んでやれよ」
「断る」
「どいつもこいつも」
「さっきの話じゃぁ、こいつの部屋には鍵ィかかってんだろ?どうせ入れねえじゃねえか」
「ああ、そんなこと言ってたな」
「細い針金とかで開ければいいんじゃないですか?」
「琉峯、お前は純粋なままでいてくれよ」
「それより、天狗とかの扇子の風圧で壊れるんじゃねえか?」
「直す予算はねえからな」
「別に俺はいいぜ。帝斗の部屋だからな」
「はい、そうですね」
「そうですね、じゃねえから。話が進まねえよ。なんなんだよコレ」
「あ、帝斗が戻った」
「アイラーーーーーー!!アイラはどこだーーー!!!」
「うるせぇよ、近くで喚くな」
「いてっ!!煙桜、お前には分からないのか!癒しとなる存在がいなくなることへの不安や恐怖が!!!」
「知るかんなもん」
「煙桜でいうと、酒と煙草みてぇなもんだな」
「・・・・・・なくなってたまるか!!!」
「お、珍しく吠えたな」
「鳳如!お前には分からねえかもしれねぇけどな、この世から煙草も酒もなくなったら、大半の男たちは生きて行く上での楽しみがなくなるんだぞ!!!」
「そうだ!猫だってな、俺にとっては砂漠のオアシスも同然なんだ!!癒しがなくなるっていうのは、そういうことなんだぞ!!」
「帝斗、珍しく気が合うな」
「煙桜、ようやく分かり合えたな」
「邪魔です、退いてください」
「琉峯!お前にもどれだけ重要なことを話しているか、教えてやる!!」
「なんですか」
「俺にとってのアイラ、そして煙桜にとっての煙草や酒っていうのは、お前にとっては掃除が出来ねえことと同じなんだぞ!!!」
「・・・・・・」
「琉峯、お前まであっちに行くなよ」
「よく考えてみろ。掃除がなくなって、掃除という概念が世の中から消えてみろ。お前はどう思う?」
「・・・好ましくはありませんね」
「だろ!?それだそれ!!!その感情をもってもっと出すんだ!!するとこうなる!」
「荒れ狂った変人たちにしか見えませんが、なんとなくはわかりました。確かに一大事とも言えますね」
「琉峯!こうしてお前と心から分かり合える日が来るって、俺は信じていたからな!」
「分かり合えているとは思いませんが、まあ、ありがとうございます」
「鳳如、きっとお前にもあるはずだ。思い出してみろ。お前にとって癒しとは何だ?」
「猫だろ?」
「いや、煙草と酒だろ?」
「掃除です」
「・・・・・・はあ。お前等よぉ・・・」
「どうした?」
「頼むから、俺の部屋から出ていってくれねえか?」
「それだ鳳如!」
「はあ?」
「お前にとっての癒しってのは、俺達がここから出て行くことだろ!?」
「いや、癒しとかじゃなくてよ」
「もし、俺達が一生ここにいたらどう思う!?お前の心の声を聞かせろ!」
「・・・・・・」
「どうした鳳如、急に立ち上がって」
「どっか行くのか?」
「どうかしましたか?」
「・・・・・・今からお前等の部屋、ぶっ壊しにいくわ」
「「「!!!!!!????」」」
「例えお前等の部屋が壊れたとしても、自分達でなんとかするんだな。俺の部屋で寝泊まりしようってんなら、その甘い考えも止めろ。俺は部屋中にトラップを仕掛けて、一歩たりとも部屋には入れねぇようにする。それでも自分達の能力を使ってどうにかしようってんなら、そんときは俺も力で対抗する。今大人しく俺の部屋から出て行くなら、今後も俺の部屋に来ることを許可しよう。まあ、毎日は遠慮してほしいがな。帝斗」
「はい、なんでしょう」
「お前はいつも俺の部屋に来るけどな、仕事を終えてから来るならまだしも、お前の場合は終わってないことがほとんどだ。やればできるのになんでやらねえんだ。まあ、終わらなければ一生部屋に閉じ込めておいてもいいんだが、俺にはそういう趣味はねえからな。のびのび育てようって言うのが俺のポリシーでもある。猫のアイラにしても、俺は猫より犬派だって言ってんだろ。なんでいつも猫の話ばっかりしやがる。そんなにアイラが大事ならな、ちゃんとてめぇに懐かせろ。俺の部屋に来ていねぇいねぇ言ったって、俺の部屋から猫は出てきやしねぇんだよ」
「す、すみません」
「煙桜」
「お、おう」
「お前はそろそろ歳を考えろ。若いならまだしも、お前の歳で煙草も酒もやめられずにいるなんて、早く死にます、って言ってるようなもんだ。博打はやらないだけまだ良いが、それにしても身体に悪い。というより、お前の煙草の副流煙を吸い込むこっちの身にもなれ。俺も吸うから強くは言えねえけど、お前は吸い過ぎだ。それから、最年長だっていうのに、あまりに自由すぎる。放浪癖もそろそろ直しておけ」
「おう・・・」
「それから琉峯」
「はい」
「お前はなんていうか、昔はもっと純粋で真っ直ぐな奴だ。いや、真っ直ぐなのは今も変わらねえんだけど、多少腹黒くなった。多分帝斗とか煙桜とか麗翔の影響だとは思うが。それにしても黒くなった。それから、お前はまさか夏にあんなに弱いとは思わなかった。夏になるとあれほどまでにだらけるとはな。さすがにお前の部屋に行ったとき、ほぼ全裸で窓を全開にして横になってたときは、いよいよ琉峯もおかしくなったかと思った」
「夏は脅威です」
「いや、そういうことを話してたんじゃなくてよ。だから、お前等ここから出て行くか、俺に部屋を壊されるか、どっちがいい」
「「「・・・失礼しました」」」
「ふう・・・」
「鳳如、ちょっといい?」
「なんだ」
「何よ、鳳如がまとめておけ、って言ってた書類、2日かかってようやくまとめてきたっていうのに」
「ああ、それか。ありがとな」
「それより、みんなここに来てたの?」
「ああ。今帰ったところだ」
「でしょうね。すぐそこですれ違ったから。あら?」
「どうした?」
「鳳如って、犬派なんじゃなかった?」
「ああ、そうだが、なんでだ?」
「だって、鳳如の椅子の足下に・・・」
「ん?」
「にゃー」
「げっ」
「げっ、って可哀そうじゃない。アイラだし。帝斗からまた逃げてきたのね」
「そいつを連れて行ってくれ」
「はーい」
「にゃー」
「はあ・・・。なんか疲れた」
「アイラ――――――!!!!!何処にいたんだまったく!心配したんだぞ!!!」
「鳳如の部屋にいたわよ」
「やっぱりか!」
「やっぱりって?」
「アイラの奴、俺よりも鳳如のとこに行くんだ。きっと、あいつまたたびか何か持ってるんだ!!」
「・・・持ってるわけないじゃない」