第10話 無双!令嬢2 華 (起)

文字数 14,504文字



転移魔法使用中に何かと接触したようで、結果として時空を超えてしまったようだ。
転移魔法なんて僅かな、一秒にも満たない時間なのに!!



全く違う世界?
全く違う時空、

言葉も喋れず目もろくに見えず手足もろくに動かせない、息をするのさ
バシッバシッバシッ!!
んぎゃーっ!!んぎゃーんぎゃーんぎゃー!

「・・・・・・!・・」
「・・、・・・・・・」

何か言葉を喋っているようだが、鳴き声が煩く、聞こえない。
あ?俺の泣き声なのか?




一条院・華

大本は公家。現代では皇家に寄生しておじゃるとか言いながら優雅にニートしていられる境遇ではない。
まぁ、実質的には、、まだいるっちゃーいるかもだけど、、
あれやっちゃだめこれやっちゃだめとがんじがらめにされているから、仕方が無いちゃー無い。

一条院家は江戸期に入ると、そこらへん長けていて、経済的に独立できた。
政治にとは極力距離を置き、騒乱から遠くにいる防衛本能にも長けるようになった。

なので明治維新被害もどうにか回避した。二次大戦では経済的に多大な被害を負ったが、幸い、家族内で年齢的に戦地に引っ張り出される者はいなかった。老人か、女手か、子供達だけだったのだ。
基本、女系なのだ。


「ハナさん、もうできましたか?」
家庭教師に勉強を教わっている。
学校には行かず、私立学校に席を置くが、通わない。学校とも話がついている。
学業は全て邸で家庭教師が教える。
皆小学校卒業程度の期間に、高校1−3年くらいまで優に進められる。
この血筋は、学問に関してとても優秀。なので、学校に行かせると「阻害」となる。

勉強レベルが高校になると、各人に「学校に通いたいか?」と、両親が質問していた。当然華にもこの質問は来た。
特定私立、もしくはインターには飛び級を容認する学校があるので、そこに入ることは可能。
日本の法律では飛び級は認めないので、卒業証書を貰っても日本国内では法的意味合いは無いが、就職等では相手方が認めればいいだけだ。
また、海外のほとんどでは卒業と認めるので、法的にも通用し、パーミット申請等に使える。

「行ってみたいです」と答える華。
姉たちもほとんどが高校に行っていた。その同じ高校なので、姉に憧れている華としても、「同じことをしてみたい」となるのは自然だ。

12歳。高校1年入学。日本の私立高校。

「また、あの姉妹の子が入学するんだって!」
学校では職員室でも生徒たちの間でも話題だ。

教師たちは、一条院姉妹に対して、授業は基本放置だ。もう殆どできるので教えることも無い。
で、子供なので一般生徒の特に女子の大半から受けが良い。なので誰かが面倒を見ててくれるので安心だ。
姉で溢れた場所にいるようなものだ。しかもこのような学校は親子代々通うほどなので、姉が通っていたときから一条院の子の話を聞いているのだ。
ほんの一部にはやっかみも当然出てくるだろう、いいとこのぼっちゃんじょうちゃんばかりな学校なのだ。
だが、大半の女子生徒が味方なのだから、まず事は無い。
しかも、女系の一条院の娘だ、言い方が悪いが、姉の扱いには長けているだろう。
娘ばかりなのだから女学院に入れればいいのに、と思うが、「息子ができたら一人だけ違うのは可哀想」と。


一年生の入学式の時も、参加父兄や参加した3年達の注目の的。
しかし、学期開始初日の部活勧誘がすごかった。
教室に入りきれず廊下にあふれる。勿論教室から出たいクラスの者も出られない有様。
業を煮やした教師たちが「一条院のクラスには勧誘禁止。」を言い渡した。
この学校の生徒たちなら、罰則を与えずともそれを守るだろう。教師も生徒も人間的な質はかなり良い。
少しでも悪影響があるような者は、身分がどうであれ放り出されるのだ、ここは。
だからこそ、ここを卒業した、という意義は「人間的に信用するに値する」という一つの大きなラベルなのだ。
いい子を装う、くらいじゃ、1年も持たない。


「ねせ、華ちゃんはどの部活に興味あるの?」
多くの女子クラスメイトが聞いてくる。
入学時に貰った資料に、各部の部長、部に成れていない規模であるクラブの責任者達による、自部や自分のクラブの紹介文があった。
華は、いくつか見てみたいところを決めていた。
「薙刀、合気道、お華、超常現象研究会、ムー部(クラブ)、が見てみたいです。」
・・・・・
「あ、お華、いいよね。でもお華なら、茶道も一緒にやればいいのに?」
「うーん、お茶は、得物が無いから、、」
「エモノ?」
「はい、お華はハサミがあります。いざという時、シャッと投げたり、剣を受け止めたり、できますよね?」
・・・・・・
「・・多分、、うちのお華の部は、そういうの無いと思う、、、」
「、、、残念です、、ではお華は除外で、、」
・・・・・((((変人だ!!つか、子供だから??))))

薙刀、合気道は一緒に行くクラスメイトがいた。ただ、超常現象研究会とムー部に行く女子はいなかった。
でも男子は数人いたので一緒に見に行った。

薙刀
華は3歳くらいから持ち始めている。祖母が体の大きさに合わせて誂えてくれていた。今は大人より少し短めを使っている。大人のも使えることは使える。
「見学の中で経験者はいる?」
数人が手をあげた。華も。
薙刀は基本試合をあまりしない。型を重視する。体に染み付き始めたら、やっと立会稽古を出来るようになる。
力を使わないやり方なので、型が身についていないと力任せになるので、上達を阻害する。
ただ、うまくなったら、力の使いようで更に強くなる。
年季が違うので、華には型は身に染み付いている。
見るものが見ればすぐにわかる。

「あなた、入らない?」
「ありがとうございます。先に他を見て回りたいので、その後でよろしいでしょうか?」
「それで結構よ、待っているからね!」


合気道
華が合気道を始めたのは最近だ。3年位しか経っていない。しかし、毎日稽古している。これもまた祖母が教えてくれている。一条院家は、昔から武芸を重んじ、なにより皆武芸が好きだった。

ここでも経験者にちょっとした稽古をしてくれた。
・・・・・
「申し訳ない、僕らが君に教えられることは無いと思う、、、」
「いえ、こちらこそ、残念ですが、縁がありませんでした。」
部員たちは、華の技量を見て、他で習っていることをすぐ理解したのだ。


超常現象研究会
メガネ委員長タイプ、太っちょ、ちっさい子、ひょろのっぽの子、なクラスの男子達と見学した。華は「ヲタ4人衆」と密かに名付けた。

「ムー部とどう違うのでしょうか?」
「うむ、良い質問だ。あちらはどのような超常現象があるのか?を中心にしている。
こちらは数より質。一つ一つの事象を、可能な限り、納得行くまで解明してみる、ということを中心に活動している。」
「超能力とかは?」
「当然、毎日の課題として、一定の時間を取って研究している。」


ムー部
オタ4人衆と。

「研究内容は、世の超常現象を系統化し、そこから何か見えてこないか?という方向性で行っている。
アトランティスにしても様々なことが考えられ、それら全ての一つ一つを検討してみる、よって、まぁ、当然だが3年程度では終わらない研究だ。OB達もよく顔を出しているぞ?卒業しても自分で研究している者も多いのだ。」

真面目に真剣にやったら生涯を使っても不足では無いでしょうか。




「華氏はどこにされるのかな?」とオタメガネ氏。
「うー、、、超常現象研究部と、薙刀、かなぁ」
「「「おう!2つも!」」」
「薙刀は、高校生でやってみたかったの。いつもおばぁさんと姉たちだけだったので、、
超常現象は、昔から興味が合ったの。」
「「「「うむ!我々もだ!」」」」なんか気合い入れているヲタ4。
華はなぜかヲタ4たちとはフランクに話せた。

結局、華はその2つに入部届を出した(一つはクラブだが)。
双方とも「隔日でいい」と容認してもらった。


超研初日
「わがクラブは、皆自分の研究テーマを持ってもらいます。それを皆で手助けしながら進めていこう、という方針です。新人5人もそれぞれ自分が研究史たいテーマを見つけてください。見つけたら、発表してもらいます。」
「部長」
「どうぞ華さん」
華の場合、一条院という姓よりも名前のほうが呼びやすいので、どうしても皆名前になってしまう。
「私は超能力をテーマにしたいです」
「ほう!なかなかいいですな。で、具体的にはどの能力とか、ありますか?」
「はい、時空移転と、空間転移を中心に、関連がありそうなものを」
「これは、、、最も難しいと思われるものを、、、まいったな、、、」
「はははは、、、、すみません、、、」
「いやいや、難しいものほどチャレンジし甲斐があるというものです。
あとの4人は?」
「「「「僕らはまだ考えていないので、考えてきます」」」」
「OK、楽しみにしていますよ」
それから既存部員(クラブ員)のテーマでの議論が始まった。



薙刀初日
新人の経験者は、打ち込みの後に、レベルによって地稽古。
華は当然だが地稽古を。
相手は高校生なので、様子を見ながら。
流石に姉たちレベルには届かないが、各人好き嫌いの差があり、やっていて面白い。
レベルが低くても、家に変えれば最高で祖母がいる。悪い癖はつかないだろう。

「君は、もし、よかったら、指導側に回ってくれないかな?」
と部長に言われた華。
新入部員、初日に指導側に。
一部の者たちは不満顔だが、武芸は結果だ。そのうちその不満も消え去るだろう。
部長も華もそう思った。



授業中に華は結構居眠りをしてしまう。
最初のうちはそれに腹を立てた教師が、いきなり質問していた、答えられなければ叱ろうと。
華は毎回正しい回答を答えた。
居眠りしていても、耳は塞げないものだ。意識がそれなりにできていれば、寝ていても物音を聞いていたりできうるものだ。武芸鍛錬の賜物なのだろうか?

勉強は学校より華のほうがよほど進んでいるので問題はない。
華の学校での興味は、ほぼ部活であった。
それも超研。
既に、学校内では華は「かわりもの」として定着し始めていた。

ヲタ4のメガネ君はクラスの委員長になった。華が委員長タイプだな、とポツリと漏らした声を誰かが拾って、委員長に推薦し、皆が賛成。まぁ、、、皆「誰でも良いや、自分じゃなければ」と思っていたのだ。
なので呼び名は委員長。
ふとっちょは、「プーさん(熊)みたい」と一言いったので、それからプーさんに。
ちっちゃいのはガンバに。
細長いのは、最初「電柱っぽいなー」と思ったが、流石に声には出さず。(背が)高いなー、を連発していたので、「タカイ」と。
クラスのマスコット的位置の発言は大きい。
「ヲタ4」に関しては、華は口に出した覚えはない。なので、多分誰かが同じことを考えていたのだろうと思った。かれら4人の呼び名はヲタ4になっていたから。


「んじゃ、超常モブ1から」
「はい、怨念に関してです。前回言っていた首塚に行ってきました。写真を何枚かとりましたが、何もなかったです。
同時に、お供えものを一つ失敬して食べたのですが、腹痛すらなかったです。それ以上は失礼なのでやりませんでした。多分、近所の人達が塚の面倒をみているので成仏してしまったのかも、と思われます」
「よし、よくやったチャレンジャー!。その程度で停めとくのが良いな。荒らして苦情が来たら活動停止になってしまう。次はどうするんだ?」
「はい、病院の廃屋に行ってみようと思います」
「廃屋かぁ、、崩壊が怖いな。昼間に数人で、ヘルメットをかぶって中に入る、ことにしてくれ。守ってな」
「はい、了解です」

「超常モブ2は?」
「ネットでしか収集できないのはいつものことなので、今回も、特に目新しいUFO情報はありませんでした。
が、しかし、米軍がUFO作っているという話の最新がはいってきました。英文記事でしたが、そこそこおもしろかったです。でも内容は、”というものを見たものがいると言っていた者がいたという話だ”レベルでした。」
・・・・・・

「じゃ、今日の発表はこの2人だけだよな?他に特に発表したい者いる?」
・・・

発表は各曜日ごとに割当、一週間に一度の発表になっている。
進展した情報が出ることはあまりない。もし出た場合、その時点で喧々諤々の議論に入り込む。

「ヲタ4,各自何を研究するか決まったか?」
「「「「はい!」」」」
「僕が代表で。4人同じものを研究します。”転移”に関して広くやってみたいです。」
とメガネ委員長。
「つまり、華さんの援護射撃、だな?」
「まぁ、そうなります。より広く見てみたいと」
「そういうも悪くないな、どう?皆は」
「「「「「「「いんじゃないですか?進展が速そうでいいかも」」」」」」
皆自分の進展が遅々としているのにあがいているのだろう、羨ましそうだ。
ここで「多人数でやるなんてずるい!」などというクズはいない。そういう性格の者はいままも入ってきてはいたが、なぜかすぐ来なくなっていた、学校に。

「じゃ、来週の今日、発表してな」
「「「「「はい!」」」」」

クラブ時間内でも研究の話は続く、
「俺の++が@@なんだけどさー、もうすこし{}にならんかなーと思っているわけ、誰か良い知恵プリ!」
「きのう、新しいサイトみっけた!欧州のだけど英語なんで翻訳しやすい、・・」
などなど

「拙者、先日から転移に関して調べ始めております。
こっちのセカイには魔法が今の所無いので、多分”気”を使うのではないか?というのが多くの意見でありました。」
といんちょ。

「”気”に関しては、自分が使えないと”無い”と断定する者が大半ですが、僕は使えないけどあると思います」
ガンバ
「そうだね、ぼくも形からやってみようかな、自分が少しでも使えるようになると、また考えや見方が変わると思うし、なにより痩せるかも」
ぷーさん
「僕、結構前から毎日、練る?までやっている。忙しかったり忘れていたりでやらないと、翌日なんかだるいっぽい。だからなんらかしらのなんかはあるんじゃないかなぁ」
タカイ
「そうね、皆さん、嬉しいです。一緒にがんばりましょう。タカイさん、多分姿勢をもっと適正にしたら、もっと良くなるかと思います。」
「どんなかんじ?、、僕はーー、こんな感じでやっているけど、、」
と立ってみる

足の開きが足りない。だいたいみんなちいさめになっている、おもいっきり、というほど開かせる。重心を中心にし ていて、丁度良い開き具合だと、その開き具合がしっくりくるのですぐにわかる。
タカイのように、背が高いとそれをネタにからかわれるので猫背になりがち、を、後ろに反る気持で。
肩甲骨をストレッチさせてから、うでをだらんと垂らす。
で、ひじから下のみを前にすっと出す感じ。で輪を作らせ、
「肩を使わず、腕を垂らした感じのまま」
こう、と華が手を添え、ひじを外側に押し上げて、より大きい輪を作らせる。
「これが基本です。覚えてくださいね!」
誰かが「クラシックダンスの基本立ち姿勢に似ている、、」と。
「そうですね、足の開きかた以外は似ていますね」
で、毎日やっているように、同じことを10分ほどこのままやってみてください。

で、フンッと満足気になった華が周囲を見ると、皆同じようにやっている。
なので、
華は一人ひとり直すところを直していった。

10分たった。
汗をかいている者が何人かいる。
「汗をかいた方たち、かなりうまく気が体内を回っている結果です。毎日続けてみるのがいいと思います」
「他の方々も、少しずつではありますが、回っている気配がします。もう少し気が体全体を周り、その中心が丹田だというイメージを強くされるのがいいでしょう」
と華はレクチャー。
「気功教室」か?

「「「「おう!我々も超常現象研究会らしくなってきたなぁ!!」」」」
先輩たちが喜んでいる。そりゃそうだろう、10分立つくらいで、普通汗かくことはない。この気温でのこの部屋では。
”実感できる”は、とてもわかりやすいことなのだ。

ぷーさん、汗ダダ漏れ、、こりゃ痩せるわ、、とポツリと、、、

それからは、活動時には皆が集まった時点で10分気を回すことに決めた部長。今までは透視カードだった。

「あと、ストレッチをしておくと更に良いです。特に腰、背、肩甲骨、股関節、ですね」
「あー、もうしわけない、、多分、ぼくらほとんどそれらのストレッチの仕方を知らない、、、」
先輩部員とヲタ4もうんうん頷く。

すみません、と言ってタカイの上半身全部脱いで貰った。
肩甲骨を押し上げ、回す。これだけは服を来ていたら見えにくい。
服を着てもらい、股関節のストレッチ、通称「パタパタ」。
背と腰は屈伸、前3の3の3、後ろ3の3、を3セット。
体を左右に曲げるのは、硬いはずなので、3の3くらいを右左、の2セットくらいから。
とりあえずこんなものでしょう、と。

「呼吸とかもありますが、それは結構できるようにならないと苦しいだけなので、、」華

華の祖母はごくあたりまえのこと、として、気の鍛錬を物心付いた頃からやらせてきていた。
なんでもありあり?そうな祖母である。
まぁ、昔の武人はそんなものなのだが。




授業はいつもどおり聞いていても眠くなるだけのもので、しかし、最近は授業を聞きながら、他のことを考えることにした。
いつものいろいろな稽古のまだ不足している部分をどうするとか、クラブの研究課題のこととか。
まぁ他のことを考えていてもいつのまにかクラブの方になってしまうのだが。

やっと授業が終わり、クラブ。
薙刀はいつも「薙刀での後輩」の指導。年齢はずっと上の人達だが、薙刀歴は華のほうがよほどある。
試合をやっても段違い。このようなことは姉たちに聞いていたが、やはりそうだと少しがっかりしたが、後輩の指導もなかなかおもしろい。強くなっていくのがわかるのは楽しいものだ。
早く全国大会にでたいなぁ、と。指導した者たちが勝ち上がるのは爽快だろうなぁ、、とも。

華は別段勝つことにこだわらない。相手の技量が良ければ越したことはない。自分より上なら得るものはおおいからなおさら良い。
「技量を上げる」ことにこだわるのだ。だから相手が自分より強いほうが良い、と言える。
ただ、祖母ほど自分と技量がちがいすぎる場合、その差を測ることが難しく、どうやって縮めるのか?は、やはり祖母の指導をうけなければ無理だ。
姉たちと地稽古しているときが一番おもしろいと感じるかも知れない。


でも、
やっぱり超研のほうが楽しいと感じる。
なんというか、今まではうちの一族の者以外だれも見向きどころか信じもしなかった事を、信じて、一緒にやる、という仲間ができた、ということが一番なのだろう。
「気」や「時空移動」など、普通の人にとっては「空想の産物」という概念でしかないのだ。
気はもう使えるし、祖母を筆頭に家族は皆使える。なので現実のものだ。
時空移動は、、なぜか、華は「やったことがある」という感じ?を持っている。覚えていないが、経験はしたことがある。というもの。なので、「できるのだが、方法を誰一人として知らない」だけ、なのだ、華にとっては。
これこそ、セカイでたった一人信じていることであった、超研の仲間ができるまで。
超研の者たちも、自分が気を感じることができるまでは半信半疑であったようだが、仕方がない。でも気を実感でき、華の主張する時空移動も、可能性は高いのではないか?と皆思い始めていた。
華にはそれで充分であった。


定期テスト。
華は全て満点。当然である。彼女の姉たちも在学中は全員同様であった。

薙刀の件もあり、華は「変わり者」から「できる変わり者」に周囲から受ける評価が変わっていた。
歳が4つも下だが。



学期末近くになり、タカイが調子いいので、華はまず気の吸収を教えた。
それが数日で出来るようになったので、呼吸を教えた。

最初は、鼻の中にある分くらいの空気を二度吸い、一度でそれを鼻から吐き出す。
通常の呼吸では全くの不足だが、気を吸収し回していると、それで充分足りる。
やっていると、「そのうちほとんど吸わないでも行けるんじゃないか?」くらいに思うだろう、無理だけどw
なにかの用事をするくらいなら、気を回しながらその呼吸のまま行動できる。
昔々忍者が気配を断つ時、呼吸もほとんどしなかった、というのはコレの延長なのじゃないか?と祖母は言っていた。

タカイは授業中にも気を回し呼吸をそれにしていた。気を回すだけでも終わった時は結構眠くなるのだが、タカイは自身が気付いたら授業中なのに寝てしまっていたという。当然叱られたが。

部長達は「面白い現象だ」と興味津々。自分の体をモルモットにできるのだから都合が良い。



夏休み。
超研で探索に出かける。目的場所は古いトンネル。かなり前に新しく道ができ、ココは使われなくなり、しかも今は更にバイパスが通って、抜け道としても使われなくなり、正真正銘廃墟トンネルと化している。
壁面は手彫りのあとがありありと。
このトンネルがある山はその昔は霊峰として修験者なども訪れたそうな。

「あーすずしい!」あれから結構脂身が落ちたぷーさん。
皆もすずしいと感じているが、すずしいというより寒気?
タカイは
「なんか変な感じだなー」
やはりタカイ氏は他の人より一歩すすんでるな、と華は思った。
華もなんか「変な感じ」がする。
嫌とか危険とかではなく、普通じゃない?「変」という表現がピッタリかな?と。

進んでいく。灯火は各自1つづつ持っている。多くの者はヘッドライトだ。着用しているヘルメットにつけている。
廃墟に入る時はヘルメット着用が超研の決まり。

奥に行くに連れ暗くなっていく。
外光が入らない状況は同じなので、明るさはライトである。なのに、暗くなっていく。光の強さは変わらない。
光が外側から闇に吸収されているような暗さ。
でも、華もタカイも危険を全く感じない。ので、まだ何も言わない。
「なんだろう?」という好奇心が先にいっているのだろう。

「好奇心はネコをも殺す」という諺がある。華はそれを思い出した。

「部長、停まってください」
と皆を止める。
「実は、、」と、灯りが周囲に届きにくくなっている状況を説明。更に「危険ではないと思うが」なにか変な感じがすること。
なので
「私が先に出てみます」
「僕も一緒に行こう」
すかさず言うタカイ

部長は少し思案し、
「では、20mくらいの差でいいかな?それ以上は許可できない。ここに20mのロープがあるからそれを2人に結んで先に、なら良いよ。でなけりゃ皆一緒だ。」
なので、
華とタカイがロープに胴体を結ばれ、最後尾部分を部長が胴体に結ぶ。皆がロープをしっかり握る。
という形で進む。

灯火は皆が確認できるほど、狭い範囲しか照らさないくらいにまでなった。華は引き返したほうがいいかな?
と思った時、
しまった!
気が吸い取られるような感じが始まった。
立ちの姿勢になり、円を結び、外界から気を取り込む華
「タカイさん、だいじょうぶですか?」
気を取り込みながらタカイに聞く。
「むぅ、、どうにか立っているく、らい、、」
「気を回す姿勢を正しく維持してください。そして、気を回すときに、外界から気を腕の円に取り込むようにしてください。」
タカイは頑張った。
「どうにか、少しは楽になった気がする」
「偉いです!で、気を吸い取られる方向に、自ら気を渡す感じにしてください、でも抑えながら少しずつ渡す感じで。そうすれば一気に吸い取られません」
「うん、やってみる」
・・・・・
「どうにか、抑えている気がする、、、」
「偉いです!!」

「おーい!だいじょうぶか?」華達が立ち止まったから部長達もその場で停止していた。
「部長達はそこから来ないでください!!」
「・・危険ならもどってこいよ?引っ張るか?」
「とりあえず、まだ、、、」
「OK,危険だと思ったら、手を上げるなりしろ、すぐに引っ張る」
「はい、そのときはお願いします!」

随分立ったような気もするが、数分のようだった。
吸い取られる気の量は減ってきている。
「タカイさん、だいじょうぶですか?」
「ああ、なんか減ってきている?」
「流石ですね、はい、減ってきています。なのでもう少し様子見ましょう」
「OK」

やっと自分たちが動けるくらいになった。先程まで華も首を後ろに回しタカイを見ることすらできなかったのだ。
でもまだ外界から取り込んでいないときつい。
疲れると言うより、眠気がいきなり来るような感じ。勉強していていきなり眠くなる、ような。

明るく感じ始めたのは気のせいではない様子。
灯火の光の届き具合が正常にもどった様だ。

気が抜かれる気配はもう無くなった。
「タカイさん、念のために気を溜め込んでください。丹田に溜める感じで、多分、お腹が一杯みたいな感じになったら、満タンです」
「うん、やってみる」
2人は少しの間姿勢を保ち、外界から気を得た。

終わったとき、華は周囲を見渡した。見渡せ、と要求されている気がして。
タカイも周囲を見回している。

、、別に光がわいているわけでもないのに、暗さが減っている?
明るくなるというより暗さが減っている、という感じ。
周囲の細部まで見えるくらいになった。
「おもしろいわね、、」
「うん、これはおもしろい、、明るいんじゃなく、暗くない?って、、、動物の目?」
「ああ、なるほど、、そうですね、そうなのかもしれませんね」

華は、先程気が流れていったと思われる方向に向かい、手を合わせ、ありがとうございました。と言った。
こちらこそ、みたいな気配が流れてきた。

その後何もなくトンネル向こう側に抜けられた。
引き返す時は、もう何もなかった。
ただ、華とタカイは灯火無用になっていた。


元のトンネル入り口に戻り、休憩をした。
「さっきは何があったのだ?」
「・・・なんと言えば良いのか、、」
タカイを見ると
「はい、、なんというのか、、気が吸い取られている感じになり、、立つのがやっとのほどにまで、
で、華さんの指導に従い、気を外界から集め、同時に吸い取られる気の量を少なく制限し、やっと立ってられるように。そのうち少しずつ取られる量が減っていく感じになって、終わりました。」
「タカイさんの言うとおりです。終わった頃、灯火の灯りが闇に吸い取られることもなくなり、正常に戻りましたよね?」
華はタカイを見た、タカイは、うん、というように頷いた。
「そして、私達は目を手に入れました、闇に強い目を」




そしてその後日、連日いろいろテスト、2人はモルモット。
ほぼ完全な闇以外なら、結構見えると判明。
「夜行性動物と同じ程度なのかな?」
と部長。

かなりの肉体疲労時には少し能力は衰えるが、ほぼ変わらず?
気が少ないときがどうなるかは、不明。2人の気を放出する術が無い、と部長。

あ、あるかも、、ある程度時期を置いてからあのトンネルに入れば、、、
多分、あの地のなにかは、自分で気を得られない状態になっているのだと、、
だからたまに、気を満杯にしてからあそこに行き、与えてあげたら?

どうしよう?部長に言う方が良いのか、、あそこにいるものが何かは全くわからないし、、
タカイに相談した。
「言ったほうがいいのでは?そうすれば、みなして調べられる。過去、あそこでなにがあったのか?あの山に何があったのか、あるのか?など。そしたら、もしかしたら、あれがなんなのか、なんの影響なのか?など、少しは見えてくる可能性もあるかも、、」
華も同意した。
で、次のクラブ活動の日に部長に言ってみた。

「とうことだ、みんなで調べてみよう。そうだな、
1)山
2)トンネル
3)修験者とか関係
あと、なにかあるか?」
「近隣の神社とか、祠とかはー?」
「おお!良い案だ!
4)神社、祠など」
「ぶちょー! だったら、この地方の歴史とかは?」
「ナイス!そうだな、調べて無駄はないことだ、いい案だ!」
5)この地方関係の歴史等、ココ特有の昔話とか含めてな」
流石部長、どんどん進めていく。

「んじゃ、グループ分け。
1,やりたいやつ?



では、次の集まり、来週だな、それまで皆時間がある限り調べてくれ!
今年は俺ら、当たり年だぞっ!!」
「「「「「「「おー!!!」」」」」」」」

このノリノリ、華は好きになっていた。

もし、華が年齢通りの小学校6年でいたら、とても仲間はできなかったろう。
華の親のやりかたは、子どもたちに合っていた、ということだ。



華は歴史を調べることにした。
神話から。

神話の時代、この近辺には大神に仕える大狐と大白蛇がいたという。
ふたりは、どっちが大神に近いか、ということでしょっちゅう争っていたという。
自分を慕う者たちが争うことを神が嘆き悲しんでいるということを知ったふたりは、それ以降仲良くしていたと。
そして、そのうちにその神の使い達のことは語られなくなった。

なぜなんだろう?なぜ忘れ去られたのだろう?
お稲荷さんと蛇神様を祀る神社はまだある、が、
あそこにいたのがどちらかだとしたら?
封じ込められた?
しかし、それほどのことをしたら大騒ぎになり、話に残るだろう?

あ、よそ者が何も知らずに封じ込め、村に降りてから、それが神様として崇められていると知って焦って何も言わず早々と立ち去った、のであれば?

一回その仮定を立ててしまったら、それがこびりついて離れなくなってしまった。

タカイと、同じく歴史を調べることにした先輩一人とヲタ4のメガネ委員長に呼びかけ、集まってもらった。
皆歴史は調べているけど神話時代のを調べているのは居なかった。
平安時代頃にはもうその話は見ないという。

皆華の話を「可能性高いかな」と言った。
”気”と”夜目”の件で、もうSFはS”F”ではなくなっている超研内部。

先輩は部長に連絡し、明日特別に集会を行うとしてくれた。現地集合で。さすが部長だ。
この学校は私立で大学までエスカレーターだ。脱落する者はほとんどいない。停学を何度かくらうような素行不良確定者くらいしか大学側にNOは出されない。
なので、3年でもそれほど特に激しく勉強はしていない。
だから趣味?クラブにかまけることができるのだ。




昨夜華は何か夢を見ていた。起きたら忘れていた。が、何か大事な夢だった、ということだけはなんとなくわかった。

集合地点には全員揃っていた。
生涯、通常では絶対に見ることができないことを見せてくれる華やタカイがなにかをやるんだ、万難排して来ないほうがおかしいだろう。
また、前回のようにロープを使う。更に、皆それぞれ、御札や鏡、笛、小瓶の酒など持ち寄っていた。何が使えるか全く未知なのだから。
酒はまずいんじゃないの?という者も出たが
「我々が飲むのではないし、持っているだけで捕まえる警官がいたら、そいつがおかしいだろう?持つだけなら合法で、倫理的にもとやかくいう方がおかしいほどだ」
と部長。
次回から、念の為びんに料理酒ってマジックでかいてこい、と言っていた。

皆、自分でもってきたそれらをすぐ取り出せるよう、ポケットに入れた。

前回と違って、あの地点付近にきても気に関しては問題は起きない。
華達は立ち止まっていた。
華は呼びかけた。
「あなたは何者なのでしょうか?よろしかったら私達にお教えください。」
・・・・
「もしかしたら、大狐様か大白蛇様でしょうか?」
『・・・・ほう、なぜそう思う?』
言葉ではないなにかが、華に問いかけた。
「神話を調べました」
『大狐のほうじゃ』
「封印されたのですか?」
『・・・そこまで、、、情けない話じゃが、寝ていたところを、な』
「大白蛇様は?」
『我を探し回り、どこかに行ってしまった。それきりじゃ』
「封印は解けるのでしょうか?」
『わからんが、、』
「封印が解けたら、大狐様はどうなさいますか?」
『この地を心配しておるのか、何も悪いことはせん。良きこともできん。もう力はほぼ失せておる。』
「スクナヒコナ様の元にお帰りに?」
『なぜそこまでわかった?知るものは、人間にはおらぬはずだが?』

「今朝、夢を見ました」
話しているうちに夢を思い出していた。

そこにはスクナヒコナが居た。なぜかその男がスクナヒコナだとわかった。大狐と大白蛇もいた。仲良く、楽しそうにしていた。
その景色がだんだん薄れていき、
「ああ、あの時を、もう一度、、」という大人の男の声がした気がした。

そのことを説明した。
『ああ、主様、未だ我の、我らのことを、、、戻りたい、戻りたいものじゃ』
「封印は、どこにされているのでしょうか?」
『この上の方にあると感じる。』
「わかりました。精一杯努力してみます」
『お願いする。』


皆、華の声しか聞こえなかった。しかし、なんとなく内容はわかる感じがした。
タカイのみ、何かの声があったような、言葉として認識できなかったが、何かそのようなものがあったような、それを感じ取れた。


トンネルの外に戻り、華は皆に説明した。
「んじゃ、この上にいってみよー!」部長。

トンネルができる前の道、いまはもうほとんど道の体をしていない。山の保守をする者がたまに使う程度なのだろう。道みたいのがある、と見えるだけだ。
が、探検ルックの全員。長袖長ズボン、運動靴は当たり前。中には半長靴を履いている者も。
男子の多くは太めの木の枝を杖にし、何かの時防護に仕えるようにと。


「よし、大体ここらがトンネルのあの付近の上部になる。なんかそれっぽいもの、大昔のもので新たにされていなければ、もう自然物にしか見えないだろう、もしくは代々祀られ、あたらしく祠とかになっているかもしれない。
なんでもいい、皆で探そう!」
「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」

ほんのちょっとした膨らみだった。
見つけたのは2人だけの女子先輩達。ちょっと休むにいいかな?と座ってみて、あれ?
と、その膨らみの不自然さにその時にやっと気付いたと。
周りの雑草や苔を取っ払ったら、なにやら文字を刻んだ石だった。

華は封印の解き方など知らない。が、何やら口からどこかの言葉が出てきた。それをつぶやきながら杖を借り、てこを使いながら石をひっくりかえす。

ぶわっつ!!!
土中から何か飛び出してきた。が、地面はもとのまま、何かおこった形跡はない。
『はあ!!出られた!!お主なら何かしてくれると、期待していた!やはりな!いくら感謝してもし切れん!』
「いえ、封印などしたのはひと。そのひとである私達はその間違いを正すのは当然。今迄たいへんもうしわけありませんでした。お詫びしようがありません」
『おぬしのようなひとは、見たことがない。さて、わしは主様の元に帰らせて貰おう』
「最後にひとつだけ聞いていいでしょうか?」
『ふむ、何じゃ?』
「時空移転の方法をご存知でしょうか?」
『・・・・・・・・・なぜ、そのような事を聞く?』
「帰りたいのです!」
思わず勝手に口から出た言葉に自分でも驚く華!
『そうか、、、だが、、神ですらなかなかできないことだ。方法を知る神もほとんどいない。残念だが、、申し訳ない』
「そうですか、、ありがとうございました。これから健やかにお過ごしできますよう、お祈りしております!!」
『お主たちもな!!ほんに、感謝する!!』
ぶわっつ!!
大狐はその太く大きい尻尾をぶわっと振り、大きく空に飛んでいって、薄れ、消えていった。
振られた尻尾からおちたキラキラした輝きが、超研皆のうえに降っていた。
皆、口を空けたまま、そらを見上げていた。



すごいものを見てしまった!!
全員の今日の感想を一言でいうと、それ。

山を降り、最初の自販機のところで腰を下ろし皆でくつろぐ。
緊張で喉がかなり乾いたのだろう、2−3本飲む者も多かった。
話がはずんだり、黙り込んだり、、
夢ではないのか?と再確認したり、、

「無駄に霊峰と呼ばれてたわけじゃないんだなぁ、、、」
部長。


その後、超研みなになんらかの何かが授けられたことが判明。
多くのものは華やタカイみたいに夜目であったが、中には危機を予知する勘が強くなった者もいる。
いつまでその能力があるのか、はわからない。
けど、
自分達がその冒険をしたんだ、という絶対的な確証であった。



「帰りたい」
華は、自分はどこに帰りたいのだろう?と、あれからふと思い出す。

ああ、帰るために時空転移方法を探し始めたのか、、、と、やっと自分で理解した。



(華 第一部完)
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