[1]真相解明の宵(前)
文字数 4,489文字
□いつも大変お世話様になっております<(_ _)>
前回の投稿から随分経っておりますので、宜しければ簡単にでも先の3話を振り返ってからお読みください(^人^)
隠し部屋に隠されていた「首謀者」から解放されておよそ二時間後。
クウヤは二日目の闇に紛れて、メリルの帰りを待っていた。
格納庫から続く扉の真正面、大きな木立の幹に寄りかかり、ただひたすらその時を待つ。扉は斜め上の外灯が煌々と照らしてくれているので、誰の出入りがあっても見逃す心配はない。
──もう、まもなくだな。
クウヤはメリルの右手をぎゅっと握り締めた。
彼にはもう何もかもが手に取るように分かっていた。心を研ぎ澄ませる。物理的には聞こえない筈の階段を上る足音さえ、耳の奥に響き渡っていた。
そして──
「……ク……ウヤ、様?」
たった二十四時間ばかりである筈なのに、その声その姿が妙に懐かしく感じられた。
「おかえり、メリル」
扉を開いて同じ空間に戻ったメリルは、暗がりに佇むクウヤを即座に見つけて驚きの声を上げた。彼の手にする自分の右手に感知センサーでも入っているのか、もしくは瞳の赤外線スコープでも作動させたのか……それは分からない。が、すぐに気付いてくれたことをクウヤも嬉しかったのだろう。微かにはにかんだ様子で、照れ臭そうにメリルに応えた。
当のメリルは、まさかクウヤがこんな庭先で待っているとは考えも及ばず、焦った様子で駆け寄り、
「あ、あの……もしかして住宅内に入ることが出来なかったでしょうか? 昨日からずっとこちらに……?」
「いや。ちゃんと食事も出来たし、休息も出来た。風呂や洗濯機も使わせてもらったし、色々とありがとうな。右手、なくて不便だったろ……本当悪かったな」
「い、いえ……」
差し出された自分の右手と『ツール』のピアスを受け取り、早速装着したメリルだが、雰囲気のすっかり落ち着いてしまったクウヤにはいささか戸惑っていた。
「昨日は危ない思いをさせて申し訳なかった。身体の方はもう大丈夫か?」
「ご心配をありがとうございます。お陰様で通常モードでございます」
「……うん」
メリルが近寄ってきた時点で、寄りかかっていた幹から一歩は離れていたが、クウヤは更に一歩を進め、メリルにその身を近付けた。
「クウヤ……様?」
「もう……いいんだ。メイド口調なんてしなくていい。警護用アンドロイドだなんて……もう誰も欺 かなくていいから。ずっと気付いてやれなくてごめんな……本当、申し訳なかった」
「……!?」
勢い良く頭を下げて謝罪したクウヤの脳天に、メリルは驚きの表情を向けて声すら出せなかった。
クウヤは腰を折ったまま、
「全部俺のためにしてくれたことだったのは分かってる。だけどもういいんだ……もう、」
「あ、頭をお上げくださいっ、クウヤ様!」
慌てるメリルも腰を落とし、クウヤの上半身を起こさせようと両腕を伸ばした。その二の腕に触れた時、クウヤが首を少し戻し、二人の視線がかち合った。
「メリル……いや……マリーア。お宅がマリーア本人、なんだろ? お宅はアンドロイドなんかじゃない……れっきとした人間だ」
「あっ……」
まさしく真相を突かれたという面差しをして、メリルはまるでフリーズしたように動きを止めてしまった。今度はクウヤがメリルの二の腕に触れ、彼女の前ですっと背筋を伸ばす。見下ろすクウヤの真摯な瞳と、見上げるメリルの怯えるような眼 は、上下逆転して再び見つめ合った。
「バンコクでネイと話した時、あいつは自身を「地下に埋まったマザー・コンピュータの末端」だと説明して、俺はネイを「本体の手足」みたいな物だと解釈した。ムンバイでシドから話を聴いた時、あいつもお宅を「マリーアの手足」だと言ったんだ。だから俺はお宅をマリーアが操る分身みたいな物だと勘違いした。でも実際は違った……シドの父親はお宅にまさしく「手足」を……精巧な義手と義足を造ったんだ」
「……」
メリルの双眸はあたかも縫い留められたかのように、クウヤの視線から逸らすことが出来ずにいたが、真実がほころんでいく度に小刻みに揺らいだ。
「ネイに言われたよ……俺はお宅の優しさに気付けてないって。その意味がずっと分からないまま、此処に来るまで俺は甘えてしまった。でも今なら分かる……お宅がどれだけ俺のために無理してくれていたのかを。自分はアンドロイドだなんて嘘までついて、道中俺に不安を与えないよう仕向けてくれていたことを」
「い、いえっ、優しさだなどと……クウヤ様はわたくしを買い被りでございます。確かに……アンドロイドと偽りましたことはお詫び申し上げます。ですがこの両腕両脚は大変強靭な筐体 で造られておりますし、体幹も極薄のプロテクターで守られています。わたくしは……正式には最新式のサイボーグであると──」
「違う」
「え?」
メリルの言葉を遮ってまで、クウヤは力強く反論した。
「違うだろ……だったら何であのハリボテに掴まれた時、あんなに苦しそうな声を上げたんだ? もう、あんな無茶なことはしなくていい……俺を安心させようとなんて、これ以上しなくていいから──」
「あっ……」
二の腕を掴んだ両手に力を込め、悲痛な面 をメリルのそれに近付けたが、そんな自分の顔を隠したいように額に額をそっと触れさせて、クウヤは一度大きく息を吐いた。
「メリル、ごめんな……俺、全てを自力で思い出せたわけじゃないんだ」
「……は、い?」
メリルの動揺が繋がった額から伝わってくる。その分クウヤは落ち着きを取り戻して、姿勢を正し彼女を解放した。
「俺がメリルの「秘密」に辿り着けたのは、お宅の『エレメント』のお陰だ」
「わたくしの……? 『ツール』のピアスで、ということでしょうか?」
メリルの左手指先がそっと自身のピアスへ触れたが、クウヤは首を振って否定した。
「やっぱり気付いてないんだな……『ツール』は飽くまでも入巣 用に特化しているから、俺に情報は与えてくれなかった。教えてくれたのはお宅の右手だ……人差し指の爪だけが『エレメント』で出来ている」
「え!?」
この数分に何度も驚かされてきたメリルだが、今回が最も衝撃的だという表情をした。
「右手は自身の肉体でないから、融合してもお宅に影響は及ぼしていないが、メリル自身は『ムーン・シールド』のシステムで覆われている。詳しく研究したわけでないから良くは知らないけど、『ムーン』にも『エレメント』と同じく情報を保有する機能が存在するのだと思う。『ムーン』の持つメリルの「情報」が、爪に擬態した『エレメント』へ保管され、それが俺に埋め込まれた『エレメント』に移行した……おそらく俺が『エレメント』を呑み込んで失神している間に、人差し指の『エレメント』が俺の首元の『エレメント』に触れたんだ。それがキッカケとなって、その日から俺は……毎晩同じ夢を見続けた」
「同じ……夢?」
溢れ出てしまいそうな感情をかろうじて押さえ込み、メリルは表層を漂う『ムーン・シールド』の如き朧げな理解でどうにか質問した。
「夢だけど夢じゃない、現実にあった遠い昔の想い出だ。俺が小学四年生だった或る日、三日間だけ隣の席になった転校生がいた。俺はその生徒を苗字の「倉石」と呼んでいた。だから名前の方はスッカリ忘れていたけど……メリル、お宅の本名は「マリーア=クライン」っていうのだろ? そこからもじって使っていた日本名が「倉石鞠亞 」だ……倉石、お宅は俺のたった三日間のクラスメイトだった」
「な、にを仰っているのですか? わたくしはこの通り、明らかに日本人では……」
確信に満ち溢れたクウヤの声色は、メリルの弱々しい言い訳を震わせた。
まるで大蛇に呑み込まれた小動物みたいに、もはや足掻 くことなど無用の状態でありながら、メリルは依然認めようとはしなかった。
どうしてそこまで──クウヤは既にメリルについて全ての「答え」を知り得ていたが、唯一その理由だけが分かっていなかった。
「ラヴィと対面した時、彼は「自分の内なる血がシタールを好む」のだと、「今はこちら を全面に押し出している」と言った……あの時は理解出来なかったけど、ラヴィはインドとイギリスのハーフだったのだろ? 「こちらを全面に」というのは体内のDNAを操作して、英国人の外見に偏らせているという意味だった。メリルも同じように転校してきたあの日本滞在時は、日本人だった母方のDNAに、今は父方のドイツのDNAに偏らせているんだろ? ……なぁ、これ以上、俺を誤魔化すのは無理だから諦めろって……俺はマリーアの伯父だという人物にも、もう遭遇して白状させてるんだ」
「えっ……」
クウヤの詰問は決して責めるような鋭さは持っていなかったが、メリルはなかなか二の句が継げなかった。
それでもどうにか会話を綴ったのは、彼女も続きが気になったのだろう。
「……伯父が……現れたのですか?」
「いや、俺の方から伺った。伯父上も姪御 が可愛くて仕方ないんだろうな~アンドロイドじゃないことも、マリーアなのも鞠亞であることも、なかなか口を割らなくて大変だったぞ」
クウヤは頑なにメリルと口裏を合わせる「伯父上=首謀者」との長い押し問答を思い出し、疲れたように瞼を閉じた。
「も、申し訳ありません……それより、あの隠し扉を見つけて、解錠までされたということですか!?」
メリルの眼差しには、この短時間に隠し部屋を見つけたクウヤへの感心と尊敬と、自分が伯父に嘘をつかせていたこともスッカリ見抜かれている気恥ずかしさで、いつになく人間らしい複雑な感情が浮かび上がっていた。
「見つけたのは自分だが……解錠はほぼ偶然だ。お宅の右手が役に立った」
「見えないボタンに人差し指の指紋認証など……良くお気付きになられましたね」
「あれは指紋認証なんかじゃない。『エレメント』を利用した鍵だ」
「!? ……では、やはり、伯父がわたくしに『エレメント』を……」
「そりゃあそうに決まってるだろ? お宅に指紋認証だって嘯 いてたのも伯父上なんだから」
「……」
もはや絶句しか出来ないメリルに向けたクウヤの顔つきも、様々な想いで複雑だった。
メリルの伯父がどうして彼女にエレメントを搭載させたのか? 残念ながらその理由まではクウヤもまだ訊き出せていない。現状彼女を安心させる要素を持たずに質問するのは酷だとは思ったが、せめて「これ」だけは「今」知りたい──クウヤはついに覚悟を決めて、ゆっくりと口を開いた。
「メリル……まだまだ聞きたいことは山ほどあるけど、先に一つだけ教えてくれ。どうしてそんなに自分がマリーアであると……いや、倉石 鞠亞であることを俺に悟られたくなかったんだ?」
「……」
クウヤの切なる嘆願は、メリルに切なそうな嘆息を洩れさせた。
やがてメリルは俯いた。クウヤからでは彼女の面 がどんな心情を描いているのかも分からなくなる。
反面メリルの視界に入ったのは、その意志を表したように固く握られたクウヤの拳だった。
──覚えている……彼の両手は、鞠亞にとって「宝箱」だった──
前回の投稿から随分経っておりますので、宜しければ簡単にでも先の3話を振り返ってからお読みください(^人^)
隠し部屋に隠されていた「首謀者」から解放されておよそ二時間後。
クウヤは二日目の闇に紛れて、メリルの帰りを待っていた。
格納庫から続く扉の真正面、大きな木立の幹に寄りかかり、ただひたすらその時を待つ。扉は斜め上の外灯が煌々と照らしてくれているので、誰の出入りがあっても見逃す心配はない。
──もう、まもなくだな。
クウヤはメリルの右手をぎゅっと握り締めた。
彼にはもう何もかもが手に取るように分かっていた。心を研ぎ澄ませる。物理的には聞こえない筈の階段を上る足音さえ、耳の奥に響き渡っていた。
そして──
「……ク……ウヤ、様?」
たった二十四時間ばかりである筈なのに、その声その姿が妙に懐かしく感じられた。
「おかえり、メリル」
扉を開いて同じ空間に戻ったメリルは、暗がりに佇むクウヤを即座に見つけて驚きの声を上げた。彼の手にする自分の右手に感知センサーでも入っているのか、もしくは瞳の赤外線スコープでも作動させたのか……それは分からない。が、すぐに気付いてくれたことをクウヤも嬉しかったのだろう。微かにはにかんだ様子で、照れ臭そうにメリルに応えた。
当のメリルは、まさかクウヤがこんな庭先で待っているとは考えも及ばず、焦った様子で駆け寄り、
「あ、あの……もしかして住宅内に入ることが出来なかったでしょうか? 昨日からずっとこちらに……?」
「いや。ちゃんと食事も出来たし、休息も出来た。風呂や洗濯機も使わせてもらったし、色々とありがとうな。右手、なくて不便だったろ……本当悪かったな」
「い、いえ……」
差し出された自分の右手と『ツール』のピアスを受け取り、早速装着したメリルだが、雰囲気のすっかり落ち着いてしまったクウヤにはいささか戸惑っていた。
「昨日は危ない思いをさせて申し訳なかった。身体の方はもう大丈夫か?」
「ご心配をありがとうございます。お陰様で通常モードでございます」
「……うん」
メリルが近寄ってきた時点で、寄りかかっていた幹から一歩は離れていたが、クウヤは更に一歩を進め、メリルにその身を近付けた。
「クウヤ……様?」
「もう……いいんだ。メイド口調なんてしなくていい。警護用アンドロイドだなんて……もう誰も
「……!?」
勢い良く頭を下げて謝罪したクウヤの脳天に、メリルは驚きの表情を向けて声すら出せなかった。
クウヤは腰を折ったまま、
「全部俺のためにしてくれたことだったのは分かってる。だけどもういいんだ……もう、」
「あ、頭をお上げくださいっ、クウヤ様!」
慌てるメリルも腰を落とし、クウヤの上半身を起こさせようと両腕を伸ばした。その二の腕に触れた時、クウヤが首を少し戻し、二人の視線がかち合った。
「メリル……いや……マリーア。お宅がマリーア本人、なんだろ? お宅はアンドロイドなんかじゃない……れっきとした人間だ」
「あっ……」
まさしく真相を突かれたという面差しをして、メリルはまるでフリーズしたように動きを止めてしまった。今度はクウヤがメリルの二の腕に触れ、彼女の前ですっと背筋を伸ばす。見下ろすクウヤの真摯な瞳と、見上げるメリルの怯えるような
「バンコクでネイと話した時、あいつは自身を「地下に埋まったマザー・コンピュータの末端」だと説明して、俺はネイを「本体の手足」みたいな物だと解釈した。ムンバイでシドから話を聴いた時、あいつもお宅を「マリーアの手足」だと言ったんだ。だから俺はお宅をマリーアが操る分身みたいな物だと勘違いした。でも実際は違った……シドの父親はお宅にまさしく「手足」を……精巧な義手と義足を造ったんだ」
「……」
メリルの双眸はあたかも縫い留められたかのように、クウヤの視線から逸らすことが出来ずにいたが、真実がほころんでいく度に小刻みに揺らいだ。
「ネイに言われたよ……俺はお宅の優しさに気付けてないって。その意味がずっと分からないまま、此処に来るまで俺は甘えてしまった。でも今なら分かる……お宅がどれだけ俺のために無理してくれていたのかを。自分はアンドロイドだなんて嘘までついて、道中俺に不安を与えないよう仕向けてくれていたことを」
「い、いえっ、優しさだなどと……クウヤ様はわたくしを買い被りでございます。確かに……アンドロイドと偽りましたことはお詫び申し上げます。ですがこの両腕両脚は大変強靭な
「違う」
「え?」
メリルの言葉を遮ってまで、クウヤは力強く反論した。
「違うだろ……だったら何であのハリボテに掴まれた時、あんなに苦しそうな声を上げたんだ? もう、あんな無茶なことはしなくていい……俺を安心させようとなんて、これ以上しなくていいから──」
「あっ……」
二の腕を掴んだ両手に力を込め、悲痛な
「メリル、ごめんな……俺、全てを自力で思い出せたわけじゃないんだ」
「……は、い?」
メリルの動揺が繋がった額から伝わってくる。その分クウヤは落ち着きを取り戻して、姿勢を正し彼女を解放した。
「俺がメリルの「秘密」に辿り着けたのは、お宅の『エレメント』のお陰だ」
「わたくしの……? 『ツール』のピアスで、ということでしょうか?」
メリルの左手指先がそっと自身のピアスへ触れたが、クウヤは首を振って否定した。
「やっぱり気付いてないんだな……『ツール』は飽くまでも
「え!?」
この数分に何度も驚かされてきたメリルだが、今回が最も衝撃的だという表情をした。
「右手は自身の肉体でないから、融合してもお宅に影響は及ぼしていないが、メリル自身は『ムーン・シールド』のシステムで覆われている。詳しく研究したわけでないから良くは知らないけど、『ムーン』にも『エレメント』と同じく情報を保有する機能が存在するのだと思う。『ムーン』の持つメリルの「情報」が、爪に擬態した『エレメント』へ保管され、それが俺に埋め込まれた『エレメント』に移行した……おそらく俺が『エレメント』を呑み込んで失神している間に、人差し指の『エレメント』が俺の首元の『エレメント』に触れたんだ。それがキッカケとなって、その日から俺は……毎晩同じ夢を見続けた」
「同じ……夢?」
溢れ出てしまいそうな感情をかろうじて押さえ込み、メリルは表層を漂う『ムーン・シールド』の如き朧げな理解でどうにか質問した。
「夢だけど夢じゃない、現実にあった遠い昔の想い出だ。俺が小学四年生だった或る日、三日間だけ隣の席になった転校生がいた。俺はその生徒を苗字の「倉石」と呼んでいた。だから名前の方はスッカリ忘れていたけど……メリル、お宅の本名は「マリーア=クライン」っていうのだろ? そこからもじって使っていた日本名が「倉石
「な、にを仰っているのですか? わたくしはこの通り、明らかに日本人では……」
確信に満ち溢れたクウヤの声色は、メリルの弱々しい言い訳を震わせた。
まるで大蛇に呑み込まれた小動物みたいに、もはや
どうしてそこまで──クウヤは既にメリルについて全ての「答え」を知り得ていたが、唯一その理由だけが分かっていなかった。
「ラヴィと対面した時、彼は「自分の内なる血がシタールを好む」のだと、「今は
「えっ……」
クウヤの詰問は決して責めるような鋭さは持っていなかったが、メリルはなかなか二の句が継げなかった。
それでもどうにか会話を綴ったのは、彼女も続きが気になったのだろう。
「……伯父が……現れたのですか?」
「いや、俺の方から伺った。伯父上も
クウヤは頑なにメリルと口裏を合わせる「伯父上=首謀者」との長い押し問答を思い出し、疲れたように瞼を閉じた。
「も、申し訳ありません……それより、あの隠し扉を見つけて、解錠までされたということですか!?」
メリルの眼差しには、この短時間に隠し部屋を見つけたクウヤへの感心と尊敬と、自分が伯父に嘘をつかせていたこともスッカリ見抜かれている気恥ずかしさで、いつになく人間らしい複雑な感情が浮かび上がっていた。
「見つけたのは自分だが……解錠はほぼ偶然だ。お宅の右手が役に立った」
「見えないボタンに人差し指の指紋認証など……良くお気付きになられましたね」
「あれは指紋認証なんかじゃない。『エレメント』を利用した鍵だ」
「!? ……では、やはり、伯父がわたくしに『エレメント』を……」
「そりゃあそうに決まってるだろ? お宅に指紋認証だって
「……」
もはや絶句しか出来ないメリルに向けたクウヤの顔つきも、様々な想いで複雑だった。
メリルの伯父がどうして彼女にエレメントを搭載させたのか? 残念ながらその理由まではクウヤもまだ訊き出せていない。現状彼女を安心させる要素を持たずに質問するのは酷だとは思ったが、せめて「これ」だけは「今」知りたい──クウヤはついに覚悟を決めて、ゆっくりと口を開いた。
「メリル……まだまだ聞きたいことは山ほどあるけど、先に一つだけ教えてくれ。どうしてそんなに自分がマリーアであると……いや、倉石 鞠亞であることを俺に悟られたくなかったんだ?」
「……」
クウヤの切なる嘆願は、メリルに切なそうな嘆息を洩れさせた。
やがてメリルは俯いた。クウヤからでは彼女の
反面メリルの視界に入ったのは、その意志を表したように固く握られたクウヤの拳だった。
──覚えている……彼の両手は、鞠亞にとって「宝箱」だった──