第7話 ドキドキデート
文字数 3,090文字
「どれ。あの色の黒い人?ああ、知っている知ってる」
学校が終わり正門まで歩いて来た彼女は彼にやあと挨拶した。
「どうしたの?ここはもう卒業したでしょう」
「それは俺も知っている、それよりも時間あるか?」
兄の一つ下の後輩で大学一年の五郎はそう言って白い歯を見せた。
「あるけど。みんなの練習見なくていいの?」
「いいよ、あいつらなんて、勝手にやらせておけば。さあ、歩こう」
こんなひどい先輩の彼はバス停まで一緒に歩きながら話した。
「……。実はさ。話があってさ」
「そうだろうね」
「……頼み事なんだ」
「あのね。先にはっきり用件を言ってよ」
「う?すまん!」
五郎は女友達ができたのでデートの仕方を知りたいと話した。
「別に、彼女の行きたいところに連れて行って、話をうんうんって聞いてあげればいいのよ」
「でもよ。俺は彼女の行きたいところも知らないし、好きな食べ物も知らないんだよ」
「私だって知らないわよ」
しかし。兄の後輩で世話になっている彼なので、美咲は無下にはできず一先ずファミレスにやってきた。
彼の話によると、まだ彼女とか本格的ではなく、仲良くしている友達の中に中に女子がいるって話であった。
「俺さ。女の子って美咲しか知らねえだろう?」
「知らないって言ってるでしょう!」
「まあ、そうなんだよ。だからつい、美咲と比べちゃうんだよ」
「兄貴もそう言うんだけど。綺麗な女の子と比べてって事でしょう」
五郎が違うと言い出した。
「例えばな。この前、くしゃみをしたらシャツのボタンが取れてさ」
「ハハハ」
彼は仲間の女子にボタンをつけて欲しいと言ったら、できないと言われた話をした。
「お裁縫セットがなかったんでしょう」
「いや。そもそも持ってないんだよ。俺さ、女の子は誰でも持っていると思っていたんだ」
そんな五郎は女の子と普通に過ごせるレベルになりたいと話した。
「緊張するんだよな」
「いい事だよ。ゆるゆるよりも程よい緊張感の方が良いサッカーができるもの」
「今の俺はデートがしたいんだよ!?」
だから1日練習デートをしてくれと言った。
「な!頼む。お前は和希を男にして、晴彦と優作も面倒見たそうじゃないか」
「ちょっと?あんまり大きな声を出さないで」
懇願する五郎に仕方なく、美咲はこれを引き受ける事になった。
「お。きたか」
「おーい。五郎さん、待った?」
「ああ。結構待った」
すると美咲の手の中のブザーがブブー!と鳴った。
「そこは。そこはね、『自分も今来たところだから』って言わなきゃ」
純一から借りてきたブザーを鳴らした美咲は五郎に歩み寄った。
「つうかさ?どうでもいいけど、そっちの彼女は?」
「どうも!友人の瞳です!今日はよろしく」
「おっす!君も背が大きいね?」
「アハハ。美咲と同じくらいですよ」
高身長の二人はただでも目立つのに、今日はおしゃれをしていてさらに目立っていた。
そんな美咲は、今日は瞳とデートをしてみようと言った。
「私じゃ緊張しないんでしょう?だから瞳もお願いしたの」
「確かにそうだけど。でも、君いいのかい?俺の練習相手って」
「はい。面白そうなんで?」
そういって瞳はすっと五郎の隣に立った。
「あ?いいの?」
「フッフ。五郎さんって可愛いですね?」
「美咲……ごめん、俺、瞳さんが好きになった」
「そこ!早すぎでしょう?」
頬を染める彼に呆れながらこうして3人でデートが始まった。
「五郎さんって、お休みの日は何をしているんですか」
「そ、そうだね。サッカーゲームとか、かな」
「上手そう。それはパソコンの?それともゲーム機とか」
「パソコンのオンラインだね。女の子も参加しているよ」
「ふーん。でもね」
「な、なに?」
「お休みの日は……私の事を考えて欲しいな」
「考えます」
「そこ!落ちるの早すぎでしょう!」
あははと笑う瞳に五郎は頭をかきながら頬を染めていた。
「ね。こんな風に趣味を聞けば会話は続きますよ」
今度が五郎が瞳に聞いてくれ、というので、彼は覚悟を決めて話し出した。
「瞳ちゃんは休みの日は何をしているの」
「最近はヨガです。資格を取ろうと思って」
「へえ?じゃ体とか柔らかいの」
この会話に美咲はうんうんと頷きながら背後を歩いていた。
「どんな服着てやるの?そのジムってお風呂はあるの」
「フフフ。体の事ばっかで……」
「五郎さん!セクハラに近いよ?」
「そ、そんなつもりじゃないよ?!」
恥ずかしそうな五郎に瞳は笑いながら気にしないで、と彼の肩に頭をぶつけた。
「ああ。面白い。正直なんですね」
「まあ。それだけは自慢できるかな」
瞳は自分に興味を持ってくれたのは嬉しいと話した。
「でも他の女子ではアウトですよ」
「わかった」
そんな二人はなかなか楽しそうに歩いて行った。美咲はその後ろをついて行った。
「サッカーやっているから……モテるでしょう」
「いや。男ばっかりで。彼女もできないよ」
「そうですか?一回五郎さんとデートしたら、相手の女の子も好感持ってくれると思いますよ。ね?美咲」
「私はわかんないよ」
すると瞳は五郎の優しいところを押してくれた。
「歩くのも合わせてくれるし。さっきから私がお店をのぞいたら一緒に立ち止まってくれるし」
「それはそうだろう。君が見たがっているみたいだから」
「他にもね。信号待ちで盾になったりしているんだよ」
「本当に?」
「ああ。別に普通だけど」
そんな五郎に瞳はニコと微笑んだ。
「気持ちが優しいから態度がそうなるんだね。五郎さんは素敵な人ね」
「好きです」
「早いな……ごめんね瞳。ここまで単純だとは思わなかった」
そんな3人はカフェに入った。
「美咲はエアコンの風が当たらないそこに座れ。瞳さんはここ。俺が横で風を受けるから」
「やりすぎだよ?」
「ハッハ!そうですよ。ね、もっとこっちにくれば風には当たらないわ」
「いや、それでは君が窮屈だよ、俺は空気椅子でいいから」
「あははは」
「もう!五郎さん。やり過ぎだってば!」
頭をかく五郎に美咲は呆れ、瞳は笑っていた。
「だって、瞳さんがさ。優しいから」
すると瞳はこんな女の子はどこにでもいると話した。
「だから今日は免疫をつけてください?。これくらいでのぼせちゃ騙されそうだよ」
「うん。私も驚いちゃった」
「だって瞳さんがあんまり可愛いからさ」
「それは、五郎さんが他の女の子とデートしたことがないからですよ。本当に好きになった女の子とデートしたらもっと楽しいですよ」
「……そうかな」
その時、飲み物がきたので3人で飲んだ。すると瞳は仕事に行くと言い出した。
「仕事?」
「はい。私は声優の仕事としていて。秘密なんですけど」
「スタジオはここの近くでしょう?今日はありがとね」
「いいのいいの!それでは五郎さん。インチキ彼女は帰りますけど、自信持って頑張ってくださいね」
「あ、ありがとう」
そんな瞳は風のように去っていった。
「カッコいい。なあ、瞳ちゃんて彼氏はいるのか」
「いないよ。忙しいもん」
「だよな。でもな」
この後、腑抜けになった五郎を美咲は真田家に連れてきた。
「ただいま!お兄ちゃん。五郎さんがおかしくなったの!」
「もっとか?どらどら……」
ソファに彼を寝かせると翼は事情を聞いた。
「それは恋だな」
「だろう?」
「早いって……」
「ドキドキデート」完
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