第11話 合格発表

文字数 5,719文字

2月9日
今日はセンター利用で出願した大学の合格発表。
そもそも、「センター利用」とは、各私大が独自に作成した問題で行うのではなく、大学入試センター試験の結果をもとに合否を判定する入試のこと。

センター試験を受けた受験生がこれに出願すると、大学は出願者のセンター試験の結果を大学入試センターに問い合わせ、その結果をもとに合否を判定するので、センター試験さえ受験すれば、あとは出願するだけで自動的に合否が決まる。

《センター試験利用入試のメリット》
●受験料が一般入試より安い
1校につき15,000~20,000円
一般入試は1校につき30,000円前後

●出願さえすれば、直接試験会場に行って受験しなくてもいい大学が多い

●国公立大志望者にとっては、センター対策だけで私大を受験できる

●センター試験さえ受験すれば、何校でも何回でも出願できる

《センター試験利用入試のデメリット》
●募集定員が少ないため、倍率も高く、一般入試ほどあてにはできない
例えば、
C大学の法学部のセンター利用の定員は40名。
2015年の出願者は498名。倍率は12倍。

W大学の法学部のセンター利用の定員は100名。
2015年の出願者は2393名。23倍。

●センター試験で失敗すると、その時点で事実上全滅となる

これが一番怖い。
ちなみに・・・うちの娘は

W大学法学部・商学部
C大学法学部
M大学法学部
A大学法学部

の5つをセンター利用出願をした。

予備校の進路アドバイザーには
「これはお金だけの問題なので滑り止めを確保するためにいくつか出してください。」と言われ、センター利用の出願料だけで80,000円である。

結果は
W大学法学部・商学部は共に不合格。
C大学法学部は合格。
M大学法学部は合格。
A大学法学部は合格。

W大学もC大学も同じ学部を一般でも出願しているのでダブル出願ということになる。

まだ、センターが不合格だったからといって望みが消えた訳ではないのがこのセンター利用のいいところである。
また、受けに行かずとも、合格がもらえるということは一日試験を受けに行く労力が減り、
他校へより集中でき、合格という安心感が得られる。

娘はC大学法学部に心惹かれているようだったので、ここには入金せず。

昨日のwebでの合格発表から一夜明け、昼にはもう郵便でC大学の入学手続きの封筒が届いた。

センター利用での合格の場合、次の一般試験の合否が出る前に手続き期間の締切となるため、どうしても避けられない入学金の振込が待っている。

締切は2月17日。一週間しかない。手続きに必要な金額は24万円。
娘にとってC大学は第5志望校。

第一志望は国立の前期
第二志望は国立の後期
第三志望は私学のW大
第四志望は私学のK大
なのでまずここを押さえるために支払うことにした。

そしてもしおめでたいことが起き、W・K大に合格したらそこに支払う。
そしてそして万が一国立に合格したらそこに支払う。
という見事なピラミットが出来上がっている。


2/15
W大学法学部の一般入試。

センター利用で不合格だったのでリベンジも兼ねてだったが、プレッシャーに加え連戦となる。



センター試験の時、あまりの緊張で食事が喉を通らないという噂を聞き、大福を別で入れてあげたところ、すごく喜んでくれた。
「お弁当は緊張でそんなに食べれなくてでも15時頃の休み時間頃にすっごく疲れて〜集中力なくなってフラフラしてたから大福を食べたの。そしたら復活!和菓子って血糖値をゆっくり上げるでしょ?超いい!助かった!ありがとう!」と言われた。
このW大もK大の受験にもお弁当には大福を入れた。

娘が帰ってきた。
お約束で聞いてしまう。
「で、どうだった!?」
「大失敗はない…」

今まで、とにかく言い訳の多かった娘。
「難しかった」
「ヤバイ」
「できなかった」
「やってないとこがでた」
「適当に埋めた」
聞き飽きるほどこんなセリフを発していたが、今回は初めての好感触であった。
「いいとは言わないけど、大失敗はない」と。

2/22
W大学法学部の結果が出る。

合格。

娘と抱き合って喜んだ。
3日後に国立の試験がある。
この結果は励みになったと思う。

2/23
K大商学部の結果が出る。

合格。

思ってもみない合格だった。
さらに自信のついた娘は国立の試験に向けラストスパートをかけた。

国立入試の前日、娘は夕飯のあと映画を見ていた。
私学が受かってほっとしているのか気が抜けてるのか
「今日この時間からいくらやっても変わんないよ。」と言い最後まで映画を見ていた。


明日は国語と数学の2教科というので
「じゃあお弁当いらない?帰り早いの?」
「夕方までだよ」
「え?」と思い、
時間割を見ると国語150分(9:30~12:00まで)
数学100分。(14:00~15:40)
しかも数学は4問しか問題がないとか。
こんな試験を受けられるなんて、本当に自分の娘なのか不思議だった。


2/25
いよいよ本番、国立前期試験の日。
井の頭線に揺られ初めての東大。
今まで下見もせずはじめましての校舎。

最初の国語150分はなんとかぼちぼち出来た模様。
お昼をはさんでいよいよ強敵、数学!
・・・ボロ雑巾のようにクタクタになって帰ってきた娘。

明日は地歴と英語。気持ち切り替えられるか。

そして、いよいよ明日は最後の愛母弁当。
長かったお弁当作り。
子供を持つ母親なら、この苦しみはわかってもらえると思う。
やっとやっとお弁当作りから解放されるのである。

2/26
国立の前期試験が無事、終わった。
結果はどうかわからないけどとにかく目標だった前期試験が終わった。インフルエンザや風邪にも怯えながらうがい手洗いを一生懸命して。

思い残すことなく、試験を受けるところまで来れてよかった。と帰りを待つが帰ってこない。
連絡をすると、
「友達と渋谷寄ってくる!」
今日は緊張がやっと解けて久しぶりに友達と試験会場で会って積もる話もあるんだと思い先に夕飯を済ませた。


国立前期試験の結果は3月10日。
もしダメだった場合、国立後期試験の3月12日となるので、まだ終わりではない。
長い戦いである。

戻ってくるなり、娘は「明日から後期試験の勉強する!」といって、
国立、私学、センター試験の問題集、参考書を捨て始めた。
早くないかと尋ねたが、娘は断捨離大好き女。
潔いのである。

また、K大の初学部とW大の法学部を天秤にかけ、W大の法学部を選んだ。
小学校卒業式のスピーチで「弁護士になる」と言っていたことを思い出した。
娘が決めた道だ。
私はW大の法学部の入学金20万円を納めた。

進路アドバイザーから電話が来た。
「後期試験は定員が少なく倍率が高いので厳しそうにみえますが実は努力した人には前期試験と同じくらいチャンスがあります。
その理由は前期試験で優秀な人は既に合格しているということは前期試験より相手が弱い!!
そして前期試験終了後、大半の人は受験勉強を辞めてしまう。
不合格がわかってから勉強するので対策できぬまま後期試験をうけるですので、前期試験終了後続けてやることまた前期試験発表後すぐに後期試験があるのでショックを引きずったままで実力が発揮できない人もいるよって2週間きちんと勉強し気力のもった生徒は当予備校では後期試験でも合格しています」とのこと。

なんて前向きなんだろうか、ポジティブというか、うちの中では東大の合格発表=宝くじの当選発表くらいにしか考えてないんで後期試験受ける気だったのではあるが、後期試験まで2週間ある。どうしても中だるみしてしまうのだという。

進路アドバイザーの心配が的中した。
娘は集中力がないのか、私が帰ってくるなり
「お金前借りしていい?この服買いたい」
「今じゃなくていいんじゃないの」
「だめ、終わったらすぐ遊びに行くんだから。服ないと困る」
「あと今週末美容院行く」
「おいおい、後期試験やる気ある?」
完全に充電切れである。

久々に娘の小学校時代のママ友より連絡があり、ランチにでかけた。
娘の通っていた小学校は公立小学校だったので卒業後は皆バラバラだったのだが、

Aくんは中学受験で私立の中高一貫校に。野球部のため高3の夏まで部活動をして、約7カ月の受験勉強。予備校は個別指導を選択。センター試験は3教科型。
国立を受けず私立一本の場合この方法が効率的らしい。
そしてW大合格。
センター利用でMARCHの支払い期限が長いところをおさえつつ、入学金を支払わず本命のW大のみのお支払いという短期間集中、かつ低コスト。
部活もやりきって、第一志望に合格した。

Bさんは公立中学へ行き、品行方正で部活も真面目に頑張り、高校受験でW実業高校に推薦で進学。そしてエスカレーターでW大学へ。学部もH学部だった。
自制の効かないと思っていた思春期をきちんとコントロールでき、受験を一度もすることなく、W大へ進めるのはとても素晴らしい。

Cくんは中学受験をしたが、第一志望には行けず、別の私学に行くが、付属の高校ではなく、外部のW高校受験に再チャレンジしW高校に合格し。エスカレーターでW大学へ進学。
付属の高校へ行かず、外部を受験した精神力は並大抵ではない。きっと中学時代に努力をしたんだと思われる。

皆、途中経過は違うけど同じ小学校で4人W大候補がいる。

さて、どれがよかったか・・・それはわからない。
コストの面でいうとどうだったのか。
受験回数だとどうか。

でも、どんな道に行ってようが子供が今の学校に満足していれば、価値は計れないのかも
しれない。
受験というのは難しい。
こんなケース、比べる対象ではないが

あなたならどうしますか。

中学思春期を品行方正にできるか。
中学受験が力になったのか、高校受験が大学受験の力になったのか。

中高一貫校のメリット、デメリットは?
その子によって違うと思うが、娘が双子だったら違いがわかったか。
いやいや、2倍のお金とドキドキが続くと心筋梗塞で倒れるであろう。

あと学校も終業式と送別会と卒業式の三日。
ありがとうの気持ちをこめて式前に制服を手洗いした。


娘の集中力があまり続いていない様子。

「ちょっと~大丈夫?」
「後期受ける気ないでしょ」
「やってます~後期の過去問10年分やったよ」

友達の半分は国立落ちたら浪人覚悟組。
やはり国立は人気で、理系の娘の友達は東大を受けた子組と、東大あきらめ東工大を受けダメなら浪人、来年東大組と2つにわかれた。

3/10
国立前期試験結果発表
ついに、ついに、この時が来た。
ドキドキと不安でいっぱい
あと3時間・・・
あと1時間・・・

大学のHPには
正午ごろと書いてあったが、娘の連絡を待った。

不合格

あああああ・・・・

残念。私も自らHPを見てみる。
ない。ない。どう見つめても浮き出てくる気配もなく。
受かりそうにない、うちの子に限ってとかなり諦めていて覚悟してはハズなのに、ため息がでる。
どうしようかと迷ったが、職場から電話をしてみた。

涙声だった。
精一杯明るく話してくれたかもしれないと思うと胸が痛くて、急いでいるふりをして切った。
私が泣いてしまいそうだから。

どうせダメだろうそう思ってたはずなのに夢を見てしまった。
でも逆に・・・夢をみさせてもらったのかもしれない。
親が私。こんな私の元でよく、ここまで来れたと。

自宅に戻ると、いつも通りの娘。
「残念だったね」と言うと
「だよね~」とまるで他人事。
「結構ショックだったかなけど、ま!こんなもんだ!」と勉強してました。
もう娘の中で切り替えてるのか、私の前だから気丈にしているのか。
いずれにせよ、短い間だったが『東大への道』はこれでおしまいである。

3/11
最後の国立後期試験
朝、ネットで出願状況みたらなんと15倍。
定員35人のところ出願者が498人。
昨年は女子は2名のみの合格。
ハードルが高い、高すぎる。

娘は試験会場へ向かった。

3/17卒業式
高校の卒業式ですが、中高一貫校なので6年間お世話になった女子校。
1学年180人おり、学校の成績はいつも下の方だったけど、娘の性格から考えて、この学校でなかったら、大学には受からなかったのではないかと思った。
面倒見の良いというより、自主性を尊重する、言い方を変えると思い切り突き放してくれる学校だったけど、それが娘には合っていたんだと思う。

仲の良いバスケ部16人の母親と謝恩会をした。
進路先が決まった子、浪人が決まった子、後期待ちな子
色々いるが、集った16名のうち、家を出て一人暮らしの子は2人。
もし娘が出て行ったら寂しいだろうなと思った。

3/23
国立後期試験発表
結果は、

不合格。

残念だけど仕方ない。

親戚の家に遊びに行っていた私たちに叔父から突然のサプライズで30本はあるであろうバラの花束をもらった。

叔父は合否を知らない。
きっと合格してるだろう、またはお疲れ様の気持ちを込めて買ってくれていたんだろう。
「ダメだったのよ〜」と言った瞬間、
困惑した叔父の表情をみて、叔父の気持ちと私たちの堪えていた気持ちが溢れ出し、母娘で号泣してしまった。

終わった。
長い戦いが終わったのだ。

今回の受験にたくさん貢献してくれた私の父。
すごく達筆なので願書はすべて父に書いてもらった。

書いた願書は私と父で2重チェック。
過去に小学校の入学式の日程を忘れる失態をしているだけに、自分で自分が信じられず、父に重要な件を頼んだ。

国立大学出身で真面目な金融系勤務。コツコツ役員になるまで勤め、知人や友人、後輩が多く顔が広いので何かと大学選びの相談にも乗ってもらった。
予備校の直前志望校選びの保護者説明会にも参加してもらい、我が子のように一緒になって受験を乗り越えた。

貢献してくれた父と娘で卒業後食事をした。
そんな父と受験を振り返り未来あるこれからの事について、W大について語り合った。
すると
「おじいちゃんとママへはい!お手紙!」
「今読んじゃだめだよ!」と言われながらなんか書いてあることが想像ついて涙。

ほろ酔いな私に付き合い娘と一駅電車に乗る所を20分かけて歩いて家に帰った。
途中、綺麗な夜桜をみて、また卒業の時には同じ風景をみれるのかな、その時は就活も大変だったねと語り合い同じ気分でこの桜の前を通れるだろうか。
そんなことを考えながら家路についた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

主人公

小学校までは大人しく、中学で非行に走り転校。遊んで将来の事を考えない生活を送り、高校卒業後上京し、妊娠。親に反対されながら21歳で出産。夫とうまくいかなくなり離婚。シングルマザーでどん底を味わう。両親の協力もあり、人生の立て直しを始め、娘の受験のサポートする。働きながらグラフィックデザインの勉強を始め、現在はデザイナーとして独立。娘が成人になり再婚。現在46歳。

幼い頃から活発。1歳から保育園に通園。公立小学校から中学受験をし、難関中高一貫校(女子校) に合格。その後有名大学の法学部に進学。現在、国家公務員となる。

現在24歳。

父 

金融系に勤務している。娘が中学生の頃非行に走り、それ以来、都内に逆単身赴任をしている。45歳の時、孫が生まれ、娘のサポートをする。孫を溺愛している。

現在72歳、現役を引退。


専業主婦で、口うるさいが、温厚で、損得なく人のために動ける人。娘の非行により実家へ引っ越す。それ以来息子の学校のこともあり、田舎に暮らす。孫が就職をした年、肺がんステージ4が判明するも元気に闘病中。

主人公と6歳離れており、姉の非行により、思春期は家族が別々に過ごすことが多かった。

現在は地元の百貨店に勤務、結婚し、子供二人に恵まれる。
闘病を続ける母と看護師を務める妻と共に同居してくれている。

パートナー

温厚な性格で、気遣いのできる人。

娘が成人になり主人公と再婚。交際している時から、母娘を陰ながら応援してくれていた。

自身には子供はいない。

現在、主人公と2人暮らし。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み