第14話 娘はあげない

文字数 1,287文字

4月から家を出て、就職した娘は忙しく、2ヶ月に一度帰ってくるかくらいだった。
ある時、彼氏ができたと報告があった。
初めてのことである。
大学時代にそんなこともあるのかなと期待していたが、全く気配がなかったので、逆に不安になっていた。

自分の稼ぎで生活できるようになって欲しいとは思ったが、このままずっと独り身だったら私が死んだ後この子は一人っ子だし頼る人がいなければ心配だ。

私は欲深いなと思った。
中学受験の時はこの学校に入れば安泰だ、大学受験の時もこの大学なら就職できるはず、無事就職できたら結婚相手ができるのか心配し、欲丸出しである。
結婚しても子供ができないか、また孫の進路の心配となっていくのだろうか。

そんな娘が彼氏を連れてきた。
9歳年上の同僚だった。
優しそうな人で、とても好印象だった。
初めての彼氏が、優しそうな包容力のある人で良かったと心から思った。

だがそこから娘は事あるごとに結婚したいと繰り返した。
まだ、お付き合いしたばかりだし、適齢期になったらでいいんじゃない。
どの口が言うんだと自分で思っていたが、それも母心。

もしかしたら今だけ良く見えているのではないか、
次にいい人が見つかったら、いや、次が悪い男に引っかかって、
あの時結婚しておけばよかったじゃないと言われたらなどと考えたがとにかく聞こえなかったフリをした。

一年も経ったころ、二人で挨拶にやってきた。
一度やってみたかった「娘はやらん!」というセリフ。

母親でもあり父親役でもある私は早すぎると言う理由で拒否した。
就職して一年。これから忙しくなってくる。
基盤ができてからでいいのではないか。

また、今までの娘の行動をみると、飽きっぽい。
熱しやすくて冷めやすい性格に、YESと言えなかった。

それでも3ヶ月後、また3ヶ月後と諦めきれない娘は彼と二人で挨拶にきた。
ここに私の父も同席した。
私の気持ちを代弁して欲しいから呼んだ。
黙って娘や彼の気持ちを聞いていた父。

そしてゆっくり口を開いた。
「お互いの気持ちもよくわかった。そしてどうしても育ててくれたお母さんの許可が欲しいと来たわけだね。それは偉いね」と言った。

ハッとした。

自分はどうだったのか。
父の気持ちを考えたことがあっただろうか。
自分のやりたいようにやり、親の言葉は聞かず、できちゃった結婚した際には親に反対されたまま押し切って産んだ。

親の許可がなくとも成人だったら婚姻届を出す事はできる。
自分は両親の気持ちなど全く考えず行動し、失敗し、何度も迷惑をかけている。
その度に温かく迎えてくれる両親。

娘は私のような母親でもきちんと許可を得ようと3回も来た。
立派な大人ではないか。

失敗するかもしれないから反対。
失敗しないように導くのはもう卒業したはずだ。
彼は私や父の目からみても人柄がよく、娘を守ってくれるだろう。
娘の人生なんだからそっと見守るのが役目なのかもしれない。

大学卒業から2年、24歳で娘は入籍した。

私は46歳。

私の子育ては終わった。

走り続けている時は長く先の見えないトンネルだと思っていたが、終わってみると早かった。
私には平均寿命でいうとあと半分の人生が残っている。
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登場人物紹介

主人公

小学校までは大人しく、中学で非行に走り転校。遊んで将来の事を考えない生活を送り、高校卒業後上京し、妊娠。親に反対されながら21歳で出産。夫とうまくいかなくなり離婚。シングルマザーでどん底を味わう。両親の協力もあり、人生の立て直しを始め、娘の受験のサポートする。働きながらグラフィックデザインの勉強を始め、現在はデザイナーとして独立。娘が成人になり再婚。現在46歳。

幼い頃から活発。1歳から保育園に通園。公立小学校から中学受験をし、難関中高一貫校(女子校) に合格。その後有名大学の法学部に進学。現在、国家公務員となる。

現在24歳。

父 

金融系に勤務している。娘が中学生の頃非行に走り、それ以来、都内に逆単身赴任をしている。45歳の時、孫が生まれ、娘のサポートをする。孫を溺愛している。

現在72歳、現役を引退。


専業主婦で、口うるさいが、温厚で、損得なく人のために動ける人。娘の非行により実家へ引っ越す。それ以来息子の学校のこともあり、田舎に暮らす。孫が就職をした年、肺がんステージ4が判明するも元気に闘病中。

主人公と6歳離れており、姉の非行により、思春期は家族が別々に過ごすことが多かった。

現在は地元の百貨店に勤務、結婚し、子供二人に恵まれる。
闘病を続ける母と看護師を務める妻と共に同居してくれている。

パートナー

温厚な性格で、気遣いのできる人。

娘が成人になり主人公と再婚。交際している時から、母娘を陰ながら応援してくれていた。

自身には子供はいない。

現在、主人公と2人暮らし。

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