喫茶店『猫の子 仔獅子』到着

文字数 1,507文字

 外では大雨が降っていた。駅の中では雨音が聞こえなかったので気付かなかった。とりあえず、しばらく雨宿りさせてもらおう。
 「傘、ないんだけどなぁ」
 折りたたみ傘ならあるが、この天気では意味がないだろう。雨が止むのを待つという手もあるが、この状況(深夜+知らない土地)を考えると、ゆっくりもしてられない。
 ちなみにマサムネはというと「寒いにゃ! 雨なんて嫌いにゃ!」と言って、鞄の中に潜ってしまった。
 「なんでこうなったんだろう」
 近くのベンチに座り、荷物を抱きかかえる。
 柄にもなく、家出したからだろうか?
 どれくらいの間、そうしていただろうか。ひょっとしたら、眠っていたのかもしれない。
 「おや、迷子かい?」
 聞き覚えのある声に顔を上げる。空耳だと思った。だって、

にいるはずがないから。
 見覚えのある男が、傘を差して立っていた。
 寒いからか、普段の服の上に膝まで届くロングコートを羽織っている。靴は、さすがに普段の革靴では汚れるからか、ブーツになっている。
 身長は高いが、全体的に細いために威圧感はない。髪の色は金色。癖が強いのか、ところどころ外側に跳ねている。ここからは見えないが、長く伸ばした後ろ髪は低い位置でまとめてあり、結び目には紫色のリボンが使われているはずだ。左右で色の違う瞳。薄暗いせいで判りにくいが、左眼はおそらく赤色。
 怪招者シリーズのお気に入りキャラ、ジムニーさんが不思議そうに首を傾げてそこにいた。
 「えっ、ジムニー……さん」
 「あれあれ、僕って、もしかして有名人?」
 質問に対し、曖昧に頷く。ああ、この人はこういう風に笑うのか。そこまでは想像していなかった。
 ちょっと待って。雨の夜、そしてジムニーさんとくれば………。この流れだと、喫茶店『猫の子 仔獅子』に連れていってくれるのだろうか?
 「ん~。ここで長話しもなんだし、暖かい所に行かない? 近くに、良い喫茶店があるんだけど」

 予想どおり、行き先はここだった。ほどよく暖房がきいており、冷えた体にはありがたい。
 「名前はちょっと変だけど、味は保証するよ? あっ、ちなみに僕のお勧めは焼きたてパンケーキ。ふわふわで美味しいんだよ。トッピングでアイスクリーム添えも試してみてよ。すごく合うから。ああ、あとそれから……。いや、これはもう実際に見て、食べてもらったほうが早いかな。百聞は一見にしかずってやつだよ。というわけで、パンケーキ二人分お願いするよ!」
 「二人分って、お前も食べるのかよ」
 ジムニーさんの長台詞に対し、呆れたようにそうツッコむのは、マスターの(ライ)さん。かみなりさん、ではない。まぁ、名前の元ネタは(かみなり)だけど。
 なんで知ってるかって? 彼も私が創ったキャラクターだからだ。創った時期はジムニーさんより古い。
 背中まで伸ばした黒髪をうなじの辺りで結んでいる。落ち着いた性格で、頼れるお兄ちゃんといった感じだ。年は二十三歳。普段は違うお店で働いているが、雨の日だけはこちらのお店を開けている。
 雨の日限定の喫茶店、『猫の子 仔獅子』。店名の由来は平安時代の言葉遊びからきている。「猫の子 子猫 獅子の子 仔獅子」みたいな感じだったと思う。
 「泣くことのできない誰かの為に」。それが『猫の子 仔獅子』のコンセプトだ。まぁ、詳しい話は後でしよう。
 「あっ、ホットココア二人分も追加で頼むよ!」
 「そう言うと思って、もう準備してある」
 そんな二人のやりとりを眺めながら、私はあることを考えていた。さて、これからどうしようか。
 
 
 
 

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登場人物紹介

倉里紗織…本作の主人公。電車で傷心旅行に出たところ、不思議な街に迷い込む。

落ち着いているとよく言われるが、感情が顔に出にくいだけである。混乱すると動きが固まる。

マサムネ…黒毛の猫又のぬいぐるみ。何故か人間の言葉をしゃべる、そして動く。

主人公のことを「旦那さん」と呼ぶのは、とあるゲームの影響らしい。

性格は好奇心旺盛、自由きまま。動くものを見ると飛びつく。

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