行き先? 不明です

文字数 988文字

 私が乗ったのは、どうやら電車ではなかったらしい。あと新幹線でもない。なぜそう思うかと言うと、私以外、他に乗客はいないからだ。
 外は暗く、時計を見ると深夜の二時を指していた。お化けが出てくる丑三つ時だ。
 私は普通に電車に乗ったはずだ。地元から電車で一時間の駅。そこから更に新幹線に乗り換えて、旅行に行くつもりだった……はず……なのだが。
 「あ~、どうしよう。ねえ、どうすればいいかなマサムネ」
 膝に載せた自作の黒猫ぬいぐるみ、そのふかふかのお腹を撫でる。返事は最初から期待していない。
 「ぼくは知らないニャ。旦那(だんにゃ)さんが自分でどうにかするニャ~」
 「その方法が分からないから、困ってるんだよー」
 ん? 今、しゃべった?
 「マサムネ?」
 「ニャ?」
 今度は首を傾げられた。んん?
 「君……」
 しまった!と言った感じの顔をされ、ごめん寝された。
 「ぼくはただのぬいぐるみニャ。決してしゃべったり、動いたりはしてませんのニャ。はい」
 「尻尾動いてるよ」
 細長い二本の尻尾が不安げに揺れる。猫又をイメージして作ったので、決して制作ミスではない。
 「ウミャ~」
 効果音がつくとしたら、「ズーン」と表現されそうな落ち込みようだ。
 「魔法をかけてもらっていて、バレたら元に戻るとか?」
 「そうではないニャ。旦那(だんにゃ)さんが寝ている時にイタズラしようと思ってたニャ。計画失敗ニャ」
 落ち込む理由がそれらしい。一体どんなイタズラをするつもりだったのだろう。
 「なんで動けるようになったかは分かる?」
 「さすがにそれは知らないニャ。気が付いたら、こうなってたニャ」
 そう言うとマサムネは、起きあがり、私の肩に飛びのった。運動神経は悪くないようだ。
 家で猫を飼っていた覚えはないし、近所に野良猫はいたが、この前見かけた時は元気だった。
 『次は終点 、次は終点 。お忘れ物のないよう、ご注意ください。左側のドアが開きます。次は終点 ……』
 アナウンスが流れるということは、公共交通機関で合っていたのだろう。
 「名前のない駅ニャ?」
 「全てが『無』に帰る駅とかかな。とりあえず、降りる準備しようか」
 確かに、名前がないのは気になるが、物騒なのよりはましか。
 まああれだ。辛い現実よりは、少しはマシな世界であることを願おう。
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登場人物紹介

倉里紗織…本作の主人公。電車で傷心旅行に出たところ、不思議な街に迷い込む。

落ち着いているとよく言われるが、感情が顔に出にくいだけである。混乱すると動きが固まる。

マサムネ…黒毛の猫又のぬいぐるみ。何故か人間の言葉をしゃべる、そして動く。

主人公のことを「旦那さん」と呼ぶのは、とあるゲームの影響らしい。

性格は好奇心旺盛、自由きまま。動くものを見ると飛びつく。

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