第2話 『 碧 瑠 璃 宮 』 … 碧 流 離 宮 …

文字数 1,060文字

 
 ほかの土地では『後宮』といえば君主の伴侶や性愛の遊び相手を、ひとところに集めて。
 他の男と浮気をせぬよう、厳しく見張って幽閉する、監獄のような場所らしい。

 碧流国では、ずいぶん違って、そこにいるのは若者ばかりである。
 いくらかなりとも『古王家』の血を引く、とみなされた者はすべて。
 おおよそ、十五の歳から二十歳まで、五年ほどをこの宮に集まり暮らすように要請される。

 たしかに、当代の王の性の相手も、この中から選びだされるのが常ではあったが。
 まぐわりあうのは異性だけとも限らず。
 また、一夜に何人もと激しく、またはゆるりゆるりと、戯れにふけることも。
 王家の者の資質としては、おおいに奨励された。

 それ以上に。
 『古王家』の血をひく者どうしの子どもらを。
 ひとりでも多く、まじわり産み交わせ、というのが。
 集い群れて暮らすようにと要請された、彼女らや彼らに。
 期待されている、大きな役割なのだった。

 碧流国の純血種の者たちは。
 子どもが。
 生まれにくい。

 恋し愛し合った相手と一生を誓って添い遂げようとすると。
 そのまま一生、子宝に恵まれずにお家が絶えてしまう。

 そんな例が、あまりにも多すぎたので。

 絶えた『古王家』の跡を継いで選び出された『新王族』の家では。
 神聖にして稀少なる『古王家』の血を。
 いくらかでも引く子孫たちを、とにかく集めて。
「子をなせ。」と、期待をかけたのだった。

 まだ分別もつかず恋も愛も知らぬ陽気な子どもらは。
 少ない時でも数人、多い時には数十人が。
 国のそちこちから呼び集められて。
 姫も若も、朝は武芸、昼は勉学、夜は愛宴と。
 日夜に競い、愛し合い、子づくりに励みあい。

 やがて孕む姫があれば、おおいに祝われて。
 誰が父かなど、気にする者もなく。
 生まれた赤子は、やがて。
『新王家』が護る『王嗣苑』にと。
 喜ばしく預けられるのだった。

 当代の王の子も、そのほかの王族どうしの子らも。
『王嗣苑』に育てられたものは、ひとしく競い合い。
 そのなかで最もふさわしきと認められた者が、
 新たな王として、立つ習わしとなった。

 ゆえに。
『王嗣苑』に我が子を収める喜びは。
 みずからが当代王の正妃に立つと同じほどの名誉と。
『古王家』の血をひく姫たちには、みなされたのである。

 
 他国の者らは。
 このならわしを。
 無責任に、
 羨んだ。


 今日も今日とて。碧流離宮には。
 若き王族らの姫たち若者たちが集いあい。
 群れ集って、
 むつみあって、
 だれかれかまわずに。

 子を、為すのだけが、
 お務めなんだとよ~…♡



 

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登場人物紹介

おせん。


親の付けた名は「お染」(おそめ)。

染物屋の末娘で、不細工で根性曲がり。

「こんな不出来な娘、どうせ行き遅れるに決まってらぁ!」と、

数え十五で取引先の呉服商の隠居の後妻(というか妾?)に嫁がされるが、

顔見知りの彫り物(入れ墨)職人と駆け落ち。


江戸から外れた山際の寺の裏の離れで、

刺繍の内職をして、生計をたてている。


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