第3話 ちょんの魔。

文字数 1,660文字

 
     ◎

 惚れて惚れられて一緒になった宿六とは謂え。
 あさひる分かたず、ところかまわず、
「鬼に金棒、おいらにゃ棍棒!」なぞとはぬかしゃあがって。
 のべつ幕なし、寸秒間なしに、
 なおす暇すらありゃぁしない裾を、
 ばっと割っては、まくりあげるなり。
 あたぃをひっくり返しゃあがるのには、
 ほんとに閉口だ。

     ◎

 今日も今日とて、がらりと戸口を開けるなり、
 閉めることすらそこそこの、半開きのまんま。
「おぅ、おせん、いゃさ悪りぃな!」
 言うなりずかずかとあたぃの仕事間に上がり込んできゃあがって。
「ぃゃさ悪りぃなぁ。弁天様の【 あすこ 】を彫ってるまぁによ。
 なにせおいらの棍棒のほうが、火照ってきちまぃやがって!」
 どうにもこうにもならんので、
 彫り物のお客を彫り床に待たせたまんまさぁ!」
 …とか言い訳にもならねぇ勝手ばかりを、早口にほざきくさりゃあがって。
「ちょぃとよ、ちょぃと!」
「あれおまえさんッ!」
 あたぃが叫ぶ間だって、ちょっとも動きを停める気配ぁない。
「ダメだよ、針仕事の邪魔ぁしねぇでおくれって!
 こないだも散々!
 危ないだろ! 針が! 針がッ!」
 縫いさしの刺繍の手のこんだいっち難しいところを。
 汚されちゃかなわねぇってんで、横に避けて持ち上げるはしから。
 その両腕の脇の下を器用にくぐりこんで。
 あたぃの前をはだけて。
 胸乳を…
「あれ、おまぃさんッ!」
 揉みしだかれて、おもわず。
「お待ちよ! ちょいと!ちょいと!」
「いゃ待てねぇ! ちょいとだ! ちょいと!」
 あたぃは悲鳴のつもりで嬌声になっちまってる唸り声をあげながら、
 とにかく刺繍ものを卓のうえの向こうに押しやって。
 もぉこうなりゃ好きにさせてやるしかねぇわぇと。
 板の間のすこし向こうに転がって。
 脚を割って立てて。
 前を、はだけた。
「…ぃやさ。ほんとぉぉぉぉに! いつも悪ぃなぁ…♡」
 悪いなんてちょんとも思っていねぇ声で、大五はぬかしゃあがって。
「これよこれ。おせんの弁天様ぁ、天下一よ…!」
 がばりと伏し拝むようにあたぃの股のあいだを覗き込みやがって。
「…やめておくれよぅ…!」
 あたぃは、もぉ。
 湿りきった声で褒めあげられて。
 熱い息を吹きかけられただけで。
 …もぉ、
 もぅ…ッ!!!!!!
「…ぁ、あぁん…ッ!」
「ぃゃさ堪んねェっっっ! こんのたくり具合ッ!」
 のしかかって来ながら、熱い勢いのまま唇を吸われて。
「あ…っっ」
 両の手のひらで両の乳房を。
 もちあげるように包み込まれて。
 揺らされて。
 両の親指で。
 乳首を…ッ!!!!!!
「あぁぁぁぁぁぁァ!」
 もぅ、もぅ。
 脳天を突き上げるような雷様に。
 腰から下が。
 あっというまに、湯滝になってしまうじゃないかぇ…ッ!!
「ぁぁん! …ぁぁぁあぁぁァッ!」
「なむさんッ!」
 まっすぐに、ずくりと。
 突きこんできやぁがる。
 棍棒だか、すりこぎだか…
「…ぁあんッ! あぁんッ! あぁぁぁ…ッ!」
「ちょいとよ! ちょいと!」
「あんッ! アん! あぁ!ッ?!!!!」
 
     ◎

 …ほんとうに、もぉ…ッ!★★★

 あたぃをいじりたおして苛めるのが狙いの晩には。
 ほんとう~に! 気をやりすぎて、極楽が観えるほど。
 朝まで。
 突きこみ、練りこみ、かきまわし尽くし…
 やがる、くせに…

     ◎

「すまんなぁ、客ぁ待たせてるんでよぉ…ッ!」
 ひっくり返されたあたぃが。
 裾をなおすどころか。
 起き上がる、ひまもないうちに…

 手前勝手も極まりなぃ、おとこは。
 さっさとてめぇの前だけ仕舞いこみながら。
 半開きのままだった、戸口のむこうから。
 眼ぇ丸くした、彫り物の客が。
 にやにやと、覗き込んでいたのを、ぐいと押し返して。
「ぃや済まねぇ。続きを彫りやしょう!」
 …なんてぇぬかしながら。
 さっさと逃げ出していきやがったぃ…

     ◎

 あたぃの熱くなったはんぱなお月様を、どぉしてくれんだいッ?

     ◎

 覚えてぃやぁがれ。
 今晩は、たっぷりとこの仇は討たせてもらうからねぇ…ッ!




 
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登場人物紹介

おせん。


親の付けた名は「お染」(おそめ)。

染物屋の末娘で、不細工で根性曲がり。

「こんな不出来な娘、どうせ行き遅れるに決まってらぁ!」と、

数え十五で取引先の呉服商の隠居の後妻(というか妾?)に嫁がされるが、

顔見知りの彫り物(入れ墨)職人と駆け落ち。


江戸から外れた山際の寺の裏の離れで、

刺繍の内職をして、生計をたてている。


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