第1話

文字数 1,035文字

 ここ山形県庄内は、シベリアからやってくる白鳥たちの一大越冬地だ。「白鳥の落ち穂拾い」は、庄内の冬の風物詩のひとつになっている。
 落ち穂拾いとは刈り取りの終わった畑に、集めきれず落ちている穀物の穂を一粒一粒拾う作業のことで、白鳥は収穫の終わった田んぼに落ちている稲の(もみ)をついばむ。
 写真は羽越本線北余目(きたあまるめ)-余目(あまるめ)間の線路沿いにある、刈り取りの終わった田んぼで羽を休めて越冬中の白鳥である。2015年12月12日に撮影した。


 そして3月のある日、地元の温泉の朝風呂の露天風呂でのことだった。
 朝6時には薄っすらと明るくなった空を見上げて常連たちが、「もうすぐ春だの。」「んだんだ。」「先日、白鳥が北に帰って行ったの。」
 「先生、知ってるか? 白鳥は V字型に編隊を組んで北に帰る時、地元の大きな目標となる物の上空を3回回ってから北へ飛んで行くんだの。どうもありがとの、また来年も来ますって忘れないためかの~。」
 (今日は朝風呂から出たら病棟の朝回診、8時から8時会(毎朝行う院内の申し送り、その日の業務の打ち合わせなどの連絡会議)、朝礼、そして外来をして、午後から手術…、よしっ!)と予定を確認して気合を入れていた時に、聞いたこの会話があまりにも暖かくほのぼのとし過ぎて、積み上げた分刻みのスケジュールの積み木がガラガラと崩れていくような気がした。

 そして桜が咲く。
 庄内ではそこに桜の木があるから花が咲くのであって、わざわざ咲いた桜を見に行くことは滅多にない。街中、学校、道端、公園、川の土手、山里などに無造作に桜が咲き、桜の花を独占できしかも見放題だ。(詳細は NOVEL DAYS 一般小説 「花見」2021年4月7日更新 で述べた。)
 写真は2018年4月18日に羽越本線余目-西袋(にしぶくろ)間で撮影した、上り特急「いなほ」、桜、そして残雪を戴く月山である。

 桜は集落のはずれの児童公園に咲くが、遊ぶ児童も花見をする大人もいない。たまには人が映っていてもいい場面に人影が全くないと、心なしか写真が暗いような感じがする。私の写真の技術不足で、露出不足が原因だといいのだが…。

 白鳥が去り桜が咲く。
 庄内では冬が終わり春が来るのが自然の風景の中で、目に映る形で分かる。来年も同じように季節は移り変わる。遠い昔の先祖も同じ風景の季節の移り変わりを見ていたのだろう。
 先祖代々の土地で自然を相手に悠久の歳月を土と生きる。庄内の人たちは本当に農耕民族だと思う。
 んだの。
(2022年4月)
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