第6話 初めての本番

文字数 753文字

怒涛の仕込み作業を終えたら
いよいよリハーサルと本番。

ここからが、一番やりがいを感じる時間だ。


初めて担当したポジションは、上手の舞台袖だった。
舞台袖にもたくさんの照明が設置してある。暗転するごとにそれらの色を替え、次のシーンの明かりをつくることが主な任務だ。
リハーサル前に「キューシート」と呼ばれる本番中の段取りが細かく書き込まれた資料が配られた。
特に夜のような暗めのシーンで色を間違えるとかなり目立つので、キューシートに書き込みをしながら段取りを念入りにシミュレーションする。
走りまわりすぎで汗だくなので、自分にとって命綱のようなキューシートが破れてしまわないかヒヤヒヤした。


そして、迎えた本番ー。

舞台袖には、出演者が私と同じように緊張した面持ちでスタンバイしている。バレエをしていた頃を思い出して一瞬思わず感傷に浸った。

照明機材はきっちりと置く場所や角度が決まっている。暗転の中で機材を動かさず色だけ入れ替えられるのか、はたまた次に明かりがつくまでに間に合うのか、初々しい緊張感をもっていたのをはっきり覚えている。
もちろん難しいことはまだまだ任せてもらえないが、ようやく舞台をつくる一員になっているという感覚を味わい、じわじわと気分が浮き立ってきた。
他の先輩方のオペレーションも間近で見て、怖かった黒服が、段々とプロフェッショナルの色に見えてきた。


さて、


夢のような時間もつかの間。


本番が終わったら即、怒涛のバラシ(片付け)が始まった。
現場初日のこの時は分からなかったが、
バラシはある意味ストレス発散タイムだ。
舞台の一連の仕事をしてみて、最も難しかったのは仕込み時間。
図面は中々読めないし、常に急いでは怒られてを繰り返す。いわば自分を苦しめたこの配線達をバラす時間は内緒の「ちょっとした爽快時間」と化した。
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