第13話 日本舞踊は目と腕の筋トレ

文字数 1,107文字

色々ある舞台ジャンルの中で、日本舞踊はいくらか気持ちが楽だった。
機材の仕込み方が割とシンプルという理由もあるが、1番はピンスポットの段取りが覚えやすいからだ。お芝居やショー物だと、「このタイミングでライトを消して、次はこの役者が上手から出るからスタンバイして、役者がこの位置に入ったら明るさは何パーセントで、このシーンではピンスポットにこの色を入れて、、」などなど初日を迎えるまでに覚えることが山ほどある。
それが日本舞踊の場合、曲目ごとに1人のスタッフがずっと同じ役者にピンスポットをあてる、ということが多い。なので、自分が担当する曲目と役者が出てくる位置、最初にライトを出す時の明るささえ把握できていれば、段取りはほぼクリア。
また、役者の動きが基本ゆっくり滑らかなので、ライトもついていきやすいのだ。

しかし、意外な盲点があった。

日本舞踊は、1曲1曲結構な尺がある。長いと20分以上踊っているような曲もある。
つまり、その間ずっとピンスポットを出していないといけないのだ。
私が習っていたバレエは、ソロの踊りが1曲2分くらいだったのでちょっと衝撃的だった。

初めて日本舞踊の舞台を担当した時
リハーサル中に気づいた。

「あ、まずい」と。

ライトを出し始めて10分を過ぎたあたりから、ピンスポットを支えている右手・右足が悲鳴を上げ始めた。ついでにピンスポットに接している身体の左半分がオーバーヒート状態になった。照明機材を点灯させ続ければ強烈に熱くなるのは当然だが、本番までに自分の皮膚を分厚く進化させることなんてできない。
仕方なくライトにがっつり接してしまう左肘に布ガムテープをこれでもかと貼りまくった。
腕筋については本番中のアドレナリンに託すことにした。

それでもまだまだ、アドレナリンだけでは突破できないことがあった。

それが、

『日本舞踊の舞台上明るすぎ問題』である。

他ジャンルの舞台に比べ、ガンガンに明るい。
明るいとどうなるか。
自分が出しているピンスポットライトが舞台上のどこにあるか分からなくなるのだ。これは日本舞踊あるあるらしく、事前に聞いてはいたが想像以上の見えなささだ。
ピンスポットを役者から外すのは一番やってはいけないミスなので、死ぬ気で舞台を凝視するも度々見失う。
こんな時は、お客さんにバレないように、ライトの大きさをほんの少しだけいじってみる。
すると、ライトのフチがうっすらと動くのが何とか見えた。
何度もヒヤっとしたが、先輩に教えてもらったこの方法で、何とか本番もちこたえた。


ちなみに左肘に貼りまくった苦し紛れのガムテープ作戦は、ガムテープ自体が熱をもち、
本番でリハーサルよりも激しい事態を招くこととなったー。




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