Stage3 最初の街と魔法使い

文字数 3,422文字

 小さな漁村、イワンセを後にした俺たちは、最初の目的地である都市・ウェルスタンへとやってきた。ここウェルスタンは、エクステンドワールド・オンラインオリジナルの大陸、ウェルブラン大陸の東にある都市で、ウェルブラン大陸最大規模の街でもある。

「うぉー、ついたー! ウェルスタン! ここが、華の都と謳われる王都・ウェルスタンかー」
「はぁ、はぁ。早いですよー、アリスさまー」
「リリィ、遅いよー」
「アリスさまの荷物を私が持ってるんですから、当たり前です! 大体、自分の荷物は自分で持ってください!」
「まぁまぁ、堅いこと言わないの」

 さて、最初の街に着いたときにすることといえばアレだな。
 そう、ポケ○ンセンター……もとい、宿屋に行くことだ。全滅したときに前回立ち寄った宿屋に戻されるからな。一度泊まらないと。

「にしても、広い街だなー。宿屋はどこだ?」
「あ、アリスしゃまー……。さすがに、ちゅかれました……」
「ああ! リリィが舌っ足らずな感じになってる!? ていうか、なんか溶けてる!?」

 歩き疲れたリリィは、荷物の上でぐだーっと溶けるように突っ伏していた。非常に可愛い。
 はっ! いやいやいや、そんなこと考えている場合ではない。さっさと宿屋を探さなければ、リリィが溶けきってしまう。
 しかし、こんなに巨大な街でどうやって宿屋を探せばいいんだ……。ポ○センみたいに、分かりやすいマークとかないのだろうか。あるいは、宿屋マークとかないものか……。

「アリスしゃまー」
「ん、どうしたの?」
「宿屋、ここですよー」

 リリィが指差した建物は、どこからどうみてもお城であった。見た目はヴィクトリアタワーやビッグベンで有名な、ウェストミンスター宮殿である。
 普通に宮殿だから、王族の住まう城かと思ったぞ……。ていうか、普通の宿屋が宮殿とか、センスがいいとか悪いとか通り越して、趣味悪すぎるだろ……。まぁ、気にしすぎても仕方ないか……。

「いくらですか?」
「はい。3名ですと、27000ゴールドです」

 くそたけぇ! 一人あたり9000ゴールドかよ! ん? ていうか、3人? おかしいな。俺とリリィ以外、誰が……?
 後ろを振り向くと、もはや魔法使いといえばこれ、といった感じの魔法使いがそこにいた。
 えええええ!? 今どき、とんがり帽子を被った魔法使いなんているのか!? 最近の魔法使いってかなりオシャレに気を遣ってる魔法使い多いよね? 今時白黒って……。でも、美少女だから何を着ても可愛いのは反則だろ……。

「あの、お客様? どうなさいますか? お泊まりになられますか?」
「いえ、また来ます……」

 そう言って、宿屋・ウェストミンスター宮殿を後にした。
 いくら王都だからって、ボッタクリすぎだろう。しかし、弱ったなぁ。これはまた野宿か。お風呂、入りたかった。ちょっと汗くさい……。

「ていうかさ、お前は誰なんだよ。なんで着いてくるんだ?」
「お前は、我が師の仇だ!」

 そう叫ぶと、魔法使いの少女が襲いかかってきた。チラッと見えた脚に目を取られそうになったが、なんとか堪えた。

「なんで魔法使いなのに物理攻撃なんだよ! ちゃんと魔法を使えよ!」
「特攻が低いので無理です」

 ポケ○ンか! こいつ、ポケ○ンだったのか!? 

「大体、魔法使いといえば魔法攻撃だなんて誰が決めたんですか? 別に物理攻撃でもいいじゃないですか!」

 なんか言い出したよ。全世界の魔法使いを敵に回すようなこと言い出したよ。

「そもそもですね、魔法が使えるから魔法使いというのであって、別に物理攻撃をしてはいけないというルールはないんですよ」

 なんか、魔法使いのアイデンティティをぶっ壊すようなことを言い出したよ。確かにそんなルールはないけど、魔法が使えるだけで魔法使いなら、ドラ○エの僧侶とか賢者も魔法使いだよ。商人とかも魔法使いになっちゃうよ。

「ということで、死ね! かーめー○ーめー波ぁー!」
「うぉーい! もはや、魔法でも物理でもねーよ!」

 あぶねぇ! なんでかめ○め波とかあんだよ。なんでただの魔法使いが使えるんだよ。亀○人か? 亀○人でもいんのか? この世界のどこかにかめハウスがあんのか?

「ふっふっふっ。驚いたようだな。これこそ、お前を倒すために編み出した、かめ○め波だ!」
「いや、お前が編み出したんかい!」

 などとツッコミをしている間に、もはや魔法使いといっていいのか分からない少女は、再びかめ○め波の発射態勢をとった。

「くらえ! かめ○め波ぁー!」
「アリスさまー!」

 かめ○め波がアリスに直撃しようとしたその瞬間、放たれたかめ○め波が真っ二つにわかれた。

「なんだとー!?」
「おー。出来るもんだなー」
「ま、まさか。かめ○め波を切ったのか……!?」
「その通りだ」

 あぶねぇー。初めてやってみたけど、成功してよかった。失敗したら、絶対死んでたって。
 アリスは、涼しい顔をしていたが、内心冷や汗ビッショリであった。

「アリスさま、すごいすごい! すごいのです!」

 キャラが安定しないリリィが、ピョンピョン跳びはねながら喜んでいた。
 うん、やっぱり可愛い。おっとっと、鼻血が。

「し」
「ん?」
「し」
「し?」
「師匠と呼ばせてください!」

 美少女物理魔法使いが土下座してそんなことを言ってきた。
 こいつは何を言っているんだ? なんで俺?

「いや、俺お前の師匠の仇なんじゃないのか?」

 正直言うと、2日前に村を出たばかりなので、仇とか言われても謎すぎて困るのだが。
 そもそも、村を出て2日間、何をしてきたのかというと、釣りしかしてない。食べ物がないし、海沿いを歩いてきたからね、仕方ないね。なぜかキングサーモン釣れるし。

「つーか、そもそもなんで俺がお前の師匠の仇なんだよ。何かしたか?」
「……いえ、別に何も」
「は?」
「ただ、あなたたちが楽しそうに旅をしているのが無性に腹がたったので……」

 ただのサイコパスだった。なぜか顔を赤らめ、指をクルクルしながらモジモジしているが、やってることと言ってることが総じてサイコパスだ。

「あ、憲兵さーん、こいつサイコパスなんで逮捕してくださーぐぼっ!」

 近くを丁度見回りの憲兵が通りかかったので、このサイコパスを突きだそうとしたら、肘鉄を喰らった。

「ん? なんだね?」
「あー、いえ。何でもないですー」
「そうか」
「あははー」

 サイコパス物理魔法使いが手をヒラヒラと振ると、憲兵はそのままどこかへ行ってしまった。

「おい、テメエ! どういうつもりだ!」
「なんで、逮捕させようとしてるんですか!」
「当たり前だ。人が幸せそうにしてるだけで襲うようなサイコパスは、逮捕してもらった方が世のため人のためだ」
「ひどい、私はこんなに貴方のことを愛しているのに」
「うるせぇ。愛が重いんだよ、愛が。大体、お前のそれは愛じゃなくてただの嫉妬だろ。勝手にパルってろ」

 体にしがみついてきたので、剥がそうと必死に抵抗しているが、物理魔法使いなだけあって、力が強く中々剥がせなかった。

「えーい、話せー!」
「イヤです! 私を亀○流に入れてくれるまで離れません!」
「誰が亀○人だ! そもそもこの世界に亀○流なんてねーよ! 大体、お前かめ○め波うてるんだから、免許皆伝だよ!」
「いいでしょう、そこまで言うならば、私にも考えがあります」

 体にこびりついていた、サイコパス美少女物理魔法使いは、自分から離れた。
 ズンズンとリリィの元へと歩いて行くと、リリィの首根っこを持って、拾い上げた。

「ふぇっ?」

 どこから持ってきたのか、リンゴを食べていたリリィにとっては予想外の出来事だったらしく、リンゴを落として泣きそうになっていた。

「ふえぇぇぇ」
「何をするつもりだ?」
「こいつを返してほしければ、明朝またここに来い!」
「! 人質とは、卑怯な……!」
「ふっふっふっ。私は、決して諦めない!」

 そう叫ぶと、サイコパス美少女物理魔法使いはどこかに飛び去っていった。
 正直、リリィはどうでもいいが、荷物持ちとヘルプが居なくなるのは困るな。仕方ない。助けてやるかぁ。
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