第4話 おまけ①「人間性」

文字数 4,041文字


ファンタズマ
おまけ①「人間性」

おまけ①【人間性】



























 その男たちは、いつも一緒にいた。

 だからといって、特別仲が良いようにも見えなく、程良い距離を保っているとうべきだろうか。

 男たちの出逢いは、少し前まで遡る。

 「・・・暇だな」

 青い髪をして赤いマフラー、上半身はさらしのみといった、寒いのか暑いのかよくわからない格好をした男、咲明は草原で寝転がっていた。

 両腕を後頭部にもっていき、足はクロスさせた状態で寝ていると、なにやら男たちの叫び声が聞こえてきた。

 よっこらせ、と身体を起こしてみると、距離は離れているものの、近場の街で戦が起こっていることが分かった。

 ここまでは来ないだろうが、もしも国がらみの大きな戦争となれば、咲明が今いる場所にまで男たちが押し寄せてくるかもしれない。

 そう思い、すぐにここから退散しようとした時、1人の女の子が逃げてくるのが見えた。

 放っておこうとした咲明だが、その女の子の後ろからは剣を高らかに持ち上げている男が迫ってきていた。

 咲明は草原に立っている大木に隠れる。

 男は女の子を捕まえると、そのまま地面に押し倒し、イタズラをしようとする。

 女の子は泣き叫ぶが、それがさらに男を欲情させ、男は女の子の服を破り捨てる。

 まったく碌でもない男だな、と思いながらも、面倒なことに巻き込まれないようにしていた咲明だったが、その時、何か気配を感じた。

 「いてっ・・!誰だ!!!」

 男の声が聞こえてきて、何があったのかと顔を覗かせてみると、男のすぐ近くに、真っ赤に熟れたリンゴが落ちていた。

 「あー、なんかすんません」

 「誰だ貴様!殺されたいのか!!」

 咲明のいる場所からは、背中をこちらに向けているため、顔は確認出来なかった。

 しかし、声色からして若い男だろうか。

 黒い髪に黒い服をきたその男は、男の近くに落ちているリンゴを拾うと、それを口で齧った。

 なんだあの男?と思って見ていると、女の子に跨っていた男は、リンゴを齧っている男に剣を向けた。

 「邪魔をするな!!さっさと消えろ!」

 「・・・・・・」

 「おい!聞いているのか!・・・!?」

 齧った跡がついているそのリンゴを、黒髪の男は宙に放り投げた。

 剣を向けていた男がそのリンゴを見上げていると、いつの間にか目の前にいた男がいなくなっていた。

 いや、男だけでなく、女の子までもいなくなっていたのだ。

 辺りを見渡してみると、少し離れたところにいることが分かった。

 「何者だ!!!」

 「あーあ。面倒臭いなぁ・・・」

 剣を男にむけながら、その男は襲いかかってきた。

 すると、どうしたことか。

 一瞬、その場の空気が止まったような気がした。

 剣を向けていた男は動きを止めてしまい、それからすぐに白目を向いて倒れてしまったのだ。

 男は女の子に、しばらく隠れているようにと伝えると、大木のほうへと近づいてきて、そのまま大木に寄りかかった。

 「覗きの趣味でもあるの?」

 「・・・・・・」

 「さっきからさぁ、そんなところに隠れて。ふぁああ、眠くなってきた。てかさ、ここって何処?俺なんでここにいるんだろ?」

 わけのわからない男だった。

 「別に覗いてたわけじゃない。巻き込まれるのが嫌いなだけだ。お前は迷子か」

 「馬鹿だな。この歳で迷子になんてなるわけないだろ。自分の居場所が分からないだけだ」

 「それを迷子と言うんだよ」

 それから、その男の名が黄生だと知った。

 「初対面の相手に向かって、いきなり迷子だなんて、お前は失礼な男だな。それに、目の前で女の子が襲われてるにも関わらず助けようともしないクズだ」

 「慈善事業はしてないんでね。それに、そもそもあの男の趣味に問題があるだろ。責めるなら俺じゃ無く、あの村を襲ってる連中と、女の子にイタズラしようとしたあの男だろ。俺をクズなんて言うのはお門違いだ」

 「わー、出た。そうやって誰かのせいにするのは良くないって、お天道様に習わなかったのか」

 「お天道様には習ってねぇな」

 「そういや腹減ったなー。あんたさ、なんか喰いもんもってない?」

 「持って無い」

 「クズな上にケチとはね。拍車をかけた性格の悪さだ」

 勝手なことを言われ、咲明は多少いらっとしたのだが、この男とも二度と会う事はないだろうと、自分を押さえた。

 その場から立ち去ろうとしたとき、2人の周りに何かを感じた。

 それが何なのか、確かめる前に分かった。

 「あーあ。こんなところ道草食ってから、狙われちゃったよ」

 「先に言っておくが、これは俺のせいじゃねえからな」

 2人の周りには、村を襲っている男たちがずらっと並んでいたのだ。

 村の人間でもなければ、別に男たちを捕まえようとしているわけでもないというのに、なぜか取り囲まれてしまった。

 その中の1人が、黄生の顔を見てなにやら隣の男とヒソヒソと話していた。

 なんだろうと思っていると、男たちの会話が小さい声だが、確かに耳に聞こえてきた。

 「おい、あいつ確か」

 「ああ。賞金稼ぎの黄生だ。どうしてこんなところに?」

 「高額の賞金首がいれば、何処へでも姿を現すって話だぞ」

 男たちの話を聞いて、咲明はこの隣でぼけーっとしている男が、賞金稼ぎであることを知った。

 そんなに強そうには見えないが、先程の動きは素早かった。

 「なんでもいいさ。こいつらも捕虜として捕まえよう」

 「だってさ。どうする?」

 「俺に聞くな。お前のことだろ」

 「え、だってこいつら、って言ったじゃん。絶対あんたのことも入ってるって」

 「俺はただ昼寝をしてた善良な一般市民だぞ。捕虜にしたって働かねえからな。ふざけんじゃねえよ」

 「飯と寝床くれるなら別にいいかなー。日向ぼっこタイムとかあるかな」

 「あるわけねぇだろ。お前、捕虜をなんだと思ってんだよ。みんなで楽しく公園で弁当食うわけじゃねえんだぞ」

 「じゃあ嫌だな」

 男たちが2人に襲いかかる。

 咲明はすっと横に動いて、自分に襲いかかってきた男の顔面を掌で掴むと、別の男に向かって投げた。

 すると、また別の男が咲明の方に剣を持って向かってきたため、それを避けながら男の背中を蹴り飛ばした。

 「おい」

 「何?」

 「俺の後ろに隠れてんじゃねえよ」

 「え、全部倒してくれるんだと思ってた。違うの?俺、こういう面倒なことは嫌いだよ。それにさっき身体動かしたし」

 「お前これ、何人いると思ってんだよ。それに、さっきは女の子助けてたじゃねえか」

 「そうだな、ざっと50人くらい?それに、か弱い女の子と違って、あんた強いから問題無さそうだし」

 「てめぇ、後で覚えてろよ」

 「忘れたらごめんね」

 ピクピクと頬を引き攣らせながら、咲明は自分に近づいてくる男を次々に倒した。

 1人の男が、咲明に向かって銃を構えた。

 それに咲明は気付いておらず、男は咲明が背中を向けた瞬間、その引き金を引く。

 「・・・!!」

 しかし、その弾は綺麗に半分に斬れてしまい、そのまま地面に落ちた。

 「気が向いたのか?」

 「まっとうな勝負なら手は出さないけど、卑怯な勝負は好きじゃないよ」

 「その口がよく言ったもんだ」

 倒れた男の腰から抜き取った剣で、弾丸を真っ二つにした黄生は、持っている剣を地面に突き刺した。

 そして一歩一歩、男に近づいて行くと、男は怯えながらも今度は黄生に銃口を向ける。

 しかし、どういうわけか、引き金を引くことが出来ない。

 「あ・・・あ・・・」

 「・・・喧嘩っていうのは、素手でやり合うことだと思うんだ」

 黄生は、男の正面に立つと、男の額に自分の指を近づけて、ぐぐっと力を込めたその指でデコピンをした。

 そのデコピンで、男の身体は宙を舞い、脆くも崩れてしまった。

「いや、こいつらがやってるのは略奪だろ」

 「あ、そういえばそうか」

 そんなこんなで、男たちをあっという間に倒してしまった。

 その2人の戦いを見ていた村の住人は、2人を是非村に招待して、御馳走をふるまいたいと言っていたのだが、意外にも、断ったのは黄生だった。

 「なんで断るんだよ」

 村の住人も困惑した表情になっている中、黄生はこう言った。

 「この人悪人なんで、俺が連れていきまーす」

 「は?」

 そう言って、咲明の背中をぐいぐいと押して村から早々に立ち去っていったのだ。

 ある程度村から離れると、さすがの咲明も言いたい事が爆発したようで。

 「てめぇ、勝手な真似するんじゃねえぞ!」

 「え?何が?」

 「何がじゃねえだろ!!俺の昼寝邪魔したり、俺ばっかり戦わせたり、御馳走断ったり、悪人っつったりだよ!!」

 「あー、あれね。ごめんごめん。俺だって腹は減ってけど、もてなされるのは好きじゃないんだよ」

 「ならお前だけ帰れば良かっただろ」

 「まあまあ」

 「・・・お前、何者なんだ?賞金稼ぎって、なんだってそんなことしてるんだ?」

 急に冷たい風が吹いてきて、黄生は思わず身体を強張らせる。

 隣にいる男はさらしにマフラーだけという見た目寒い格好をしているから尚更寒さを感じてしまう。

 一回くしゃみをすると、鼻を啜りながらこう答えた。

 「賞金稼ぎは喰ってく為だよ。それで放浪してるだけ」

 「賞金稼ぎしてるだけであんな動きは出来ねえだろ。特別な訓練でも受けてたって感じしたぜ?」

 そう言うと、黄生は顔を下に向け、黙ってしまった。

 やはり何かあるのかと思っていた咲明だが、それから幾ら時間が過ぎても黄生が話さないばかりではなく、顔を下に向けたままだったため、肩を揺すってみる。

 「・・・まじか」

 黄生は立ったまま寝てしまったようだ。

 確かに少しフラフラはしているが、倒れないだけすごいことだ。

 「器用な奴だ」

 はあ、とため息をつくと、咲明は寝たままの黄生を引きずって、近くの宿まで向かうのだった。

 起きた時、黄生に感謝の言葉でも言われるかと思っていた咲明だが、さすがというべきか、黄生は別の言葉を述べていたとか。



 「俺に手、出した?」

 「出すか」


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