第2話

文字数 1,745文字

 傲岸な聖次の態度に辟易しながらも、父の遺した借財を清算するためには最も手っ取り
早い手段であると認めざるを得ない恵は、徹が放り出した宝探しの記録を参考に、倉満家
の古文書を丹念に読み、堀井の持つ地学の知識と衛星からの地形解析とを併せて、埋蔵金
が隠されているであろう場所の見当をつけた。そこは現代のテクノロジーがなければ、徹
が探していたとしても見当をつけることさえ困難だろうと思われる場所であった。

 徹の残した記録の継続調査と、資金・輸送手段を確保するという佐村を残し、聖次に率
いられた恵、堀井の三人がわずかな機材を背負って丸一日かけて辿りついたその場所は、
小高い丘に囲まれて小さな渓流が幾筋も走っている窪地の端であった。今は深い森に覆わ
れているそこは、堀井の分析によれば、微かに人の通った痕跡があり、金鉱脈がある可能
性さえあるという。
 果たして、恵達はその小高い丘に面した崖の下に微かに口を開けた洞窟を発見した。長
く放置された末のものか、洞窟の入り口は崩れ、ほとんどが土砂に埋まっていたが、その
崖面には人の手を加えて崩し落とされたような痕跡があった。恵と堀井は、指図する聖次
に言われるまま、崩れた土砂を取り除きにかかる。
 そして半日。こんな山奥では電波も届かないのか、聖次の電話やメールの呼び出しにも
佐村が返事をよこすこともなく、応援の人手も呼べないまま、時折、申しわけ程度に手近
にある瓦礫を取り上げては放り投げる聖次の態度に歯噛みしながら、恵と佐村は肉体労働
を続け、ようやく洞窟入口の土砂を人が入れるまでに取り除くに至った。
 不在の間の一切を任せた佐村とは連絡がつかず、土砂を取り除くのに半日を要した停滞
に苛立っていた聖次は、疲れ切って身を横たえている恵と堀井を待つこともなく、我先に
洞窟の中へと身を滑り込ませる。目の前のことに夢中になってしまう聖次の我儘ぶりに腹
を立てながら、恵は疲れた体に鞭打って後を追い、堀井は何度も躊躇する様子でノロノロ
と恵の後に続くのであった。
 確信もないくせに足取りだけは早く、洞窟の奥へと行ってしまった聖次を追おうとする
恵だが、堀井は気乗りしない様子である。洞窟の入り口を気にする堀井を急かしながら、
恵がその理由を訊くと、堀井の気がかりは掘り返したばかりの洞窟の入口が再び崩れ、閉
じ込められてしまうことを危ぶんだものばかりではなかった。堀井は、佐村が聖次の部下
で友人というばかりではなく、聖次の父、徹の庶子ではないのかという。四人の中で一番
の年長者である堀井は、亡き徹が佐村に並々ならぬ期待をかけていたことを知っており、
佐村が徹の実子だとするならすべてが納得がいくという。そして、この宝探しは、事の発
端からすべての御膳立てを組み立てたのは佐村である。もし、佐村が自身が倉満徹の血を
引く人間だ知っているとするなら、あの我儘勝手な弟、聖次の下で、相当な荒事までを含
む様々な雑務を担わされたまま、いつまでも頭を下げていられるだろうか。この宝探しで
何らかの事故で聖次が死ねば…。堀井は佐村との連絡が二日に渡って取れないことにます
ます疑念を深めていたのである。
 恵は、聖次が死んでも倉満家の債務が帳消しになる訳ではないと反論しながら、一抹の
不安は拭い切れない。暴力を行使することさえあるという噂の佐村が、聖次の我儘に長年
付き合わされて、これ以上は我慢できないと考えても不思議ではない気がする。
 そんな不安を抱えながら、聖次を追って恵と堀井が辿りついたところは、思いがけなく
広く平坦な場所であった。一部崩れている天井の高いところに穴が開き、微かな光が差し
込んでいる。そして、そこには二人の不安を覆す物があった。崩れ落ちた土砂の下に、古
い木箱が埋もれているのが見える。土砂の量からするに、木箱の数は百数十には及ぶだろ
う。恵は、間違いなくここが目的の場所であり、吉九郎が遺したという金銀がこの木箱の
中にあるに違いないと確信した。既に聖次は興奮の極に達した様子で土砂を払いのけ、木
箱の一つを運び下ろそうとしている。恵と堀井はすぐさま、木箱を開けるのに手を貸そう
と、聖次の許へ駆け寄った。
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