第3話

文字数 1,210文字

 腐りかけた木箱の蓋を引き剥がすようにして開けると、その中には古い高額貨幣と見え
る金塊が敷き詰められている。息を呑んでその金塊を手に取った聖次は、同じようにその
金塊を見つめている恵に顔を向ける。これが本物の金なのか確かめろというのだ。恵は金
塊を受け取り、手にしたライトをかざす。
 聖次と堀井の視線と、本物であって欲しいという想いが恵を急かすが、ほとんど経験の
ない彼は、金かどうかの判断を軽々に下すことはできない。しかし、実際に流通していた
貨幣であることは間違いなさそうだ。
 恵の言葉に聖次は狂喜した。倉満家が誇る巨人、三代目吉九郎が残した埋蔵金を発見し
たのだ。この金を使えば、自らの窮地を脱することも可能となろう。
 聖次と堀井は木箱を覆っている土砂を取り除きにかかる。立ち上がる土煙と汗にまみれ
ながら、木箱を掘り出していく聖次と堀井を見ながら、恵は金塊を崩れた天井から微かに
射している陽の光の下へ持って行く。これがいつの時代の物なのかがはっきりすれば、そ
の価値も自ずとわかるはずだ。

 木箱を掘り出して、ふと眼を崩れ落ちた岩塊へ向けた堀井は、その表面に残る黒い痕跡
を発見した。黒く焼け焦げたようなその痕は、強力な爆発物を近くで炸裂させた痕だ。
堀井は訝しみながら周囲に転がる岩塊、洞窟の壁面へと視線を走らせ、そして気づいた。
その痕跡は彼の良く知る、発破の跡だ。
 その意味するところを考えていた堀井の目が、金塊を手にして茫然と突っ立ている恵を
捉えた。恵が力なく放り出した金塊が地面に転がる瓦礫に当たって音を響かせる。
 その音に顔を上げた聖次が、恵に目を向けた時、洞窟の入り口の方から小走りにやって
きたのは佐村であった。佐村は、緊張する恵と堀井を警戒の目で見ながら、懐から取り出
した古い手帳を開いて聖次に示す。聖次の顔に驚愕の色が走り、続いて険しく表情を変え
て歯噛みする。
 恵はすべてを悟った。埋もれていた金塊は贋金だった。三代目吉九郎が成したという財
の源は贋金作りで得たものだったのだ。そしてその吉九郎が隠しておいた贋金を、八代後
の子孫である聖次の父、徹が発見した。先祖の偉功を誇る徹は、倉満家の汚点となる贋金
作りの過去を消し去ろうと、証拠の残るこの洞窟を爆破し、先祖の歴史を調べることから
も一切、足を洗ったのだ。しかし、そのことを知らない聖次が再び…。
 鋭い視線を向けている聖次と佐村に、報酬は期待できそうもないと諦めながら、恵が同
じ立場に立たされた堀井の許へ歩み寄ろうとした時、聖次達の向けているライトに照らさ
れた何かが視界に入った。大きく崩れた壁面近くの瓦礫の下に埋まっているそれは、朽ち
果てた作業靴を履いたまま白骨化した人間の足先だ。
 恵は自分の極近い将来を悟った気がした。
                                     終
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