第1話

文字数 788文字

曇りなきまなこで世界を

眼鏡を変えた
何年ぶりのことだろう
かなり長い間 同じ眼鏡をかけていた
レンズを見るとアイススケートの
リンクのように傷だらけで全体的にも
霧がかかったように白く濁っていた

新しく出来上がった眼鏡を
店の中で初めてかけたとき
あまり 前の眼鏡と変わらないと思った
しかし 二三日新しい眼鏡をかけて
試しに古い眼鏡をかけてみると
驚くべきことが眼前に広がっていた
すべてが斑に白く濁っていて まるで
世界が靄と霧に包まれているようだった
自分はこんなに濁った視界で何年もの間
あらゆるものを見ていたことになる
ちょっと信じられないぐらいの驚きだった
風景も人もこんな濁ったベールを通して
見ていたことにもう取り戻せない
大切なものを失ったような後悔が滲んだ
あの人ともこの人とも私に関わった
あらゆるひとたちとこんな濁った膜を通して
関わっていたことにショックを受けた
これからは 文字通り曇りなきまなこで
この世界を眺めることが出来るのだろうか

哲学者カントは人間はどうしても外すことが
出来ない眼鏡をかけているようなもので
我々は真実の世界を見ることはできないとした
濁り切った眼鏡を外した私は新しい澄んだ眼鏡で
少しは世界の実相を垣間見ることができるだろうか
昼空に輝く星の姿まで見るつもりはないが


ファンレターさまの紹介

 澄んだ瞳で
 
子どもの頃は世の中を、曇りなき澄んだ瞳で見ていたような気がします。それがいつの間にか靄がかかったような薄汚れたレンズで人を見、物事を見るようになってしまいました。一旦、この人はこうなのだ、この物事はろくなものではないと決めつけてしまうと、外すことが出来ない色眼鏡となって自分の身体の一部になってしまう気がします。私も昼間の星までも見たいとは思いませんが、見えない方が良いものは見えないままに、しかし程ほどに見える曇りなき眼で、人と物事の本質を見抜けるようになりたいと思います。



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