すずのね

文字数 425文字

 人々の願い事は世相を反映するのもだ。
 いまだったら、この世を騒がせている憎きアイツを退治してくれといったところか。

 まことしやかにささやかれていたアマビエなる妖怪の名は私も耳にしたことがある。
 実在するのか、しないのか。
 まさか科学が発展したこの時代に、ふたたびそのような名を聞くことになるとは、わからないものだ。
 信じるとか、信じないとか、そういうことではないのだろう。

 そんなことより。
 こんな世の中である。
 私も何百年とここにいるが、私がまさか倉庫にしまわれることになるとは思いもしなかった。
 なんでも、密になるとか、やたらと物に触れてはいけないとか。
 いやはや、仕方のないこと。

 私を握りしめる者の心を見透かそうとするのは私の悪いクセだ。
 両の手で念を込めて振り回す者もあれば、遠慮がちに扱う者もある。
 私は神社に吊り下げられた麻縄、鈴緒。
 私が元の場所に戻されるころには、きっと人々の願いは明るい未来へ向けた夢へと変わっていることだろう。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み