第3話

文字数 733文字

 卒業式。

 厳かな式は終わり、在校生たちも退館し終えて、並べられていた椅子なども片付けられ、静まり返った体育館。
 壇上に飾られた『第50回昭成小学校卒業式典』の板とその周りに散りばめられた、色とりどりの和紙で作られた飾りの花だけがその余韻を残していた。それらの幾つかは剥がれ落ち、6年間過ごした学び舎を後にする卒業生たちの未練を表すように体育館に散っていた。



「俺1ばーん」「俺、この場所取ったぁ」「ちょっと男子、ちゃんと並んで!」
「やっと卒業式、終わったね」「怠かった~」
「俺、これが楽しみだったんだ」「緊張するなー」
「中学校でも同じクラスになると良いね」「部活とかやる?」

 体育館が鳴りを潜めていたのはほんの僅か、子供たちの声が近づいてきたかと思えば、先程までのセンチメンタルと再び下がり出した室温を吹き飛ばすほどの楽しげな声と共に卒業生たちが体育館になだれ込んだ。渡り廊下から体育館の中まで走る足音が響き渡れば、床に散っていた花たちは踏みつぶされ、破れ、花とも紙でもなくなった。

 最後の方に現れた1人の女の子がそれを拾い集めながら奥へと進んで行く。卒業式で進学する中学校の制服を着るところもあるそうだが、ここ昭成小学校の卒業式典での服装は自由だ。
 女子たちはこぞっておめかしをしている中で、その彼女だけは普段使いな感じで、且つ体に合わずサイズが小さく窮屈そうな印象的だった。


「おーい、これ運ぶの手伝ってくれ~」
 体育館の入口で教師が中に声を掛ける。すると「楽しみだった」と言っていた男子、秋海が親分肌に四季や城戸らを引き連れて、大きな看板を運び入れる。
 そこには『とめけん Most people catching a Kendama ball』と記されている。
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