第1話 Contagion

文字数 15,383文字

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"インターネットは知識の大海を我々の足元に広げた。"
ティム・バーナーズ=リー

"猫は人間に対する意見を持っている。ほとんど何も言わないが、全部を聞かない方がいいのは確かである。"
ジェローム・K・ジェローム
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 人類はその歴史の中で、知恵を働かせ、さまざまな障壁に対処してきた。20世紀後半からの科学の進歩は、目を見張るものである。特に医学や遺伝子科学においては、我々が長きにわたって解決できなかった難病の治療法や病原菌への戦い方が確立されてきた。例えば、遺伝子編集技術CRISPR-Cas9の登場により、遺伝子疾患の根本治療が可能となり、癌やHIVといった病気に対する治療法が飛躍的に進歩した。また、幹細胞研究により、失われた組織や臓器の再生が現実のものとなりつつある。世界中の何百という政府機関や企業が、これらの先端技術に莫大な資金を投資し、その研究開発を推進している。
 これと同時に、情報工学やネットワーク科学の猛烈な進歩も見逃せない。今や手のひらサイズの電子機器一つで世界中の情報に瞬時にアクセスできる時代だ。クラウドコンピューティングやビッグデータ解析により、膨大なデータを効率的に処理、価値ある情報の抽出が可能となった。特にSNSは社会において絶大な影響力を持つようになり、スキャンダルやニュースは瞬く間に世界中に伝わる。まさにウイルスのように。
 現在、多くの人間がこれらの技術進歩に信頼を寄せている。しかし、一度その技術の制御が追いつかなくなる問題が起きれば、社会に大きな混乱と混沌がもたらされるだろう。技術がもたらす恩恵を享受する一方、そのリスクと向き合い、共に生きる上での覚悟が求められているのだ。

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2028年7月1日 土曜日
ワシントンD.C. コロンビアハイツ
フェアモントストリートNW
08:20 AM

 DCの住宅地の一角。一軒家の玄関前では、父親が新聞を取りに出てきている。近くのバス停からは子供たちの笑い声が聞こえ、通りを歩く人々は仕事や課外活動に向かう準備をしている。近くのコーヒーショップでは、朝食をとる人たちが集まり、街は少しずつ活気づいてくる。

 平和な街の風景だ。この平和というものを得るために人類は長い歴史の変遷を辿ってきたのだ。犯罪者が現れれば高度な防犯システムが作動し、怪我をすれば高度な医療技術が救ってくれる。何百年も積み重なった知識と反省の賜物だ。だが全ての脅威を取り除けているわけではない。必ずどこかで死人が出て、病気が生じる。犯罪にテロや戦争、伝染病の恐怖。現在の環境に安心し警戒をなくした時、隠れた脅威が世界を襲い始めるのだ。

 程よい静けさを持ったこの住宅地に、一人の配達員がピーターという男の元へ配達をしにやってきた。
「ピーター・スミスさんですか?お届け物です」
「何も頼んでないが」
「でもあなた宛だ」
「わかったよ、どこにサインすればいい?」
「ここです」
 サインを確認すると配達員はさっさと去っていった。
 
 玄関の戸を閉め箱を確認する。大きめの箱だ。中身からは少し不気味な重みを感じられた。
「何も頼んでないんだがな、、、新しい撮影機材かな、、、、、おいっ!なんだこれは、!!クソっ!猫だ!おい家の中に入るな!」
 中から出てきたのは1匹の猫であった。扉の隙間から家の中へ入る。ピーターもそれを追う
「クソっ、どこに行った?」
 ダイニングを探す。
「ほおお、見ろよしっぽが隠れてないぞ、ほれっ!」
 布を捲った次の瞬間、うにゃーああ!!!!猫が鋭く叫ぶ。
「なんだこいつ」
 猫が爪を立てて飛びかかった。
「クソ引っ掻きやがった!こいつめ!」

 猫の俊敏さは我々の運動能力を凌駕している。柔軟な筋肉と収縮効率の高さからくるその動物の瞬発力は、筋肉繊維の合成構造と神経伝達物質の絶妙なバランスによるものだ。そして狙った獲物は逃さない。

「お前のその小さい体で僕を倒そうってのか?だがな残念だった、君は角に追いやられたんだよ」
部屋の隅に追いやると、猫は硬直し鋭い目つきで唸った。ピーターはそっと近づき視線が互いにあった瞬間にタオルを被せやっとのことで猫を捕まえた。
 大きさが違ったのだ、その男に勝る聴覚と視覚、俊敏さを持ち合わせてもなお勝てなかった要因は、単純に大きさの問題だった。

 そして囚われてしまえば赤ん坊と同じだ。
「ほら捕まえたぞ、お前は駆除業者が来るまでこのカゴの中だ」
 先ほど引っ掻かれた傷は少し痛みを感じる程度で、本人にとって気にするほどのものではなくなっていた。

(45分後)

 トントンとドアを玄関の戸をノックする音。ピーターはドアを開けて
「やっときたか、さあこれです。って駆除業者がスーツ?あんたほんとに業者か」
 害獣装備を身に纏った業者ではなく立っていたのはスーツ姿の男だった。
「業者ではありません。FBIです。特別捜査官ののアダム・クリアウォーターです」
「FBI?なんで?たかが猫だぞ」
 捜査官の方もなんでこんなことをやらされているのかわからないといった感じで
「実は同じような事件が何件も起きてましてね、34件だ、ここ2週間で、それで君ので35件目。何か心当たりは?」
「いやないね」
「猫といえばYouTubeの動画くらいだ」
「動画?」
「これです、ちょうどさっきも暇つぶしに見てたんだ」
スマホを取り出してYouTubeサイトのページを見せる。
「これだ、猫ミームってやつですよ、猫の面白い映像を切り取って、それがネット上でバズってるんだ。ほらみてよ、この動画は僕が作ったんだ」
「くだらない、」
 猫が陽気な音楽と共に踊っている映像が流れていた。ただのネットミームだ。

 ミームとは何かと言われても、その説明は簡単ではない。そもそも人によって定義が曖昧だし、理解するのが難しい哲学的な概念だ。生物学者リチャード・ドーキンスは著作『利己的遺伝子』の中で、ミームを自己複製する脳構造、つまりは脳から脳へ再構築される神経回路の具体化された形としている。まるでさっぱりだ。だがミームは明らかに文化や社会に浸透している重要な概念なのだ。インターネット上で広がるバイラルビデオや、特定のフレーズが短期間で流行する現象は、すべてミームと言われるものだ。これらは人々の行動や考え方に影響を与え、社会的な運動や変革の引き金となることもある。
 ミームは、我々がどのように情報を共有し、意思疎通を図り、文化形成をしていくかを明らかにし、現代の文化と社会を理解する鍵となりうるかもしれない。

「とにかくこの猫はこちらで預かります。何かあれば僕に連絡を」
 捜査官が名刺を渡す。一応家の中も確認しておこうかと思ったがやめたらしい。人が死んだわけじゃない、ただの猫が家に入ってきただけなのだ。FBI捜査官にとってはあまりにもくだらなすぎる。同様の事件が何件も起きているとは言え、特に何の被害も確認されてない現時点では、この件に対してのやりがいは感じられなかったのだろう。

「そもそもうちのじゃないから早く持ってってくれ。どうもその猫は不気味だよ」
「では、、、ん?スミスさん、その腕の傷跡は?」
「引っ掻かれたんですよ、こいつに」
「一応今から指定する医療施設で検査してください」
「今は大丈夫ですよ」

 捜査官は念を押して言う。
「それでもです。猫ひっかき病って知ってます?破傷風のリスクだってあるんです。いいからそこに行って受診してください」

 ピーターはジョージタウン大学病院で診察を受けるための書類のようなものを渡されて渋々病院へ行く支度を始めた。

 野良猫から人へ病原菌が感染する例はいくつもある。バルトネラ菌は有名だ。猫全体の約20%が保有している。この菌を持った猫に引っ掻かれたりすると感染して、頭痛やリンパの腫れ、悪いとひどい発熱を起こす。今すぐ死ぬというほどではないが注意すべきものだ。その他にも動物は人間にとって危険な菌を持っていることが多い。状況が安定しているうちに警戒し、リスクを排除することが重要なのだ。

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ワシントンD.C. ウェストエンド
MストリートNW
NSA(国家安全保障省)コロンビア特区支部
10:00 AM

 政府機関が集まるDCのビルにNSA支部オフィスがある。NSAというのは国家安全保障省の略で、そこで国の安全に関わるあらゆる職務が執行されている。
 冷たい光が窓ガラスを透過し、静けさの中に部屋を満たしている。ある部屋ではエージェントたちがコンピュータ画面を覗き込み、タイピングの音が小さく響く。またある部屋では忙しく書類をめくる音が静寂を切り裂いていく。窓の外には、ワシントンDCの摩天楼が見え、一日の始まりを告げていた。

 このオフィスの一部署でアレックス・スティールという男が仕事を始めていた。彼らの職務は国家の安全をサイバーテロから守るために働くことだ。彼はそのチームのリーダーである。チームといっても3人で、実はそこまで重要な部署じゃない、いろいろ面倒な雑務を任されるようなところだ。

「よお アレク、調子はどうだ」
 同僚のジョンが挨拶とともに入ってきた。
「おはようジョン、いつもと変わらんよ、紙束をチェックするだけさ」
 いつもと変わらない挨拶を返すだけだ。

 いつもと変わらないと言うのは文字通りだが、良い意味ではないだろう。彼らの雑務の多くはDC支部サーバーのアクセス履歴におかしな点がないか、収集されるデータの保管先が間違ってないかをとにかく調べていくことだ。そしてそもそも検閲された履歴内容を見ていくだけなのだからこれといって面白そうな異常が発見されることは滅多にない。サイバーテロ犯の身元を特定したり、疑いのあるデータを鑑定したりするのは別の部署がやっている。あいにくそういうカッコいい仕事は与えられなかったのだ。

 アレックス・スティールは35歳で正式な役職はNSAのサイバーセキュリティ担当官だ。ジョージワシントン大学卒で、学生時代の選考は国際政治学とコンピュータサイエンを広く学んだ。いわゆる浅く広くというやつだ。卒業後NSAに入局、どうやらDC支部の中では一応優秀だと言う評価は得られてるらしい。過去に政府の重要機関や軍のネットインフラ整備にも関わったことがある人材だ。

 そして同僚のジョン・マイヤーズ、NSAでデータ解析を専門にしているが、アレックスと同様なかなかその力量を見せる機会に恵まれない。アレックスとは大学以来の同僚だ。学生時代はコンピュータ科学をより深く学んだ。子供の頃から電子機器に興味を持ち同年代ではいち早くネットの世界に入り込んだ奴だ。黒縁の眼鏡をかけて中肉中背で、いかにもオタクという感じの男である。

「今日の調子だって?あんたらの部下になってからほぼ毎日何百枚って紙と画面のチェックだ。おかげで退屈しない楽しい日々を送れてるよ。」
 もう一人の同僚マイケル・グレイソンの皮肉だ。

 彼は元警官でインテリの2人とは違う。いわば戦闘担当みたいなところだ。とは言えこの職場で銃を撃つことなんてないし、強盗と殴り合うことなんてない。彼は18歳の時DCの市警に就職、銃の扱いに長けていたが、あるネット犯罪解決での功績があってNSAに推薦されたのだ。アレックスとは2年同じ部署で働いている。

 マイケルが続ける。
「それより聞いたか、ここ最近送り主不明で猫があちこちに届けられてるらしい」
「DCで?」
「そうだ」
「いいなそれ、ちょうどうちの娘が猫欲しがってたな」

 アレックスには9歳の娘がいるが仕事の性質上家族との時間があまり持てていない。だから娘との関係は良好ではない。家族との絆を深めるために努力はしてきた。ただ、仕事の要請に応じなければならない現実が、なかなかそれを許してくれないのだ。しかもその仕事というのはただ紙束を調べていくだけのことというのだから、娘からも半分見放されてしまっている。

「娘さんに猫をプレゼントしたらきっと喜ぶな」
「いやきっとあの子は1ヶ月で飽きて世話しなくなる。」
「でも父親がいない間の遊び相手になるぞ」
「おい、今のは言い過ぎだぞ」

 こんなふうに毎日の会話が繰り返される。単調な作業に加えて悪い方向に行きそうな家庭、ここらでそれらを吹き飛ばす何かが起きても良いと考えていた。たとえば政府の崩壊だとか、大進化を遂げたスペイン風の復活とか。そういう妄想を頭の隅に置きつつ仕事が淡々と続いていた。

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ワシントンD.C. ジョージタウン
レザボアロード3800NW
ジョージタウン大学病院
11:00 AM

 診察室へ医師が入ってきた。少し面倒くさそうな表情を浮かべていた。
「ピーター・スミスさんですね、状況は把握しました、猫に噛まれたそうですね。それで現在何か体に違和感を覚えたりしますか?」
「なんともないよ、この通りピンピンしてる」
「分かりました、ちなみにその猫は今どちらに?」
「知りませんよ、FBIの捜査官が持ってったんです」
「ははっ、FBIもよほど暇なんだ。あなたにはこれから傷口の確認と、それからワクチンは打ってもらいます、あと必要な検査も。特に問題なければ家に帰ってください」

 このように事務的な診療作業が淡々と行われていた。そもそも猫に引っ掻かれたくらいでは、事態の緊急性も低い上に、他に多くの患者が訪れるのだ。医師も余るほどいるわけではない。問題がないなら早く済ませたいのだ。
 ピーターが捜査官からもらった書類には破傷風、狂犬病などの病原菌に関する検査をやってくれという指示があったので、とても面倒だが検査するに越したことはない。ピーター自身は自分は健康で安全だと考えていたようだが。

 感染症に関しては、自分は安全だなどという愚かな認識は持たないほうが良い。細菌やウイルスは体の中に入り込むと免疫系を攻撃し、身体のあらゆる機能をダウンさせる。しかしそうする前にまず潜伏するのだ。潜伏してるうちは自覚症状などはない。だが奴らはは着実に攻撃の準備を進める。どこからともなくやってくる見えない敵が自分の家の庭に侵入し、来るべき時になってついに攻撃を仕掛けるのだ。水面下で行動する特殊部隊のように。
 自分のわからないところで脅威が侵攻してくるのである。どんな事態にも自分は安全だなどという妄想は捨てなければならない。

 しばらくして検査結果が出され、特に異常や問題がないことを看護師が知らせた。ピーター本人も、改めて身の安全が確認されたように感じホッとした。現代医療が問題ないと言ったのだから問題ないはずだ。ピーターは家路についた。

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ワシントンD.C. ダウンタウン
15番ストリート 
FBI(連邦捜査局)特設捜査支部
02:30 PM

 FBIのDC支部では、家に突然猫が送られてくる謎の事件の話題が面白おかしく職員を盛り上げていた。しかし担当のアダムは陰鬱な顔色を浮かべていた。彼は少し前に重大な殺人事件を担当していたのだが、不手際があって事件捜査から外されてしまったのだ。その後彼の最も嫌う同僚が解決したのだからたまったものじゃない。その上国家の安全にはどうでもいいような猫の事件を担当させられることになったのだから良い気分はしない。おまけにここはFBIのDC支部だ、FBIの本部もDCにある。本部の所在地ペンシルベニアアベニュー935は歩いて行ける距離なのだ。本部にすらいないことにも嫌気がさしてくる。

 アダムのもとへ部下がやってきた。例の猫についてだ。
「今朝のを含め預かった35匹のデータを再調査しました。性別、種類の一貫性はありません。オスは19匹、メスは16匹、雑種にブリティッシュショートヘア、スコティッシュフォールドなんかも、いろいろいましたよ。強いていえば ターキッシュアンゴラが13匹と多かったですね。それからどの猫もこれといって危険な病気をもっていませんでした。スミスさんも病院でいくつか疫病検査をしましたが陰性でしたよ。」

 アダムが苛立ちながら返す
「それで、平和でよかったですねと言いたいのか、僕が今やっているのはクソ野郎のイタズラに真剣に向き合ってるってことだ、時間の無駄なんだよ」
「どうしてイタズラってわかるんです?」
「じゃああの猫たちは凶悪犯罪者のの陰謀とでも言いたいのか?どっかのバカのイタズラに決まってる。そんなものその辺の警官か兵卒に任せれば良いだろう、僕はFBIの捜査官なんだぞ」
「あのですね、今の時代検疫というものにすごく気を遣ってるんです。あの猫が伝染病を持ってたら?あなたは危機を未然に防いだ英雄になりますよ」
「でも結局猫に問題はないんだろ?それでこれといって明確な被害もでてない、全くふざけた話だ」
「でもあなたのその態度が、あなたを殺人事件担当から外させたんですよ」

 そう、アダム自身の不手際で外されたのだ。彼は自分に自信を持ちすぎていた。捜査官になって以来多くの事件を解決したという事実は確かにあるが、それゆえに自分の判断を信じ込んでしまっていたのだろう。ある猟奇殺人事件を追っていた時、勝手な憶測で容疑者を決め捕まえたのだ。その容疑者は実は犯人ではなかった。そうこうしているうちに真犯人がまた一人殺してしまったのだ。

 自分の過ちが今の自分を作っていることを自覚はしていた。だが、自身の能力への疑念を持つことは少なかった。愚か者である。が、愚かさゆえに助け合いながら成功を掴むのが社会組織だ。お互いに自分の愚かさを補うのだ。しかしながら、その短所を補う術すらも彼は知らないのである。いや知ろうとしないのか。彼はいわゆる一匹狼タイプなのだ。愚かであることに加えて頑固というおまけ付きだ。

 各々作業を続ける中、デスクに電話がかかってきて、職員の一人が対応する。
 要件を聞いた後アダムの方へやってきて伝えた。
「ジョージタウン地区のアパートに住む男性のところに、例の如く猫が届けられたそうです。」
「くそっ、キリがないな。仕方ない、行ってくる」

 彼の数少ない長所である。与えられた仕事はこなそうとするのだ。

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バージニア州 ラウドン群 D.C.の西約40km
ワシントン・ダレス国際空港
03:20 PM

 DC郊外のダレス国際空港に1機の貨物飛行機が着陸しようとしていた。
「こちら管制塔、ランウェイ4への着陸許可、クリア。風は静穏、視界は良好です。」
「了解、ランウェイ4への着陸許可を得た。ありがとう、タワー。」
「どういたしまして。ランウェイを離脱したら報告してください。」

 貨物機は無事に滑走路へ着陸、
「タワー、ランウェイ4を離脱する。」
「了解、ランウェイを離脱したことを確認しました。グラウンドに移動する場合は周波数121.7で連絡してください。良い一日を。」
「121.7、了解です。ありがとう、タワー。そちらも良い一日を。」

 貨物機は滑走路から貨物積み下ろし場に向かい、慎重に進路を調整しながら移動した。エンジンの音が静まり、スタッフが機体を確認し、貨物の積み下ろしの準備を始める。
貨物機の厳重にロックされた重い扉が開いた。中には動物用のケージがいくつもあった。そこにさまざまな色と柄の猫たち並んでいる。彼らは緊張している様子で、時折耳を立てて外の音に反応した。
 空港の職員たちは慎重にケージを運び、専用の検疫エリアに運んだ。
検疫エリアでは、獣医師や動物看護師が待機しており、猫たちの健康状態を確認する準備ができている。

 人間や検査キットに囲まれ、新たな環境に適応しようとしている猫たちの姿はまるで緊急事態に備える兵士のようでもあった。

 全ての検査を終えると彼らはペット搬送業者に引き渡されることになっていた。そして時間通りに業者が順番にやってきた。
「今日空輸された猫を預かりにきました」
「許可証と身分証を拝見します」
「これでいいですか」
 必要な書類となどを検疫官に渡す。

 10分くらいして確認を終えた検疫官が戻ってきた。
「確認できました、良い1日を」
 近年は疾病対策、生物災害というものに関して社会の警戒心はかなり高い。

 ケージに入れられた猫は業者のバンに運ばれた。それを確認した検疫官も自分たちの仕事へ戻った。

 業者はバンの運転席に戻りエンジンをかける。その時、助手席に座っていた見知らぬ男が突然話しかけてきた。
「この猫たちをくれないかな、」
 札束を渡してきた。
「誰だ君は!悪いが仕事なんでね、金もいらんよ」
「わかっているよ、では君の命と交換するのはどうかな」
 唐突に銃を向けてきた。スキンヘッドでサングラスをかけたスーツ姿の男だ。
「お、おいおい、待てって、たかが猫だろ、、わかったよ」
「今からいう場所に向かえ、いいな」

 バンは空港からDCの方へ走り去っていった。

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ワシントンD.C. コロンビアハイツ
フェアモントストリートNW
05:40 PM

 ピーターは午後1時ごろ病院から帰宅し、帰ってからはずっと寝ていたのだが、ここ1時間で体調の悪化が見られた。尤も病院の検査では問題なしと判断されたのだが。

 そばにいた彼のガールフレンドが声をかける
「ちょっとピーター、大丈夫?ねえ?」
 ピーターの顔に手を当てる
「ちょっと、、これ、、」
 ピーターの口から血が出ていたのだ。
 力を絞るように声を出した。
「うう、、、手が痺れて 体が動かない、、」
 事の重大さを悟った彼女はスマホで911コールをした。
「今救急車を呼ぶわ」

 当事者であれば、まず今朝猫に引っ掻かれたことを思い出すだろう。感染症の疑いを感じるのだ。そうなれば早く手を打つに越したことはない。

 動物から感染する有名な伝染ウイルスといえばエボラウイルスがある。致死率が90%にも及び、頭痛、嘔吐、下痢、内出血を起こして死に至るのだ。地獄の有様である。さらに恐ろしいのは、このウイルスに対するワクチンが効かないタイプが出てきたことだ。

 人間の体に入り込み、遺伝子変異によりその姿を変えて、蠢き、体を蝕み続けるのだ。

 まるで意思を持った悪魔のように人を殺していく。だがウイルスというものには自己複製能力がない。だから生き物でもないのだ。そして増えるには宿主細胞を利用する必要がある。その格好のターゲットが人間なのだ。殺すことを目的に生み出され、殺しに成功すれば増殖できる。これは究極の殺戮マシーンとも言える。

 ピーターの元へ救急隊員がやってきた頃にはさらに症状は悪化していた。痙攣も激しく、顔面は全くの蒼白で、意思疎通もできない。急いで運び出した。

 彼のデスクのパソコンにはあの猫の映像が映し出されていた。

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ワシントンD.C. ウェストエンド
MストリートNW
NSAコロンビア特区支部
06:00 PM

 アレックスが少し嬉しそうに帰宅の準備をしていた。珍しく早く帰宅できるのだ。今朝、関係性が悪化しそうな娘の話が出たところだ。一緒に食事でもして話し合おうと思っていた。そしてその旨をスマホでメッセージにして伝えたところだ。

 が、そういうちょっとした幸せを思い描いている時に限って、それを打ち砕く事件やらが起こるものだ。

 職員が慌てて走ってくる。
「おい、アレックス、来てくれ、それから部下の2人も」
 アレックス、ジョン、マイケルは他の部署の部屋に連れられた。サイバーテロを未然に防ぐことを専門にした部署だ。そこには支部長がいて他の職員も集められていた。

 指定された者が集まったことを確認すると支部長がパソコンに表示された一つのファイルを指差して怒鳴り気味に言う。
「単刀直入にいう、これは一体どういうことかね」
 どうやら、いつどこから入ってきたかもわからないファイルが、NSAの上級職員のコンピュータに突然現れたらしい。これは一大事だ。

 NSAの保安システム上どんなデータでも厳格な検査を通る。そしてどこからどんなものが送られてきたか、差出人は誰か、全ての情報が中枢のデータベースに記録される。仮にデータベースからその履歴消してたとしても、データやファイルの移動があるたびに紙に記録されて印刷されるのだ。アレックスの部署でもチェックしてる。だから記録は抹消されようもないし、誰かの目に留まるはずだ。いつ入ったかもわからないなんてことはありえないのだ。

 だが今回その厳格な防御体制を潜り抜けて一つのファイルが入り込んできたのだ。NSAというのは、コンピュータとかサイバーテロとか、そういうものに最も精通してる人間が集められた組織だ。最強の防御システムに守られた高級住宅にネズミが入り込んできたわけだ。

 アレックスが支部長に聞く
「ここの情報が漏れてるのか」
「いやそれはまだ確認できてない、ただ今はこのパソコンと他のすべての機器とのつながりは絶ってある、ファイルの中身を確認しなきゃならん。君にも手伝って欲しい」
「わかりました、じゃあまずIDSをセッティングして、いかなる経由からもファイルがどこにも侵入しないようにしましょう。それからサンドボックスで隔離する。仮にマルウェアが含まれててもこちらのシステムは守れる。安全な防御システムを構築したら、開ける。いいですね」
 ジョンとそれから数名の優秀な職員と共に遂行する。

 マイケルが冗談を言ってからかう。
「開けたら核弾頭が作動するかも」
「おい、縁起でもないぞ」

 緊迫した時間が流れる。

 数分して、
「じゃ、いよいよこのファイルを開けるぞ」
 マウスをクリックした、

 中に入っていたのは陽気な音楽と共に踊る猫の映像だった。まるでこちらを馬鹿にしているようであった。
 ジョンが唖然として。
「これはネット上の有名なミームだ」
 マイケルが返す。
「ミーム?なんだそりゃ、とにかく一体なんだこれは、どうしてこんなものをファイルに入れて送りつける、不気味だろ」

 アレックスが真剣な顔つきで
「今ファイルを開いた影響で他の電子機器、政府機関のサーバーで不具合が発生してないか調べよう」
 何分かして職員からは安全が確認されたことを示す回答が返された。
「このオフィスは問題ない」
「他にも影響は出てないようです」

「引き続き数時間は監視する必要があるな」
 この時アレックスにとって目下最大の問題は、政府機関のパソコンに何者かが侵入したことではない。時間通りに家に帰って娘と夕飯を共にするのができなくなったことだ。彼の心はそわそわと落ち着かなくなっていた。夕飯の約束をしていた娘の顔が浮かび、心が痛む。そして、結局、職場に留まらざるを得なかった。

 娘に伝えなければならない現実を告げるメッセージを書くのは辛いだろう。短く送ったメッセージには、彼の罪悪感と無力感が表れていた。

 アレックスが支部長の元へいって期待せずに聞く
「ところで支部長、僕たちはこれで家に帰れるのですか?」
「まさか。原因の追求、局長への報告もある、少なくとも明日の朝までは無理だな。我々の世界一 硬い防御システムの網をかい潜って謎のファイルを入れられたんだ。わかるだろ?気の毒だがな。何も君だけじゃない、ここにいる全員だよ」

 アレックスはため息をつきながら2人のメンバーに伝える。
「とのことだ。早速取り掛かろう。」

 映像データと音声データを綿密に調べる。あの猫の映像とその背景から流れてくる陽気な音楽が再生された。コンマ1秒に映し出されるすべてのカットを調査し異常の発見に努める。
 相手をコケにするような画像や動画を入れたファイルを誰かのパソコンに送りつけるイタズラというのはよくある。しかしイタズラで国土安全保障省をクラッキングするのは度が過ぎている。何か悪いことが起きそうな予感がしていた。

 そこへ突然、
「おい何してる、そっちにいくな!!」
 警備員が猫を追いかけて入ってきた。
「何だってここに猫がいるんだ?さっさと追い払ってくれ」
 悪戦苦闘し、警備員が警棒で叩こうとした時、猫も反撃してきた。強く警棒を叩くように。逆に警備員は戦いて警棒を落としてしまった。その生き物の動きは信じられないほど素早く、筋肉が張り詰めた体が瞬間的に部屋を動き回る。

 アレックスが見て驚いた。
「おいその警棒金属でできてるよな?どうして猫の爪痕がそうハッキリ残って、ヘコんでるんだ」
 目の前の猫は以前の可愛らしさを失い、完全に凶暴化していた。瞳孔は大きく開き、鋭い目つきで周囲を見回している。毛は逆立ち、低い唸り声を上げながら、身を低くして今にも飛びかかってきそうな体勢だ。爪は鋭く、光に反射して危険な輝きを放ち、唾液を飛ばしながら牙をむき出しにしている。まるで猛獣のような迫力に、言葉を失った。

 他の職員も驚きを隠せずにいた。
「おいこの猫なんかおかしいぞ」
 にゃぎゃああ!!という金切り声をあげて猫が迫る。
「くそっ、威嚇攻撃か、まるで悪魔に取り憑かれてるみたいだ」
 猫は怒りの唸り声を上げ続けている。突然、猫が一気に飛びかかってきた。アレックスはなんとか避け、その動きに気を取られていた猫は一瞬バランスを崩した。その瞬間、そばにいたマイケルが床に落ちていた警棒を即座に拾い上げた。

「アレックス、気をつけろ!」
 ジョンは叫び、マイケルが猫の背後に回り込んだ。猫が再び飛びかかろうとした瞬間、マイケルは警棒を振り下ろし、猫の背中に当てた。
「こいつをくらえ!」
 猫は一瞬怯み、その間にアレックスが素早くそばにあった箱で構えて受け止め、箱を閉じた。猫は激しく抵抗し、中で暴れ回るが、警棒の一撃で少し弱っている。ジョンが箱の口をガムテープで閉じ、なんとか猫を封じ込める。猫はまだ暴れている。

 アレックスは額の汗を拭いながら、荒い息をしていた。
「一体、なんなんだ、これは、」
「その猫、早くどっかもっていってくれ、」
 警備員はダンボールに入った猫を部屋から持ち出した。

 大人しかった動物が突如凶暴になり、人に襲いかかるというのは稀な話であるが、実際ないわけではない。たとえばウイルスにより中枢神経系を侵された動物は攻撃的になるし、特定の環境下での過度のストレスは強い攻撃衝動を生む。また領域意識、いわゆるナワバリ意識というものは、自分の領域や子どもに危害を加えうる存在を強烈に排除しようとするもので、動物をより凶暴にする。

 可愛らしい存在として人気のある猫という動物に突如襲われたら、ある種のトラウマを植え付けられるだろう。

 誰が仕組んだのかもわからないクラッキングに加えて、そのおかげで娘に会えなくなったこと、さらに凶暴な猫に襲われたことはアレックスに心身の負担を強く与えた。が、仕事は進めなければならない。オフィスでは実体のわからない何かに対応するための業務がこなされていくのだった。

 アレックスが娘に送ったメッセージに対する返答はまだ来ていなかった。

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ワシントンD.C. ジョージタウン
レザボアロード3800NW
ジョージタウン大学病院 
06:20 PM

「おい急患だ!」
 救急隊員がどなり叫ぶ。スタッフが駆け寄る。
「名前はピーター・スミス。男性、歳は27。意識がほとんどない。ずっと痙攣してる!吐血も!!」  

 ピーターは蒼ざめ、がたがたふるえており、こちらを睨むような目つきで「う゛ーう゛ー」と唸っている。

 対応は救急隊員から病院スタッフの看護師に引き継がれた。
「鎮静剤を投与して、集中治療室に運ぶわよ!早く医者を連れてきて!!早く!」

 変わり果てたピーターの震えは激しさを増し、今にも拘束具を破壊しそうな勢いだ。スタッフは慌ててCTスキャンやMRI検査の準備を進め、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)やサイトカインストームの兆候、多臓器不全の可能性を見逃さないよう警戒した。血圧が急激に低下し、頻脈も確認された。

 その姿は、もはやかつての彼ではなくなっている。皮膚はさらに青白くなり、目は真っ赤に充血していた。

 必死の対応が準備されようとしているところへ、一人の女が割り込んできた。
「ねえ、彼、何かあったの?」
「知らないわよ、今朝猫に噛まれたってここに来たんだけど、どこも問題ないって家に返したの。それで今このザマよ。」
「まさか狂犬病とかないわよね?猫でも稀に狂犬病ウイルス持ってることあるのよ」
「それも調べたけど問題なかったの。ちゃんとEIAキットも使ったし、病状の評価も注意を払ったわ。ところであなた医者なの?」
「ごめんなさい、医者じゃないの。でも細菌学者よ、CDCの所属なの。」

 彼女の名はリサ・ボールドウィン、CDC(疾病対策予防センター)の分子生物学者である。伝染病に関する論文作成の調査としてジョージタウン大学病院に来ていた。イェール大学で生物学の学士を取得し、ジョンズ・ホプキンス大学で微生物学の修士を取得している。CDCに入局してからも熱心に研究を行っていた。ただ本当は医者になりたかったらしく、仕事に対する姿勢は、医者ではなく細菌学者であることに彼女なりの意味づけをもたらすものであった。

 猫に噛まれ狂ったように痙攣する患者の姿は、彼女の好奇心を刺激した。新しい研究対象を発見したかのように集中治療室に運ばれるピーターを見つめていた。

 医師たちは彼の血液ガス分析を行い、酸素飽和度を監視し続けた。全身に広がる炎症反応が進行する中、ピーターの容態は刻一刻と悪化していった。

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ワシントンD.C. デュポンサークル
スワンストリートNW
アレックスの自宅
10:00 PM

 アレックスの帰りを待っていた娘のソフィアはひどく怒っていた。彼女にしてみれば約束の夕食をすっぽかされた挙句、話し合いの場から逃げられたのだ。父親の仕事内容は知ってる、膨大な紙束のチェックということだけ。そんなくだらないことを自分より優先されたのだから怒りは収まらない。

「今日パパと一緒にご飯食べるって約束したのに、、嘘つき」
「そんなに責めないで、パパは国のために一生懸命働いてるのよ。そしてそれはあなたのためでもあるの。」
 妻のゼラが慰め説得しようとする。一方で、国のために働いているということ以外に夫を擁護する要素がなかなか出てこないのだ。今日は土曜日だ。おまけに子どもは夏休みの期間である。ゼラにとって休日に娘と遊んでくれる夫がいないのは死活問題だ。
 夫がNSA職員といっても裕福なのではない、ゼラも週に3日はパートタイムで働いている。その上で家事も子守りもやるというのは酷なものである。
 そして妻にも娘にも不満を募らせる夫は今、サイバー空間のネズミ取りに夢中だ。

「今日はもう寝ましょ」
 ソフィアが寝付くまでスマホでネットサーフィンをしていた。偶然画面に映った猫が目に入り思い出したように言った。
「来週あなたの誕生日でしょ?猫欲しがってたわよね?どう?飼ってもいいわよ」
 もうすぐ寝付くところだった子供の目が急に開いた。
「ほんとに!?パパもいいって言っててくれるかな?」
「きっと許してくれるわ。明日どんな猫がいるか一緒に見に行きましょ」
「やった!」
「じゃあ今日はもう寝て、」

 一般的な家庭で見られる母と子の暖かい会話である。

 子供というのは、嬉しいことが起こるとネガティブなことを忘れ、無邪気に楽しそうに振る舞う。だが彼らが騙されやすいというわけではない。むしろ、子供は日常的に大人を観察している。彼らは社会的情報処理や認知的評価を通じて、誰が信用に値し、誰がそうでないかを判断し、一貫性のある行動を示す大人を信頼するようになる。そして信頼に足ると判断した大人の行動や価値観を模倣するのだ。この模倣は、バンデューラの社会学習理論で、観察学習として知られている。
おそらくソフィアも同様の手法でアレックスを捉えている。
 こうして、子供は社会性を備えた知的動物へと成長していくのだ。

 窓から黒い野良猫が顔を覗かせていた。猫の毛の色で運勢を決める科学的な根拠はないが、明らかにこの家族にとっては不吉な予兆であろう。暗い未来が感じられる。それを打開する救世主となれるのはアレックスだけなのだ。

 娘のスマホに送られたアレックスのメッセージは未読のままであった。

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ドイツ ハンブルグ郊外 
早朝

 暗雲が低く垂れこめ、降りしきる雨が街を覆い尽くす中、遠くから雷鳴が轟き、稲妻が空を貫く。

 古びた民家の中に白髪の老人が窓辺で、暗闇と稲妻に照らされた景色を見つめていた。その光景は、彼が何かを深く考え込んでいる様子を物語っていた。

 そばでラジオのニュースが流れていた。
「昨日アメリカ時間で午後6時ごろ国家重要施設NSAがハッキングされた疑いがあることを当該政府が先ほど発表しました。このことによる被害は今のところ出ていないとのことです。関連性は分かりませんが何者かによって一匹の猫が送り込まれたという報告もありました」
「やつだ」
 老人が暗い空を見上げていう
「いよいよか、、。これは人類がかつて冒した過ち、いや今も冒しているのかもしれないが、暴漢に立ち向かうなんて単純なことじゃない、その過ちに正面から向き合わなければならん時が来たのだ」
 彼の瞳には過去の記憶と未来の希望と絶望が映し出されているようだった。

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 世界を大きな闇が包もうとしていた。絶望を感じさせるほどの巨大な闇だ。

 しかし歴史を振り返れば、いかなる闇に直面しようと人類はそれを打ち破ってきたのだ。これから先もどのような脅威が襲って来ようと、必ずそれに立ち向かい、勝利を得るだろう。

 だが油断してはならない。相手は我々のすぐ背後で、好機をじっと伺っているのだ。
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