第1話

文字数 809文字

「うぇ、苦い」

ビールをオレンジジュースで割ったら
邪道だと祐樹に笑われた。


私はアルコールが苦手だ。



「この酒はイマイチだな。本物の銘酒は水に近いんだ。
まあ、玲香に言っても分からないか」

呑兵衛の祐樹が偉そうに宣う。



毎晩、数種類を家飲み用に買って帰る。

日本酒にウイスキー、焼酎、ビール、泡盛、テキーラと何でもござれで節操がない。

休肝日は無いに等しい。



それが、ある日とつぜん飲めなくなった。

飲んだ途端、
「気持ち悪い」と流し台に駆け寄った。

こんなことは初めてだ。


次の晩も一口飲みかけ、
「不味い」と吐き出した。



「氷を入れたら飲めるかな。

いや、熱燗ならイケるかもしれない。

違う、もっと濃厚なヤツが良かった」


手を変え品を変えチャレンジするが、なぜか飲めない。

不貞腐れ、夕飯も食べずに寝てしまった。




とうとう布団から出て来なくなった祐樹に

優しい声で提案してみる。


「いいじゃない、お酒の味なんか分からなくても」


「……」


ヤバ……
地雷、踏んだ?

とつぜん下戸になるなんて、プライドが許さないっての?
ああ、なんて面倒臭い男……


「もう!だったら病院に行ったらどう?」


「……大丈夫。
必ず今の俺に合う酒があるはず……だ」


大丈夫って何が?

布団の中からスマホでお酒を注文する祐樹に不安しかない。




「ねえ、お好み焼き作ったわよ」

香ばしいソースの焦げる匂いが広がる。
これでもダメ?



「誰が食うか!
酒が飲めるまで何もいらない!」



殆ど病気……
いや、完全に病気だ。



頑固な暴君は籠城を決め込んだ。



廊下には宅配で届いた酒瓶が溢れている。

会社にも行かないで引き籠る夫に気を遣い掃除機も掛けられない。



仕方なく物置の片付けをしていたら、黒っぽい小瓶を見つけた。

踊るような筆書きのラベルが貼ってある。



見覚えあるけど、何て読むのかな?

暫く眺めて、ふと思いついた。



「ねえ、これ……貰ったの冷蔵庫に入れて忘れてたわ」


キラッ!

丸く膨らんだ本丸の奥で目が光った。


「だ……さい」


「は?……ダサい?」


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