記念日の夜 後編

文字数 1,064文字

私たちの、これからの事を、考えてたの。

やっぱり。

やっぱり俺たちは通じ合ってるんだ。

きっと、幸せになれる。

これからの事?

彼女は、また、少し目を伏せた。

俺は心臓の音が周りに聞こえるんじゃないかっていうくらい緊張していた。

お互いが緊張しているのが分かる。

彼女は黙り込んでしまった。


今だ。俺が言うしかない。

でね、
待って、俺から言わせて。
え、
俺も、これからの事、考えてた。
え…。

ごめん、意地悪して。

たぶん、俺たちおんなじこと考えてる。

そっか。そうだよね。よかった。
うん、だから、
だったらやっぱり私に言わせて。
え、
伝えたいの。私の言葉で。
彼女のまっすぐな目。この目をしてる彼女には逆らえない。
わかった。言って。
私たちもう、付き合って5年になるでしょ。
そうだね。
ほんとに、あっという間だったよね。
そうだね。
人の人生ってさ、80年としたら、私たち出会ってから人生の8分の1を過ごしたんだよね。
人生の8分の1か。なるほどね。
あっという間だったけど、すごく長い時間一緒に過ごしてさ、
うん、
なのに私たち何にも変わってない。
そうだね。
変わらなきゃね、そろそろ。
そろそろ、か。
うん。
踏み出さなきゃって、思ってた。
そっか。
もう、5年だもんね。
私たち、同じこと考えてたんだ。
そうだと思う。たぶん。
よかった。ごめんね。
どうして謝るの?
だって、なんだか私が、
せかされた、なんて思ってないよ。
そう。よかった。
俺も、同じこと思ってくれてたって思うと嬉しいよ。
嬉しい、って。なんか。
え?
なんか変なの。
そうかな。
わかんないけど。
いつもサバサバしている彼女が、やっぱり今日は歯切れが悪い。
なんか、変な感じだね。
え?
今日が最後だって思うと。
最後。そう。今日は俺たちの、独身最後の日。
始まりだよ。
え?
俺たちが、新しくスタートを切る日。
…。
だろ?
そうだね。これから、か。
幸せだよ。俺は。
…え?
お前と出会えてよかった。
…。ありがとう。
幸せになろうな。
お互いね。
うん。これから。
急に、店内が暗闇に包まれた。
えっ!?なに!?
いつも冷静な彼女だが、さすがにこれは驚いたようだ。
周りのお客さんたちもざわつき始める。
でも、これは、きっと…。
おめでとうございます。
きゃっ!
突然明かりがつくと、そこにはデザートを手にしたウェイターが立っていた。
サプライズと言ってもここまでしてくれるとは。
やっぱり高いお金を払う価値もあるってもんだな。
びっくりした。なんだったんですか。
大変失礼いたしました。こちら、食後のデザートと、お連れ様からです。
ウェイターは俺が頼んでいた指輪を差し出した。
彼女の答えは、…
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登場人物紹介

恋人と付き合いだしてもう5年。そろそろ結婚して次のステップへ行きたいと思っている。

恋人と付き合いだしてもう5年。5年も付き合ったのに結婚できないのなら、別れた方がいいのではないかと思っている。

レストランのウェイター。

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