新年を迎える

文字数 935文字

 大晦日から正月の初めにかけては、神棚がある12畳ほどの広間にこたつをつくり、そこで食事をしたり、テレビを見て過ごす。来客もみんなそこだ。そのあいだ、台所のテーブルでは基本的に食事をしない。

 さっきテレビを見ていた部屋は、普段使っている茶の間なのだが、神棚の前にすでにこたつなどを準備していても、やはり慣れた茶の間で過ごしてしまう。それでも大晦日の夕食からは、強制的に神棚のある広間に移る。そして、鍋料理をつつく。今回はすき焼きだった。

 テレビ番組は夜通し〈紅白歌合戦〉。夕食が終わってからも、干し芋や栗やみかん、その他さまざまなものを飲み食いして過ごす。子どものころから、大晦日が一番豪勢な日だと思っていた。

 やがて紅白も終わり、〈ゆく年くる年〉で、年が明ける。そうすると、家族間でも畳に手をついて「あけましておめでとうございます」と言いあう。因習臭くとも、それは僕たちに染み付いている。

 そしてまた事務的に、近所の神社に初詣に向かう。それが午前1時から2時にかけてだ。中には0時前後から神社にいる人もいるが、今やそんな初詣をする人はほとんどいない。多くの人は昼になってからだし、初詣自体しない人も増えている。僕ら家族の場合、父親が、社務所で頑張っている地域の役員の人たちに報いようとして、僕らを夜中に連れていくのだ。

 祖母はここ数年、初詣はしていなかったが、今回は妹も行かないと言い出した。しかし両親はそれを咎めなかった。妹は大学生になってから身勝手になった。僕も行かなくて済むなら行かないで家の中にいたかったが、両親を悲しませることになりそうだし、不機嫌にさせたくもなかったので、行くことにした。

 初詣は、新年を迎えたことや、自分が地元に戻ったことを実感させてくれた。だが、それ以上のことはなかった。あいかわらず両親は、僕に対してあたたかい態度なり言葉なりを示すことはなかった。

 そしてその帰りのクルマのバックシートで、両親が就職について、まだ何も言ってこないことに気付いた。実家に着いてからずっと、なんとなく違和感があったのはそのせいだったのだろう。拍子抜けだ。だが、ひと段落したら、明日にでも言ってくるかもしれない。油断はできない。
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