家族

文字数 683文字

 僕の実家は木造平屋だ。家の中には祖母と妹がいて、二人とも茶の間でテレビを見ていた。
「ただいま」僕は荷物を持ったまま戸を開け、二人に挨拶した。
「あんら、おかえり」祖母は目を丸くして言った。
「おかえり」妹は僕の方を見て呟いたあと、すぐにテレビに視線を戻した。

 僕は家の奥の自分の部屋に行って荷物を下ろし、それから仏壇と神棚に手を合わせた。これは田舎のしきたりのひとつだ。久しぶりに訪問した場合、他人の家であれ実家であれ、仏壇や神棚に手を合わせる。大学の友人のほとんどは、こういう習慣がないとのことだった。自分がいかに因習にとらわれた田舎育ちであるかを、大学に行って初めて知った。

 友人たちのようにパリピになりきれないのは、そのせいだと僕は考えていた。僕みたいな人間は、おそらく今の日本の中では滅びゆく種族なのだろう。その中でも僕は物静かで気弱なのを自覚している。このままだと、社会でも勝ち残れず、結婚にも踏み切れないだろう。東京に合わない僕がわざわざ東京に行って、苦しい思いをしている。愚かしく悲惨なことだ。

 父親も交えて4人でテレビを見ているうちに、母親が帰ってきた。母親とはそれなりにあたたかい挨拶を交わした。でも、たまたま母親の機嫌がいいだけのようにも思えた。母親はそのまま台所で夕食をつくりはじめた。そう、田舎では家の中で働くのは嫁ばかり、なのだ。しばらくして妹が立ち上がり、手伝いに行った。祖母は腰が曲がり、歩くのも困難な状態のため、こたつにくっついたままだ。

 やがて夕食の支度が整ったという声が聞こえ、僕たちはおもむろに立ち上がった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み