『告白が逃げたあの日をもう一度』プロットと粗筋

文字数 1,480文字

起)周囲からおばあちゃんと呼ばれるようになってからも元気はつらつ、独り身でも健康体で暮らしてこられた榊原純子(さかきばらすみこ)だったが、齢八十を過ぎ、病の症状がちらほら出るようになった。昔なら平気だった軽い打ち身や風邪がこじれ、寝込むことも。
 時々、ふと人生を振り返ってみて、幸せだったと思えるけれども、一番後悔していることが頭に浮かびもする。それは中学二年のとき、柏葉亨(かしわばとおる)というクラスの男子を好きになったけれども、同じく柏葉を好きになった友達の富岡要子(とみおかようこ)に遠慮して告白はおろか、何ら積極的なアプローチはしなかったこと。もしあのとき、友情より恋愛を選んでいたら。

承)ある夜、自宅で一人きりのときに激しい痛みに襲われ、これでこの世ともお別れかという思いがよぎった刹那、意識が白い空間に溶けて、次に目を開けると、七十年ほど前の世界、中学二年の自分の身体の中に戻っていた。精神だけタイムスリップした? しかも日付は、富岡が柏葉に告白する一週間前というタイミング。
 富岡が告白した結果がどうだったか、タイムスリップした純子はもちろん知っている。それは――
『柏葉自身は返事を保留するも、翌日、彼の親友である東沢幹彦(ひがしざわみきひこ)がどこからか話を聞きつけ、お試し期間としてグループデートでもしてみないかと提案。周りのそそのかしもあり、三対三のグループデートと相成った。そのとき純子も女子側の一人として着いて行く羽目になり、東沢と組まされたのだが、どうやら東沢は榊原の柏葉に対する想いに気付いている節があった。
 三回目のグループデートで、はしゃぎすぎた富岡が危うく池に落ちそうになるも、柏葉が咄嗟に手を掴んで無事。だが、柏葉は右手の腱を傷めてしまった。柏葉はピアノを習っており、将来を嘱望される才能の持ち主なのだが、このときの怪我が元で大事なコンクールを棒に振ってしまう。
 結局、富岡との仲も自然消滅となる。だからといって、榊原がじゃあ私がと告白する訳にも行かず、何もないまま、卒業を迎えてしまった。』
 ――というものだった。

転)果たしてこのときの判断でよかったのか。二度目の機会を与えられた形になる純子は、苦しみ悩んだ末に、柏葉のピアニストとしての将来のためにという理由付けをし、心を決めた。まずは富岡相手に、私も柏葉が好きだという宣言をする。正々堂々、競おう。
 そして、柏葉に告白する。彼の返事は。

結)再び、現在。体調がよくなり、ベッドの上で身体を起こす純子。彼女のそばにいるのは? 部屋にはピアノの奏でる曲が柔らかに流れていた。


あらすじ)
 八十歳半ばを目前にして体調を崩すことが増え、年齢をいよいよ意識し始めた榊原純子。独身を通したとは言え、おおむね幸せな人生を送ってきた。ただ、一つ心残りがあるとしたら、中学生のとき、好きになった男子――ピアノが得意でクールな柏葉亨――に告白せずに終わったこと。告白しなかったのは仲のいい女友達の富岡に譲ったからだったが、柏葉と富岡の仲は進展せず、それどころか柏葉が腕に怪我を負う遠因になった。結果、柏葉はピアニストの道をあきらめていた。そしてそのことが女性不信となって影響を及ぼしたのかどうか、柏葉もずっと独り身のままらしい。
 もしあのとき自分も告白していれば、OKをもらえるかどうかはともかくとして、柏葉の怪我はなかったかもしれない。
 数日後、急な激しい痛みに見舞われた純子は死を覚悟する。と同時に、強い後悔の念も沸き起こり……気が付くと、中学生時代の自分自身に意識だけ(?)がタイムスリップしていた。しかも日付は、富岡が柏葉に告白する一週間前。今ならやり直せる?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み