第3話 「運命」

文字数 595文字

「面接」は、いつのまにか時間切れとなった。久しぶりの充実した会話に、私はもう真壁さんのとりこになっていた。
 こんなに知的な方と毎日お話したい……。
 そう思った私は、思い切って彼に尋ねた。
「真壁さんは、専業主婦希望ですか」
「そうです」
 彼はコーヒーを静かにすすりながら答えた。
「妻になる女性には、自宅で僕の帰りを待っていてほしい。僕は手料理を毎日食べたいんです。なにしろ独身生活で、インスタントやお弁当、レストラン通いには飽き飽きしましたから」
 私は、結婚後も仕事を続けたかった。離婚した母が、経済力がないことでとても苦労していたのを見ていたので、専業主婦になり収入がなくなるのは考えられなかった。それに、今の職場は人間関係も風通しもよくて、できれば一生勤めたいのだ。
「都さんは、お仕事を続けたいのですか?」
「ええ、まあ……」
「そうですか、しかし僕は都さんともう一度お会いしたいし、もっとよく知りたい。気が早いかもしれませんが、マンションを購入しますから、今度物件を見に行きましょう」
「えっ!」
「こういうことはご縁です。早い方がいい。僕はね、都さん。あなたが……知的なあなたが好きになりました」
 真壁さんは、真剣な顔つきで、私を見た。そして、コーヒーカップに添えた私の手に触れる。
 思わず引っ込めようとする私を笑顔で制して、低い声で彼はささやいた。
「あなたが、好きです。運命を感じますよ……」
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