2 開示
文字数 2,391文字
高度の知性と強固な意志を示し、
爛々 と輝く金色の瞳で知られる種族。
白銀 色の鱗 に覆われた、
強靭で柔軟な身体に恵まれた種族。
巨大で優秀な頭脳を発達させられる、
蛸 のような形態 の種族。
そして何より、銀河系全域の知的種族を悉 く
恭順 させ、統治した最大最強の軍事種族。
古 の時代には神にも擬 えられた、
〝先帝〟種族の生き残りだ。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_8a4af3f26613cff840281c4cf470f274.jpg)
確かにサタンは戦前から戦後にかけて、〝先帝〟種族から
多数の亡命者や避難者、生存者を受け入れており、
事実上の混成種族になっている、という噂もあった。
悪魔に化けた神の原型 から、
自らの教訓を聞けるとは、何と意外で皮肉なことか!
しかし歴史の内幕を知るのに、これほどの好機はない。
『貴方が現皇帝種族の考えや本音を知りたいのなら、
役立つ情報を提供できるかもしれない。
なぜなら私達亡命者は、まさにその行動原因を作った、
軍事的専制による失敗の責任者、生き証人なのだから』
ずいぶんと素直に、失政を認めるんだな。
でも政治の両輪は正当性と権力、綺麗事 だけじゃない。
確か色々な神話でも、神は悪魔より数多く容赦なく、
服 わぬ者達を滅ぼしているはずだ。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_4db165b4813d2dcec517a48fb781f0cf.jpg)
『ただし最初に言っておくけど、
私の後悔は多くの犠牲を出したこと自体にじゃない。
犠牲者よりも沢山の人々を救い、幸せにすることが、
私達の力だけではできなかったことについてなの』
やっぱり厳しい連中だな……でも側近種族が堕落して、
内戦を始めたことについてはどう思っているんだろう。
実際は、彼女達が一部の側近種族と通謀 して、
腐敗種族を淘汰 した、という噂もあるのだが……。
私はそう思いつつも、帝国内戦が人類社会では
ラグナロク、〝神々の黄昏 〟に例 えられることが
多いというのを思い出した。
本来は、それを言うならアポカリプス、
〝黙示録 〟の方が近いのだろうが、
近いからこそ、生々 しすぎて憚 られるのだろう。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_2b5a8340b77e6485f34879a849732763.jpg)
今では人類も最先進種族に昇格したとはいえ、
微妙な話題の振り方には気をつけよう……、
と思っていると、まるで私の心を読んだかのように、
彼女の方からその話を切り出してきた。
『でも〝全種族の発展〟という建国理念を失った種族を、
私達がわざと自滅に誘導したというのは、考え過ぎよ。
もっとも、罪なき種族の犠牲をさらに増やしてまで、
助けることはできなかったのも事実だけどね』
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_5e61f7ddc1033e53ea53d313d3bdea04.jpg)
来たか! 彼女もそれが言いたかったようだ。
『皇帝といえども、全ての臣民の面倒は見られない。
今進んでいる民主化のもとなら、なおさらでしょう?
国民に分け与えられた権限は、自己責任も伴うのよ』
『サタンは歴史の古い種族だけど、
その上に胡坐 をかくことなく、
帝国種族全体の繁栄を願い続けていた。
だから私達も、彼女達を依 り代 に選んだ。
サタンに協力した貴方達は、賢明だった』
そう言いながら、彼女は私をじっと見つめた。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_2a8468c344eaed4f02eda7fac7ef6083.jpg)
その言葉を聞いた私は、背筋 がぞくりとした。
社会を動かす人々は、
社会全体が争い少なく栄えることで、
利益や安全、誇りを得るはずだ。
私が生まれた日本の歴史でも、天下統一後は
刀狩りと武家諸法度の時代になった。
勝手に城を直したり、私戦に及んだりしただけで、
改易 処分や切腹の憂 き目 にあった。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_9f852285054633925dcc7691b908f63f.jpg)
戦禍に乗じて不当な利益を図ろうなどとしていたら、
人類もまた〝不運な巻き添え戦闘被害 〟によって、
滅亡した種族の一つになっていたかもしれない。
何より実際、彼女達のような〝亡命者〟を除けば、
〝先帝〟種族自身でさえも滅びているのだから……。
そんな想像が、脳裏 を過 った。
『幸運な時代に甘えるな……ということですか?』
『そう、技術が進めば社会が変わり、政策も変わり、
その政策が次の技術開発を助けて、文明は発展する。
だけどそうした〝文明の循環 〟を重ねるほど、
技術にできることが増え、政策がすべきことも増えていく』
『政策が変わるには、人々自身の向上が必要になるし、
向上できた人々も、活用できなきゃ居ないのと同じ。
モノの生産と分配、ヒトの向上と活用という
4つの政策のうち、後の方までが大事になっていく。
貴方にはそういった〝文明の潮流 〟も、伝えてほしい』
彼女はなおも私を見据 えて、そう言った。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_cf1e228d52734a90a59a22464a64991b.jpg)
どうやら私も、重責を任 されたようだ。
そういえば、約260年の天下泰平を享受 した
江戸時代末期の人骨は、史上最も貧弱だったともいう。
もしかすると〝サタンの平和 〟が到来したのは、
新帝種族とその友好種族達の、優しい理想の
おかげだけではなかったのかもしれない。
『人々自身の向上と活用?』
『技術が進んで社会活動が省力・複雑化すると、
人々の仕事は加速度的に進歩する技術を使って、
どんな社会を作るか考える、政策に移っていく』
……確かに、個人や集団にできることが増えるほど、
社会全体でどうすべきかの調整が必要になるだろう。
『言われて動くだけでなく、どうすべきかを決めるには、
より高い教育や、それを支える健康が必要。
必要な時は大勢で動けるが、衆知も活かせるように、
政策の広域化と分権化も必要になる。
ほら、人類の歴史でもあったはずよ。
貴方達にも覚えがあるでしょう?』
ああ、そういえば国際政策の理念にもあったな。
〝人間の安全保障〟とか〝平和と協働〟とか……。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_0a319e624c43f5cded9381c8243894c3.jpg)
『技術が低く、食べるだけでやっとの時代に、
資源枯渇や格差拡大が起きた場合、まずは
国民達に領土を広げさせるのが最大の解決策だった。
富を得るための開拓や戦争という技術的政策の中で、
虚弱者・粗暴者・短慮者や時代遅れの組織も
淘汰され、人や制度の問題も〝解決〟した』
『でも、もう少し技術が進んで社会が豊かになると、
富を分けるための経済・社会政策も重要になる。
国力を増す産業投資や犯罪・内乱を防ぐ社会保障は、
技術革新や保健・教育、社会組織の改善にも役立つ。
面白いことに、技術水準こそ違え私達の星間帝国も、
途上種族の歴史と同じ過程 を繰り返していたのよ』
私は反論しようとしたが、できなかった。
彼女達は、そして人類も、現に長年 そうしてきたのだ。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_345c64f875bbbf00e22043eb0186b9dc.jpg)
強靭で柔軟な身体に恵まれた種族。
巨大で優秀な頭脳を発達させられる、
そして何より、銀河系全域の知的種族を
〝先帝〟種族の生き残りだ。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_8a4af3f26613cff840281c4cf470f274.jpg)
確かにサタンは戦前から戦後にかけて、〝先帝〟種族から
多数の亡命者や避難者、生存者を受け入れており、
事実上の混成種族になっている、という噂もあった。
悪魔に化けた神の
自らの教訓を聞けるとは、何と意外で皮肉なことか!
しかし歴史の内幕を知るのに、これほどの好機はない。
『貴方が現皇帝種族の考えや本音を知りたいのなら、
役立つ情報を提供できるかもしれない。
なぜなら私達亡命者は、まさにその行動原因を作った、
軍事的専制による失敗の責任者、生き証人なのだから』
ずいぶんと素直に、失政を認めるんだな。
でも政治の両輪は正当性と権力、
確か色々な神話でも、神は悪魔より数多く容赦なく、
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_4db165b4813d2dcec517a48fb781f0cf.jpg)
『ただし最初に言っておくけど、
私の後悔は多くの犠牲を出したこと自体にじゃない。
犠牲者よりも沢山の人々を救い、幸せにすることが、
私達の力だけではできなかったことについてなの』
やっぱり厳しい連中だな……でも側近種族が堕落して、
内戦を始めたことについてはどう思っているんだろう。
実際は、彼女達が一部の側近種族と
腐敗種族を
私はそう思いつつも、帝国内戦が人類社会では
ラグナロク、〝神々の
多いというのを思い出した。
本来は、それを言うならアポカリプス、
〝
近いからこそ、
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_2b5a8340b77e6485f34879a849732763.jpg)
今では人類も最先進種族に昇格したとはいえ、
微妙な話題の振り方には気をつけよう……、
と思っていると、まるで私の心を読んだかのように、
彼女の方からその話を切り出してきた。
『でも〝全種族の発展〟という建国理念を失った種族を、
私達がわざと自滅に誘導したというのは、考え過ぎよ。
もっとも、罪なき種族の犠牲をさらに増やしてまで、
助けることはできなかったのも事実だけどね』
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_5e61f7ddc1033e53ea53d313d3bdea04.jpg)
来たか! 彼女もそれが言いたかったようだ。
『皇帝といえども、全ての臣民の面倒は見られない。
今進んでいる民主化のもとなら、なおさらでしょう?
国民に分け与えられた権限は、自己責任も伴うのよ』
『サタンは歴史の古い種族だけど、
その上に
帝国種族全体の繁栄を願い続けていた。
だから私達も、彼女達を
サタンに協力した貴方達は、賢明だった』
そう言いながら、彼女は私をじっと見つめた。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_2a8468c344eaed4f02eda7fac7ef6083.jpg)
その言葉を聞いた私は、
社会を動かす人々は、
社会全体が争い少なく栄えることで、
利益や安全、誇りを得るはずだ。
私が生まれた日本の歴史でも、天下統一後は
刀狩りと武家諸法度の時代になった。
勝手に城を直したり、私戦に及んだりしただけで、
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_9f852285054633925dcc7691b908f63f.jpg)
戦禍に乗じて不当な利益を図ろうなどとしていたら、
人類もまた〝不運な
滅亡した種族の一つになっていたかもしれない。
何より実際、彼女達のような〝亡命者〟を除けば、
〝先帝〟種族自身でさえも滅びているのだから……。
そんな想像が、
『幸運な時代に甘えるな……ということですか?』
『そう、技術が進めば社会が変わり、政策も変わり、
その政策が次の技術開発を助けて、文明は発展する。
だけどそうした〝文明の
技術にできることが増え、政策がすべきことも増えていく』
『政策が変わるには、人々自身の向上が必要になるし、
向上できた人々も、活用できなきゃ居ないのと同じ。
モノの生産と分配、ヒトの向上と活用という
4つの政策のうち、後の方までが大事になっていく。
貴方にはそういった〝文明の
彼女はなおも私を
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_cf1e228d52734a90a59a22464a64991b.jpg)
どうやら私も、重責を
そういえば、約260年の天下泰平を
江戸時代末期の人骨は、史上最も貧弱だったともいう。
もしかすると〝
新帝種族とその友好種族達の、優しい理想の
おかげだけではなかったのかもしれない。
『人々自身の向上と活用?』
『技術が進んで社会活動が省力・複雑化すると、
人々の仕事は加速度的に進歩する技術を使って、
どんな社会を作るか考える、政策に移っていく』
……確かに、個人や集団にできることが増えるほど、
社会全体でどうすべきかの調整が必要になるだろう。
『言われて動くだけでなく、どうすべきかを決めるには、
より高い教育や、それを支える健康が必要。
必要な時は大勢で動けるが、衆知も活かせるように、
政策の広域化と分権化も必要になる。
ほら、人類の歴史でもあったはずよ。
貴方達にも覚えがあるでしょう?』
ああ、そういえば国際政策の理念にもあったな。
〝人間の安全保障〟とか〝平和と協働〟とか……。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk_02/thumb_0a319e624c43f5cded9381c8243894c3.jpg)
『技術が低く、食べるだけでやっとの時代に、
資源枯渇や格差拡大が起きた場合、まずは
国民達に領土を広げさせるのが最大の解決策だった。
富を得るための開拓や戦争という技術的政策の中で、
虚弱者・粗暴者・短慮者や時代遅れの組織も
淘汰され、人や制度の問題も〝解決〟した』
『でも、もう少し技術が進んで社会が豊かになると、
富を分けるための経済・社会政策も重要になる。
国力を増す産業投資や犯罪・内乱を防ぐ社会保障は、
技術革新や保健・教育、社会組織の改善にも役立つ。
面白いことに、技術水準こそ違え私達の星間帝国も、
途上種族の歴史と同じ
私は反論しようとしたが、できなかった。
彼女達は、そして人類も、現に
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