第1話

文字数 1,387文字

 むかしむかし、ある所にお爺さんとお婆さんが住んでいました。ある日、お爺さんは山に芝刈りに、お婆さんは川に洗濯に出かけました。…。
 これは、桃太郎の書き出しである。
 私たちが小さい頃は、お爺さん、お婆さんたちのお年寄りは総じて「いい人」のイメージだった。
 ところが最近は、お年寄りの「如何なものか?」という行動が、ニュースやネットに氾濫している。「高齢者」に「割り込み」「暴言」「暴力」「逆走」「ひき逃げ」などを掛けて検索すると、出るは、出るはでその数や内容にただ驚くばかりである。

 先日、東北自動車道のあるサービスエリアで割り込まれる体験した。焼き立てのパンを売る売店に入口と書かれた所からベルト・パーテイションでレジまで列を作るように誘導されていた。レジを終わった所には出口と書かれていた。
 そこの出口から約20数名の小母(おば)さんとお婆さんたちの集団がレジに殺到した。
 「あら? ここ出口かしら?」
 ひとりの年配の婦人が気が付いた。
 「いいんじゃない? ねぇ、皆さん、いいわよねぇ。」
 「ホントにどうも済みませんねぇ。」
 「どういたしまして。」
と、何と驚いたことに自分たちの仲間同士で謝り合っている。列に並んでいる人たちに謝る、割り込む許しを請うのではないのだ。
 見ていて異様な光景だった。
 この人たちの背景には、加齢によって脳の理性を(つかさど)る部分が老化し、「自分の言動が周囲にどう見られるか」といった高度な判断ができなくなっていることが影響しているのだろう。きっと「自分たちはちゃんと謝ったからこれでいいのだ」とマジで思っているように見えた。
 加齢により65歳以上になると、個人差はあるが、大なり小なり認知症の症状が出る。
 認知症には大きく分けて4種類ある。
(1)アルツハイマー型認知症
 認知症の中で最も多く、約 67.6% を占める。脳の海馬(かいば)頭頂葉(とうちょうよう)にアミロイドβなど「脳のごみ」と呼ばれる不要な蛋白質が溜まってしまうことで起こる。主な症状は「記憶障害」である。
(2)血管性認知症
 脳梗塞や脳卒中、くも膜下出血など脳の疾患が原因で発症し、約 19.5% を占める。主な症状は「記憶障害」や「判断力障害」、「感情失禁」などで、損傷した脳の部位によって出現する症状は変わる。
(3)レビー小体型認知症
 脳の神経細胞に特殊な蛋白質、レビー小体が特に視覚を司る後頭葉にできることで起こる。約 4.3% を占め、主な症状は「幻視」である。
(4)前頭側頭型認知症
 脳の約4割を占める前頭葉と側頭葉が萎縮し、血液の流れが滞ることで発症する。全体の約 1.0% であるが、主な症状は「人格の変化や異常行動」で、認知症のなかで唯一、難病指定を受けている。
 厚労省によれば、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症を発症すると推計されている。犬も歩けば認知症に出会う、大変な時代が来るのだ。ふ~。

 さて写真は行きつけのお好み焼き屋の焼きそば入りのお好み焼きである。

 常連で最高齢の88歳のお婆さんの定番の注文だ。大将はお皿にお好み焼きを盛る前に、お皿の前面に刷毛(はけ)でタレを塗っていた。
 「彼女はお好み焼きの両面にタレが染みていないと気が済まないから、いつもこうしているんです。」
とのことだった。年寄りのこだわりは、認知症の症状とは明らかに違うと思った。

 んだの。
(2023年10月)

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