８月１４日と１７日

　電話が鳴ってる……。

　枕もとに置いてたスマホを手に取って相手も見ずに出たら。

『誰よ、オマエ』

「誰、って……野々花だよ、」

　掠(かす)れた声を出した瞬間に激しく咳き込んだのが聞こえたんだろう。

『大丈夫かよ、病院行ってきた？』

　タスクだった、何で？！

「行った、夏風邪だって、熱はもうないから月曜には行ける。今日は休んじゃってごめん」

『本当によ、何休んでんだよ、ビックリしたわ！　しっかし、すげえ声だな、野々にかけたはずなのに男が出たのかと』

　悪びれずにゲラゲラ笑うタスクに。

「仕方ないっしょや、あーしんどっ…」

　声を出す度に咳が出る。

　朝起きたら熱があって、あかりんにだけその連絡をしておいたんだ、今日は休むって。

　だからまさかタスクから連絡来るなんて思ってもなくて。

『あ、悪かったな。後は寝とけ！　月曜日もしんどいなら休めよ、無理して来んな』

　……、何だよ、タスクのくせに優しいじゃん。

「寝るわ、とっとと治して行くわ、月曜日。一人で寝てんのも寂しいし」

『だな、オレもつまんねえから早く来いや、待ってっから！　したっけ』

　つまんねえから、何だかそれが嬉しくて。

　私がいないからつまんないって言ってくれてる、そんな気がして。

「ん、したっけ、月曜日にね」

　そう言ったものの。

　どっちから電話切ったらいいんだろう？

　お互いにわからないみたい。

　私は私でタスクが切ってくれるの待っていたら。

『野々から切れや』

　痺れを切らしたかのようなタスクの呟きにクスッと笑ってしまって。

「タスクからかけてきたんだからそっちからでしょや」

『したら、せーので』

「わかった、せーので」

「『せーの』」

　そう言ったくせにお互いに切ることは無くて、その後同じこと３回繰り返してからようやく電話を切った。

　だって名残惜しかったから。

　私のことを心配してくれたタスクの声が優しくてもっともっと聞いていたかったから。




　月曜日３日ぶりに顔を合わせたタスクが。

「舐めとけ」

　ポンッと私に投げてよこしたのはのど飴。

「ありがとね」

「おう」

　ねえ、タスク、私はまだあんたが好きみたい。

　この夏が終わるまでに諦めてしまいたいのに。

　タスクのくせに、じゃない。

　タスクは私にはずっと優しいから……。