左足

文字数 655文字

体育祭、流血、教室。
これが私の16歳。
左足が疼く。

タジマはバカだ。
タジマが体育祭のバスケの試合の最中、恋するヨシダさんの姿を目で追って上の空の様子を私は見ていて、タジマはバカだからそれで右手を怪我した。血がぽたぽた。
ほんっとバカ。
ひとりでふらふら、保健室にいくタジマ。
「ちょっと心配だから見てくるね」
学級委員の使命、でも私は春からずっとタジマを見ていた。
ヨシダさんを見つめるタジマの恋する目を。

保健室から出るタジマ、教室に入るタジマ。

そのまま教室のドアのガラス越しに観察していたら、ヨシダさんの机、椅子に座って、ヨシダさんの机の中を物色し、化粧ポーチを見つけて開け、あろうことかリップクリームを塗り始めた。

恍惚として。

なんてバカなんだ。
マジキッモ。

だから、それを伝えてあげないとと思った。

教室のドアを勢いよく開けた。
振り向いたタジマは固まっていた。
「…タジマ、なにしてんの?」
タジマは明らかに狼狽していた。
「あ、え、あの、怪我したからあの」
包帯で巻かれた右手を私に見せようとして、タジマは左手に持っていたリップクリームを机に落として、それはころころ、床に転がっていった。
「あっ」
転がるリップクリームを床に四つん這いになり追いかけたタジマ。
リップクリームは私のスニーカーにぶつかった。
タジマは私を見上げる。
体操服姿で、四つん這いで、ほんとキモい。
「変態」
私はタジマの包帯で巻かれた右手を力いっぱい、左足で踏みつけた。
タジマは無言で悶えていた。
それがこの上なく気持ちよかった。

これが私の16歳。
体育祭、流血、教室。
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