第2話 コンカフェ偵察

文字数 2,613文字

「千秋(ちあき)〜、遊ぼ〜ぜ〜」
「煌(こう)く〜ん、ちょっと待って〜」
 小学生の男の子が元気よく道路から大声を上げ、気弱な男の子を呼び出した。
 これが俺、黒住煌(くろずみ こう)の小学生の時の日常だった。
 幼馴染の千秋をいつも連れ回していた。
 小学生の高学年の時、千秋をからかう奴らが許せなかった煌は一人前に出てかばった。
 もともと血の気が多かった煌の噂はあっという間に広がり、中学生になった時誰も寄り付かなくなっていた。
 それを気にグレ始めたが千秋は変わらず接してくれた。千秋が煌を救ってくれた。
 気がつけば煌は千秋を目で追うようになっていた。友達以上の目で千秋を見ていたことに気がついた。
 千秋と同じ高校に入るために煌は必死に勉強した。
 無事、千秋と同じ高校に入学した煌は告白をして付き合い始めた。
 一緒に入れなかった中学生の頃の時間を取り戻すように、同じクラスになった二人は同じ時を過ごした。
 しかし、秋を迎えた頃、くだらない喧嘩をして、二人は別れた。
 別れ話を切り出したのは煌だったが、それが心残りだった。
 一緒のバスケ部に入っていたが千秋は冬に入る前に部活をやめた。
 冬休みを迎えやっと冷静に慣れた煌は千秋と仲直りしたが復縁はできなかった。
 二年生になったらもう一度、千秋と付き合うんだと復縁を諦めてなかった煌。
 春休み中。
 学校でバスケ部をしていた煌に友達の長谷川樹(はせがわ いつき)が補充したドリンクを投げてくる。
「煌、ほら」
 樹は学校一のイケメンともてはやされてはいる真面目ぶったチャラ男だ。
「ああ、ありがとう」
 礼を言いながら片手で受け取り、一気にドリンクを飲み込んだ。
 同じように一口のんだ樹は片手で汗を拭いながらいつもの軽口を叩く。
「それは香織が入れてくれたんだぞ。礼なら香織に言わないと……おっと、いたいた。香織、いつもありがとう」
 そう言っていつもの笑顔を香織に向ける。
 自分の一番かっこいい表情をわかっている樹。
 香織と呼ばれたたった一人の女子マネージャーはペコっと軽く礼だけをして他の部員にドリンクを渡していた。
 煌はその笑顔を自信たっぷりに見せる樹の態度が苦手だった。
 ただそれでも唯一煌が千秋が付き合ってたことを知る人物で、煌の恋愛対象が男性だということを知っている人物だ。
「おい。その自信満々な笑いやめろ」
「香織と煌ぐらいだよ。なんの反応も示さないのは」
「黙れ……殺すぞ」
 煌の態度に慣れている樹は隣に並び、耳打ちする。
「千秋のバイト先見つけた」
 思ってもいない言葉に煌はあからさまに動揺した。
 女とよく遊んでいる樹なら頼めるかもと相談した結果、快く引き受けてくれた。
 女子の情報網は便利だと思いつつも、まさかこんなに早く見つかるとは思わなかった。

 数日後。
 煌は樹と一緒に、千秋の働くコンカフェに向かった。 
「なんで僕も一緒に」
「まだ本当かどうかわかんないだろ」
「ほら。写真」
 そう言って見せてくる働いてる千秋の写真。
「てめー、なんでお前がそんな写真。さっさと消せ!お前のみたいなやつのスマホに千秋の写真が入ってるのが許せない!消せ!この」
 強引に奪おうとする煌に樹は言う。
「情報収集したんだから写真ぐらいは別に普通だろ。ってかそもそも、三人で遊んだ写真なんていっぱいあるのに」
「これは千秋しか写ってないだろ!それにお前みたいなロクでもない男が持ってるのが不快だ」
「僕は狙ってないよ」
「カンケーねぇよ。……俺はまだ一度も見たことないのに」
 一悶着終えた二人は千秋がバイトしているというコンカフェを目指し歩く。
 客引きのメンドさんと流れるように連絡先を交換する樹をよそに目的の店についた。
 ――ここが千秋の働いているコンカフェ。
 唾を飲みビルを見上げる。
 普段来ないような縁もゆかりも無い場所。煌が知らない千秋の姿がここにはある。
 そんな不安と緊張が柄にもなく煌を襲う。
 そんな煌の前を二人の生徒が後ろから横切っていく。
「ねねー。ここ評判なんだって〜。はじめてだよ!こんなところ。香織ちゃん!緊張するね!楽しみだね〜」
「うん。そーだね。咲葵、あまり浮かれすぎないで」
 初めて休みの日に香織とあった。
 相変わらずの無表情で、一瞬目を合わせただけで二人で中に入っていく。
 そんな煌に声をかけてくる樹。
「ねえ、今のって香織?」
「ああ」
「香織ってこんなところ来るんだ」
「友達の付き添いみたいな感じだったが、」
「僕とおな」
「ああ?」
 余計なことは言うなよという意味も込めて威嚇する。
 中に入ると早速、千秋が出迎えてくれた。
「いらっしゃぁぁあああああ、煌!なんで!」
 盛大に出迎えてくれたおかげで煌は皆の注目を浴びながら来店することになった。
 身長が150センチにも満たない千秋は、可愛いい男の子として真面目に働いていた。
 煌は写真ではない実物の千秋をしっかり確認して深く頷く。
 そんな姿を見て樹はジュースをおいてから問いかける。
「満足か?」
「ああ。……この店はちゃんと千秋の魅力をわかっているみてぇーだ」
 鋭い目つきで千秋を凝視する煌にどうしても注目が集まる。
 無理もない。
 二人共かなり容姿が整っているからだ。
 他のお客さん、特に女性の目線がチラチラと集まっていた。
 そんな女性に笑顔を向ける樹。
 煌は大正的に鋭い目つきで睨みつけた。
 そんなことをしていると中から出てきた店のオーナーが二人の前に現れて名刺を差し出した。
 二人をスカウトしたい様子のオーナーだったが、とある女性の声が煌の意識を奪う。
「え〜めっちゃかわいい!ね、超かわいい!!めちゃくちゃ可愛い!香織ちゃん!お人形さんみたいだね」
「咲葵、落ち着いて」
 そんなお客さんの声に煌が眼の前のオーナーをどかしながら立ち上がる。
「おい。おめー」
「落ち着いて。あれが営業だから」
 樹の声に落ち着き保っている煌だが、人を殺しそうな殺意を向けている。
 香織は煌の殺意に気づいているようだが、となりの咲葵と呼ばれる女の子は全く気が付かない。
「すすすす、すみません〜。ご、ごゆっくり〜」
 オーナーは煌の勘違いしたようでそそくさとその場をあとにした。
 そんな態度に煌は今更ながらオーナーの存在を思い出す。
「ああ。で、なんだったんだコレ」
 そう言って煌は名刺を持って樹に問いかけた。
「いや。特に何もなかったよ」
 樹は呆れ笑いを浮かべることしかできなかった。
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